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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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64 西の隣国エストート3

 部屋を移動し、さっきいた何もない所では無く、普通の部屋でテーブルに豪華な食事を用意され食べながら話は進められた。

 

「で、師匠の名は?」

 

 私がレブを振り返ると彼は頷いた。

 

「私の口からは申せません。ユキ様からどうぞ。言っても構いませんが知ったからにはレジナルド様には最後までお付き合い願いたいのですが、よろしいですね」

 

 レジナルドはため息をつきながら了承した。

 

「希代の魔術師カトリーヌよ」


「あぁ?」

 

 一瞬、眉間にシワをよせ私を睨むように見た。

 

「嘘じゃないわ。こんな嘘で私も死にたくない」

 

 私の言葉にレジナルドは口をアワアワとした後、天を仰いだ。

 

「ライアンに加えてカトリーヌ……今日は最悪の日だったのか……」

 

 ホントそうだよね。私も心底そう思うよ。

 

 レジナルドはしばらくうつむき無言で座っていた。脳内の処理が追いつかないのだろう。

 

 その間に私達は食事を頂き人心地ついた。朝から何も食べていなかったが既に夕食時だ。そろそろカトリーヌも不審がっているだろう。

 

「ねぇ、情報がどこから来たのか教えてくれない?師匠が嵌められたのかも知れない」

 

 放心状態のレジナルドを呼び戻し、誰がなんの目的でやったのか探り始めた。

 

「直接の話はこの国の重鎮からだが、そこに情報を持ち込んだのは街で一二を争う豪商のジャービスって奴の下っ端だ」

 

 やっぱりか、あの趣味の悪いネッチョリ野郎。

 

 それを聞いたケイとレブが二人でコソコソと話し合っている。

 

「なんと言って来たのですか?」

 

 レブがレジナルドに尋ねる。

 

「あの道は通常使われているものでは無い。あのすぐ近くに北へ通じるルートがあってそこから密輸品を運び込んでいる奴がいて、今日も来るはずだと。

 ケルベロスの事は知らなかった。言われた時間より早めに偵察に行った者が慌てて戻って来て報告を受け、駆けつけたらお前達が見事に二体のケルベロスを討伐してたってわけだ。

 討伐自体は助かったよ、あのままじゃオレが行かされるところだった」

 

 勇者に準ずる者もそうとう国にこき使われているようだ。

 

 プラチナ国ではエクトルが主に行ってるのかな。きっと弟子のライアンも巻きこまれているんだろう。いい気味だ。

 

「上手く行けば騎士団にも多少の犠牲になってもらうつもりだったようですね。もし(あるじ)が現場にいて暴れれば全滅してたでしょうし」

 

 レブの言葉にレジナルドも続く。

 

「そうだろうな、最近は密輸業者を次々と摘発しているから脅威に感じていたのかもな」


「いや、むしろ摘発させてライバルを減らしていたんじゃないですか?どうせその情報も密告でしょう?」

 

 レジナルドがなるほどと頷く。

 どうやらジャービスはライバル会社摘発キャンペーン中だったらしい。それなら大物密輸業者カトリーヌを陥れようとするのも頷ける。

 だとしたら恐らくジャービスの屋敷に残っているであろうカトリーヌの身に危険が……いや、無事に違いない。

 だってカトリーヌだ。問題は私達がちゃんと仕事しているかどうかだろう。

 

「レブ、このままじゃ叱られそう」


「同意します。時間がかかったのはレジナルド様のせいにしてとにかく(あるじ)の元へ行かなければなりませんね」


「待て待て、オレのせいにするんじゃない!」

 

 私達の会話を聞いてレジナルドが焦った声を出す。

 

「レジナルド様はジャービスのせいにすればいいではないですか?そんな情報を鵜呑みにした事を責められるとは思いますけど」


「カトリーヌを回避出来ない解決法を口にするな!とにかくジャービスの屋敷まで秘密裏に送ってやるからなんとかしろ」


「ではすぐに(あるじ)に連絡を、もちろんジャービスに見つからぬように」

 

 今度はレジナルドとレブがコソコソと話し合い、レジナルドの指示の下、騎士達がバタバタと部屋から出て行った。

 私達も馬車に案内されすっかり日が落ちた街の裏通りをひっそりと移動し、ジャービスの屋敷の側の民家に静かに入って行った。

 

「ここはそもそも奴の屋敷を監視している場所だ。急激に大きくなった業者にはある程度の黒い噂が付き物だが奴は今のところ上手く逃げおおせている感じでな」


「そんな所からの密告を信用したの?」


「奴は大勢に恨まれているし、一応密告された事の真偽は確かめなくてはいかんからな。役所の辛いとこだ」

 

 なるほど、手下が裏切っての密告と思わせたかったのかな。

 

「あぁ、ちょうど(あるじ)がいる部屋が見えますね。どうやらここから監視している事もわかっているようです。主が関わっていると知らせたかったみたいですね」

 

 見られているとわかって逆にそれを利用してカトリーヌを関わらせようとしているようだ。きっと私達が捕まっていることも承知しているだろう。

 

 彼女には知らせは届いたんだろうか?

