67 ひとりダンジョン
ブクマありがとうございます。
深夜にやっと帰宅した。
国境から自国に入ってからはカトリーヌが至る所に設置済みの魔法陣へ向かってそこからは来たとき同様、何度か魔法陣を経由してカトリーヌの屋敷まで帰ってきた。
ぐったりとしながらレブと歩いて帰っていた。
「ひとりで帰れるよ」
「いえ、ライアン様に報告しなければいけませんので」
「明日でいいんじゃない?寝てるでしょ、普通。じゃなきゃどこかに遊びに行ってるんじゃない?仕事は明日……もう今日か、休みなんだし」
「いえ、きっとお待ちです」
最ダンの横の路地から階段を上り自分の部屋のドアを開けるとライアンの部屋のドアが開き彼が顔を出した。
ホントにいたし、起きてたよ。
若干の気持ち悪さと、心配してくれてたのかもという思いが交差しつつ、一応レブが報告するのを一緒に聞いていた。
「ケルベロスは四体いたのか、それをお前達だけで殺ったのか?」
「はい、ですがユキ様がほとんどお一人で二体倒されました」
「あれはケイとレブが始めに火の魔術で弱らせくれてたからだよ」
二体目はだいぶんヨロヨロだったし。
「その後にまたケルベロス一体と戦ったのはほとんどお一人です。これは主も褒めておいででしたから」
「服装が変わってるな、何があった?」
「ケルベロスがやったの」
人の服装覚えるならもっと自分の事に構えばいいのに。……あぁ、女よけだっけ?それってまるでちゃんとした格好をしていたらモテて困るって言ってるみたい。自意識過剰なんじゃない?
「そうそう、レジナルドがライアンに、オレはちゃんと親切だったって言っとけって」
「なんだよそれは」
レブが詳しく話だした所で私は眠くなり先に失礼する事にした。
「ごめん、もう寝る。疲れた……おやすみなさい」
ライアンは軽く頷き、レブが頭を下げるのを確認すると自分の部屋に入りベットに倒れ込んだ。
今日こそは買い物にいくぞ。
目覚めた時に固く決意したのにベットから起き上がる前にドアを叩く音がする。しかもシャワールームからだ。
「ユキ、起きろ。今日はお前のレベルを確認するぞ」
なぜそこから起こす!そして今日は絶対に買い物に行くの!
私を起こした後、シャワーを使う音がする。そっと気づかれないように起き上がりワンピースに着替えた。今のうちに出て行けば気づかれまい。
ゆっくりとドアノブを回して音を立てないように廊下へ出た。軋む廊下を出来るだけ静かに進み階段へ出る。
ここまで来れば大丈夫だろう。
ホッとして階段を下り路地を抜けた所でレブが立っていた。
「………………」
「おはようございます、ユキ様」
ニッコリ笑うレブが段々と憎たらしくなってきた。
「今日は嫌よ、最後の休みなのよ!」
「私はライアン様に伝言を伝えに来ただけですが……」
「なんだ、良かった。やっとライアンから逃げ出したとこだったの」
「それはお気の毒です。申し訳ございません」
そう言うとレブが私の腕を掴んだ。
「カトリーヌ様からの伝言です」
「な、何!?ライアンにでしょ?」
「はい、ユキ様のレベルを確認しろと、ですからユキ様は今日はダンジョンに行って頂かなくてはいけませんので」
「ライアンに伝言でしょ、私に命令が出た訳じゃないわ」
「ですが、ライアン様がユキ様を捕まえろと今そこで私に言ってらしゃいますので」
振り返るとライアンがまだ濡れた髪で階段を下りてくるところだった。
「逃げるなよ、オレだって面倒なんだから」
「レベルなんて別に今わからなくてもいいじゃない。次の休みにやるから見逃してよ」
初めての仕事休みを全て奪われるのは嫌だ。必死にライアンに頼み込んだ。
「オレは別に構わないぜ。だけどこのままじゃ給料の査定が出来ない。せっかくマルコさんがよく働くユキが研修の給料のままじゃ可哀想だから査定してやってくれって、カトリーヌを説得してくれた事を無駄にするがな」
「え?マルコさんが……」
そう言われて断れる訳がない。
