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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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65 西の隣国エストート4

ブクマありがとうございます。

疲れた心に染みます。

 真っ暗な庭を駆け抜け逃げ惑っていた。

 

 ジャービスの屋敷内は私が叫んだせいか騒がしくなり暗い庭の至る所で灯りがつきだした。

 

「マズイですね、レジナルド様の仕事がしずらくなる」

 

 レブが方向を確認しながらレジナルドが向かった方と逆に進んで行く。

 

「レ、レブ!どんどん集まって来てる〜」

 

 ゾワゾワが止まらない私はただ手を引かれているだけの存在だ。

 時々レブが振り返って火の魔術で蜘蛛を攻撃してはいるが(らち)が明かない。

 

 一旦庭の陰から出ると建物の方へ向かった。そこで開け放たれたドアが目につき暗い中へ入るとすぐに閉め鍵をかけた。視界から蜘蛛が見えなくなるとホッとして寒気が治まった。

 

 周りを見渡し安全を確認していたレブが舌打ちした。

 

「やられましたね、やはり罠でしたか」

 

 その声を合図に部屋の灯りがつくと、眩しいくらいきらびやかな趣味の悪い衣装に身を包み、横柄な態度で痛そうな程宝石が散りばめられた椅子にジャービスがふんぞり返って座っていた。

 

 吹き抜けの天井の二階の高さに所に作られた観覧席のような所で私達を見下ろし醜く笑う。

 

「一体どんな奴らかと思えばあのババアの奴隷か」

 

 あぁあ、こいつはもう死んだな。

 

 私とレブの心はひとつになった。

 

「全く、あのババアときたら高額な要求はするわ偉そうだわ、うるさくてかなわん。今回の事で厄介払い出来ればまた飯もうまくなるだろう」

 

 もっと醜く太って病気になってしまえ!ま、太る前にカトリーヌに始末されると思うけど。

 

 レブが黙ったまま火の魔術でジャービスを攻撃した……ハズだった、が、放ったはずの火は出なかった。

 

「馬鹿な奴だな。魔術師を捕らえるのに魔術が使えん部屋に閉じ込めるのは当たり前だろう」


「確認したまでです」

 

 レブは冷静に返事をした。こんな広い空間を魔術が使えなく出来るなんて物凄くお金がかかってそうだ、悪徳商人め。

 

「お前達はカトリーヌ諸共うっかり魔物の巣に侵入してしまった愚か者という事だ」

 

 ジャービスの横にカトリーヌが連れて来られた。魔術を封じる縄で後ろ手に縛られて連れて来られた様で大変御機嫌が悪そうだ。

 

 ジャービスは自分の寿命を縮める趣味があるようでカトリーヌの顔を憎々しげに睨むと鼻で笑った後、彼女を後ろ手に拘束したままそこから突き落とした。

 

「うわ!危ない!」

 

 私は慌ててレブと一緒に落下地点へ急ぐと見事にキャッチしたが、助けてもらった人間とは思えない鋭い眼光で睨まれた。

 すぐに拘束を解いたがそれでもここでは魔術は使えない。

 縛られた手首の跡をさすりながらカトリーヌが眉間にシワをよせる。

 

「仕事が遅いねぇ」

 

 私とレブがビシッっとした。

 

「すみません、ケルベロスが思ったより手こずりまして」


「ユキ様は頑張っておいででした。私共が不甲斐なくて、申し訳ございませんでした」

 

 カトリーヌの機嫌が悪かったので謝りまくっていると私達が入って来たドアとは違う奥にある両開(りょうびらき)ドアが開くと信じられないが見覚えのあるモノが入って来た。

 

「アレって飼えるの?」

 

 私は後ずさりながら聞いた。

 

「ここにいる以上そうなんだろう、後でやり方を聞いとかないとねぇ」

 

 カトリーヌが嬉しそうにニヤリと笑う。

 

「王都ではお止めになって下さい、カトリーヌ様」

 

 レブがすかさず止めた。

 

「私もそう思います、逃げると大変そう」

 

 一歩一歩こちらに近づくそいつは三つの首でそれぞれ私達を睨み牙を剥いて唸っている。

 蜘蛛といいケルベロスといい、ペットの趣味も悪いらしい。

 

「ユキ、さっさと片付けな」


「はぁ?!私ですか?」


「ここじゃ魔術は使えないんだよ。お前以外に誰がやるんだい?」

 

 カトリーヌの言葉に絶句した。

 確かにそうだ、今は私しか力を発揮出来ない。

 

 ジャービスめ、絶対に許さない!