 

「おっと……どうやら我々が来ている事を主も気づいたようですね」


「そんな事わかるの?」

 

 ケイとレブがちょっと苦しそうに胸を押さえた。

 

「えぇ、契約を交わしていますから。いま一瞬心臓が止まりそうになりました。契約違反の時の為の物ですが時々合図にも使われます。ふぅ……」

 

 なんて恐ろしい活用法。私の契約には無いよね?

 

 ビビって胸を押えていると、レブとレジナルドが動き始めた。

 

「では打ち合わせ通りに」


「あぁ、こっちは密輸品(証拠)を押さえる。そっちはカトリーヌを抑えろ」


「努力はしますが、それはユキ様の役目かと」


「私なの!?一番嫌なとこじゃない」

 

 憂鬱でしかない、とにかく何を使ってでもなだめよう。レジナルドのせいにするのが一番有効な手だろう。


 ここで国の為に役立て!勇者に準ずる者よ。

 

 裏通りから屋敷を囲う鉄柵をクニっと開き庭に侵入するとカトリーヌがいた部屋を目指した。一緒にいたレジナルドが嫌な顔をした。

 

「まさか牢の格子もそうして抜け出したのか、後で直せよ」

 

 ペロッと舌を出してごまかすと二手に別れ彼と数人の騎士達は密輸品を押えに向かった。

 

 こっちはカトリーヌだ。

 

 胃が痛くなりそうになりながら三人で暗い庭を進み建物の陰に隠れた。

 

「この上の部屋に主がいます。ユキ様、ケイを上げてもらっていいですか、その後私も」


「もう、人使い荒くない?」

 

 最近、女子だって言い訳がしづらくなって来た。

 私はケイの片足を両手を組んだ所に乗せ上に放り投げた。ちょっと上げすぎて二階部分にあるバルコニーより上にいった。

 

「……!!」

 

 ケイは声にならない声をあげ空中をもがいた後、落ちそうになりながらバルコニーの縁になんとか取り付き中へ消えて行った。

 

「私はもう少し弱めでお願いします。その後ロープを探しますから……」


「いいわよ、壁登って自力で上がれる」

 

 デコボコしたこの壁ならなんとか指でつかんで登れる。初めて平和的なスキルの使い方が出来そうだな、あ、でもこれも不法侵入か。

 

 レブを上げて無事を確認したあと壁を登ろうとしてふと後ろに気配がし振り向いた。

 

 草むらをガサガサと音を立て何かが動き回り、黒い影がソロリと出て来た。

 

「ユキ様、お早く」

 

 レブが上から小声で私を呼んだ。

 

「レ、レブ……」

 

 私は壁に張り付き息をのんだ。足元からゾワゾワと寒気が全身を襲う。

 

「どうかしましたか?」


「私、この世で嫌いなものがいくつかあるけど一番は浮気男なの」


「なんの話です?」


「に、二番目は蜘蛛なの、蜘蛛を見ると動けなくなる……」


「今行きます!」

 

 草むらから大型犬ほどの大きさの蜘蛛が数匹一斉に飛びかかってきた。

 

 番犬じゃなくて番蜘蛛?

 

「ギャーー!!」

 

 見つからないようにとか、コッソリとかそんな事はもう関係ない!

 大きな蜘蛛に飛びかかられて全くなす(すべ)なくただ叫ぶだけだった。

 

 バルコニーから飛び降りたレブは蜘蛛の上に落ちるとその内の一匹を踏みつけたが殻が固いのか始末出来てない。でもここで中身をぶちまけられたら気絶しそうだ。

 

「早くこちらへ!」

 

 レブに手を引かれ震えて力が入らない足でなんとか付いて行った。彼が振り返りながら火の魔術で蜘蛛を攻撃した。

 一匹に命中すると蜘蛛は燃えあがって裏返り足をバタつかせている。

 

「うわぁーー!!キモい!!ふぇ〜もうヤダぁ!!」


「叫ばないで下さい!集まって来ます!」


「えぇ!?う……ぐぅ!」

 

 引かれている方と反対の手で口を押えた。でも涙は止まらない〜

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