「わかったわよ……着替えてくる」
ガックリと項垂れ部屋に戻ると仕事用の服に着替え待機室に向かった。
そこでは既にライアンが待ち構え私にベルトを渡して来た。
クレジットカードのような金属のカードを渡され、それをいつもレベル認定するためのプレートに乗せタッチパネルの上部にはめ込まれた小さな水晶のようなところに血を垂らせるとキンッと金属音がした。これでこのカードは私の物になった。
「あまり初級には行ってないから地図は覚えてないだろ」
どうせ記憶力が悪いですよ。
「私も確認次第知らせろと言われておりますのでここで待機しております。どこまで行けるか楽しみですね」
レブも見物していくらしい。
一緒に戦った事のある二人には大体の私のレベル把握出来ているだろうが、実際に認定される事を私も少しは楽しみになって来た。給料に響くのだ、頑張らなくては。
自分の『所在発信用魔石』をぐっと握り起動させると初級用のダンジョンのドアを開けた。自分の為にここからダンジョンへ行くのは初めてだ。
「ひとりで行かなきゃ正確なレベルはわからんからな、とりあえず行って来い。地図は見ててやるよ」
まさか救助を要請する事はないだろうけどこれも決まりだ。
ライアンに送られ魔法陣が仄かに光ると一瞬真っ暗になったが明かりの魔石で見えるようになった。
ちょっと緊張しているが大丈夫だろう。だって私はケルベロスだって倒したんだから。
初級は楽勝だろう、問題は中級に入ってからだな。オークやグールが集団で現れたら危険度は増す。その時が頑張りどころだな。
いつもの癖でダンジョン内はつい走って移動してしまう。最初に遭遇したのはスライムだったので飛び越えると先を急いだ。倒す必要はない、このダンジョンをクリアすればいいんだから。
ゴブリンに会っても動揺することなく次々と倒し順調に進んで行った。
「なんでそこ……チッ!いつになったら終わるんだよ!」
頭に中にライアンがイライラしている声が聞こえる。あれから三時間ほどたったが、私はまだレベル5にいた。普通の駆け出しの冒険者なら既に初級は終わっている頃だ。
「話しかけて来ないで、わからなくなっちゃうじゃない!」
「話そうが話すまいがお前の方向音痴は治らん!一体どうゆう頭の構造してんだ!あ!だからそっちじゃ、クソ、イラつく!」
魔物は問題なく倒せるがどうにも迷宮から抜け出せない。
初級の迷宮は最初の方は基本二手にしか別れていない。だから右が行き止まりなら左に行けばいい。だけど私は極度の方向音痴なので行き止まって引き返した時、どっちに行けば進んで、どっちに行けば戻るのかわからず行ったり来たりを繰り返していた。
なんとかレベル5をクリアし次はレベル6だ。
「ユキさま」
急にレブが話しかけてきた。どうやら見てられなかったらしく従業員用の『所在発信用魔石』を用意したようだ。
「壁にそって進んで下さい」
「壁?」
「はい、右の壁に沿って進んで下さい。遠回りでも確実にいつかはたどり着きます。行ったり来たりするよりは気力がへらないでしょう」
なるほど、そうか。
そこからは迷う事は無くなったが迷宮をまんべんなく辿らなくてはイケないので時間はかなりかかった。
やっと初級をクリアし一旦脱出すると訓練場に戻って来た。
「お疲れさまです、ユキ様」
レブが若干疲れを見せながらも笑顔で迎えてくれた。
「ホントに疲れた……でもこれでやっとレベル10認定だよね」
私は嬉しくなって自分で認定するための作業を行った。キンッと金属音が響き認定終了だ。
「こんな奴見た事ねぇよ。今日はもう終わりだ、レブ、カトリーヌに言っておいてくれ。あんたの弟子はレベル10でしたってな」
うんざりした顔でライアンは去って行った。
ちょっとはねぎらってくれてもいいじゃない、せっかく頑張ったのに。
「ユキ様の敵は魔物では無く迷宮でしたか。そのへんも含めて主に報告しておきます」
仕方ないじゃない、わからないんだもん。