 

 私が無理やり覚悟を決めて構えているとレブが腰に手を滑らせてきた。

 

「なに?ジャービスより先に死にたいの?」

 

 ムッとして尋ねるとレブは肩をすくめた。

 

「その方が楽でしょうけど違います。ダガーを拝借したくて」

 

 少しは手伝う気があるようだ。そう言うと私のベルトの背に差してあったダガーを抜いた。

 

「私がケルベロスの気を引きますからそのすきにカトリーヌ様と壁を破って外へ逃げて下さい」


「駄目だ、相変わらず馬鹿だね。アレを外へ出す訳にいかない。ここはエストートの街中だよ。この部屋でキッチリ始末しな」

 

 無茶ぶりだが死ぬ気で行くしかない。逆らったって死ぬ、どうせなら少しでも生き残る可能性がある方を選ぼう。

 

 甘味もお酒も無いからどうやって奴の気を反らせばいいのかわからない。レブは何とかするって言ってるけどそれって命をかけてって事だよね。一発勝負な上、屋敷の外へは出せない。

 

「師匠、言いにくいんですけどその趣味のいい上着下さい」


「何するつもりだい」

 

 嫌そうな顔をしながらすぐに脱いで渡してくれた。

 

「弁償はジャービスにツケて下さい。一度使った手なんで何とかなるとは思いますが。レブ、真ん中の首優先でお願い」


「かしこまりました」

 

 私とレブがゆっくりとカトリーヌから離れケルベロスの気を引きながらタイミングをはかる。私はもらった上着を左手に巻き準備を整える。

 

「行くよ!レブ!」


「いつでも」

 

 レブの返事を待たずに飛び出すとケルベロスもこちらに向かってヨダレを撒き散らし向かって来た。

 私達は左右に別れると攻撃に備えた。ケルベロスはレブがいる方へ向かって行く。あちらの方が脅威に感じたんだろう。

 体は私に横を向けたが首の一つはこちらから目を離さない。そこへ突っ込んで行くと前足で払われそうになった。なんとか避けたがその鋭い爪がブラウスを引き裂いてビスチェをかすっていった。

 

 チッ、またこれで救われたよ。

 

 すぐに私に食らいつこうと口を開き攻撃して来た所へ、前回も使った方法と同じく上着を巻いた手を突っ込んで舌を掴んだ。だが今回は他の二つの首も健在だ。続けて真ん中の首が迫って来たがそこへレブが取り付きダガーを突き立てた。私が押えた首はそのままねじ伏せ骨を折った。

 ダラリと力が抜けたケルベロスの口から手を抜き、次へ行こうとして顔を上げた所へ真ん中の首と目があった。しまった、と思ったらそれはグニャリと力無く垂れ下がった。

 レブがキッチリ仕事をしてくれていたようだ。

 一旦引こうと飛び退き、前足の攻撃をギリギリでかわした。飛び退いた先はジャービスがふんぞり返っている真下だ。

 上着を巻いたとはいえ牙は腕に当たっていたようでダラダラと血が流れ出て生ぬるい感触がする。

 レブはどこかと探すと一つだけの首を残したケルベロスの前足の下敷きになっていた。意識は無いようで人形のように踏まれるままになっている。

 

 何かが頭の中で弾けたような気がした。

 

 血だらけの腕に力を込めると思いっきり背にした壁をぶっ叩いた。ドォーンと地面に響く感じがして壁に蜘蛛の巣のようにヒビが入った。魔術防止の効果のある壁は丈夫なようで一発じゃパラパラと破片が落ちるのみだ。

 

「うわぁ、なんだ!?何をした!?」

 

 ジャービスが驚いて慌てているようだ。ケルベロスも一瞬、怯んだように見える。

 

 部屋の向こうに優雅にたたずむカトリーヌが嬉しそうに笑った。

 

 私はもう一発壁に打ち込むと素早く床を蹴って飛び出しケルベロスへ向かうと、怯えた魔物の首を捕らえそのままねじ切った。

 

 壁はガラガラと崩れジャービスが椅子ごと落下してくる。私がケルベロスをどかしレブを救出している間にカトリーヌはジャービスの所へ向かった。

 

「レブ、しっかり!」

 

 意識も無く呼吸も浅い、全身の骨が折れているだろう。

 

「師匠!ハイポーション無いですか!」

 

 私の声は無視され彼女はジャービスを捕まえるとそのダブついた腹を踏みつけた。

 

「私をこんな目に合わせたからにはそれなりの覚悟があるんだろうねぇ」

 

 カトリーヌの言葉にジャービスは漏らさんばかりの怯えようで必死に逃げようともがいているが無駄な抵抗だ。

 そんな事よりレブにハイポーションを与えたくて焦る私は彼を肩に担ぐと崩れた壁から屋敷内の廊下に出た。

 

「ユキ様!!」

 

 長い廊下のむこうからケイが走ってこっちへ向かって来る。レジナルドの姿も見え、どうやら彼を呼びに行ってくれていたようだ。

 

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