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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶
6/133

6 勤務初日1

 運ばれて来た食事を食べて感動した。時間感覚がよく分かってなかったけど一日ぶりの食事なんじゃ無いだろうか。

見た感じは普通に見えるけどなんの肉かは聞きたくない気がする香草の効いた焼いた鶏肉っぽいやつに野菜のピクルスの様なもの、パンはナンのように平らに伸ばしてありなかにチーズか入っていてどれも絶品だった。

 

「美味しい〜幸せ〜」

 

 若干涙ぐみながら必死に食べてると向かいでジョッキを片手にライアンが呆れていた。

 

「大げさだろ。今までどんなもん食ってきたんだよ」


「いや〜もう、ずっと食べて無かったから生き返ったよ」

 

 お腹いっぱいになりひと息つくと目の前で美味しそうにジョッキを傾けるライアンを見てちょっと飲みたくなった。予算は厳しいが一杯くらい良いかとビールを頼んだ。

 

「なんだ、イケる口か?飲め飲め」

 

 ライアンが面白がって自分もお代わりを頼むとジョッキをぶつけて乾杯した。一口飲むとクッと喉に来る少し香ばしい感じで甘めの味だ。

 

「ねぇライアンさん、冒険者って何する人なんですか?」


「ライアンでいい。オレもユキって呼ぶぞ。お前は本当に何も知らんな、冒険者ってのは魔物を倒してその素材を回収、販売したり、旅人の護衛をしたりするのが主な仕事だ」


「へぇ〜、ライアンも冒険者なんでしょ?」


「まぁな。最ダンに就職するまではひとりでフラフラしてたよ」


「なんで最ダンに来たんですか?」


「マルコさんに声をかけられたんだ。昔馴染みで断りずらくて、世話になったこともあったから」

 

 肩をすくめると仕方なさそうに言った。

 

「それよりお前、ゴブリンを一撃で倒したって言ってたな」


「うっぷ、こんな時に思い出させないで下さいよ、気持ち悪い。たまたま偶然ですよ、私は人を殴った事も無いのに。あの時は心底ムカついてせめて一発殴ってから死んでやろうかと……」


「あぁ、聞いたぞ。捨てられたんだってな、その年じゃ辛いな」


「はぁ?捨てられて無いし!その年とか言わないで、まだ27才だし!」


「いや、十分行き遅れだ」


「行き遅れとかじゃないし!」

 

 話によるとここじゃ婚期は16~25才位までで、27才は結構厳しいらしい。

 

「くぅ〜、そういうライアンは結婚してるんですか?」


「オレは無理だぞ。社内で付き合う気はない」


「結婚してるか聞いただけですよ、私にだって選ぶ権利ありますから」


「チッ……独身だよ、結婚する気なんて無い」

 

 そんな感じだよね。格好も構ってないし口も悪い。初対面なのにゲップとかしてるし。

 

 疲れてた上にここのビールのアルコール度数が高いのか一杯だけで急にクラリとしてきた。アクビも止まらなくなり頭もフラフラしてきて見かねたのかライアンが帰るように言ってきた。私は立ち上がるとポケットからコインを取り出す。

 

「あの、ここのお支払い幾らですか?」


「もういい、今日は奢るから給料出たら一杯奢れ」


「ライアンめっちゃ優しい、ごちそう様でしたありがとうございますお休みなさい」


「まったく心がこもってないな……」

 

 苦々しい顔のライアンに見送られ、ふらつく足取りでちょっと火照った頬を押さえながら歩いていた。

 街中は夜ではあるが街灯が設置してあり足元も明るい。人通りはまばらだが独り歩きでも危険な感じはしない。が、前から来た男が私を見ながらすれ違いすぐに引き返すと肩を抱いて来た。

 

「お姉さ〜ん、イイとこ知ってるんだ、飲みに行こう」

 

 チッ、馴れ馴れしい奴だな。

 

 私はその手を振り払うと男を睨みつけた。

 

「勝手に触って来ないで」


「そう言わずにさ、すぐそこだから」

 

 どこにでもしつこいクズっているもんだ。

 

 少し酔っていたせいもあってかナンパ男がだんだんと、私を振った彼に重なって見えてムカムカと怒りが込み上げてきた。どこが似てるという訳ではないがイライラがつのる。男はそんなことにも気づかずにまだしつこく言い寄り腕を掴んでどこかへ連れて行こうと離さない。

 

 もう我慢できない。ゴブリンを倒した怒りの一撃を受けてみやがれ!

 

 私は右手を握りしめ大きく振りかぶると足を踏ん張り男の顔面目がけて振り抜いた……はずが、ガシッと力強く手のひらで受け止められた。

 

「オイオイ心配して来てみれば何騒いでるんだ」

 

 それはライアンだった。ジッと私を見たあと男に視線を移す。

 

「で、お前はなんだ?オレの連れに何かようか?」

 

 ナンパ野郎はライアンを見ると驚いて逃げて行った。

 私は殴りたかったのに殴れなかった不満が残った。

 

「ありがとう、でもあんなクズ殴ってやりたかった」

 

 口を尖らせて文句を言う私を見てライアンは面白そうに笑うと会社まで送るといい並んで歩いた。

 

「いや、止めて正解だった。流石に人の首ふっ飛ばしたら庇い切れんからな、理由がしつこいナンパじゃ余計無理だ」


「ふっ飛ばすってそんな大袈裟な、私が殴ったところで精々アザができる程度ですよ、非力な女のコなのに」


「今の話し全部間違ってる。明日さっそく鑑定にださなきゃ危なくて外に出せないな」

 

 ライアンは私を会社の中に入れ明日迎えに来るまで外に出るなと念を押すとドアにカギをかけ帰って行った。

 

 監禁ですか?

 

 とにかく眠かったので昼間ライアンが寝ていたソファに横になるとあっという間に意識が無くなった。

 

 

 

 

 

 なんか覚えの無い誰かの匂いがする。男だな。ちょっと(くさ)いのについ()いでしまう。なんでこんな匂いがするんだ?ちゃんとシーツの洗濯もしてるのに。

 

「おい、起きろ」

 

 急に声をかけられて飛び起きた。目の前にヒゲモジャの男がいる。

 

「は?誰ですか?」


「寝ぼけてんのか?オレだよ。早く顔洗え、仕事が始まる前に鑑定に行くぞ」

 

 まだ目が覚めず意味が理解出来ないが男の事は思い出した。

 

「ライアン、おはようございます。あ……顔洗ってきます」

 

 おぼろげな記憶をたどり洗面所に行くとバシャバシャと顔を洗い、手ぐしで髪を整える。

 

 ちょっと頭痛いかも、確か……フラレて、走ってたら…………思い出した。

 ここ異世界か、夢じゃ無かったのか……はぁ……確か昨日鑑定に行くって言ってたな。鑑定ってなんだ?

 

 シャワーを浴びたかったけど着替えも無いし鑑定が済んでからでいいかと事務所に戻った。ライアンがカップに紅茶の様な物を用意してくれ飲まされると会社を出た。

 スッピンで顔はゴワゴワ、朝日も眩しいし気分は悪い。ライアンが前を行くが歩くのが速く着いていくのも大変だ。

 

「ちょっと待って下さい。歩くの速すぎ」


「あぁ……いたのか、ちょっと考え事をしてた」

 

 少し速さを緩めてもらうと並んで歩いた。昨夜、食事に連れて行ってもらった店の前を通りかかると中から店員のエリンが出て来て呼び止められた。

 

「ちょうど良かった。服持って行こうと思ってたの、待ってて」

 

 そう言って一旦店に入ると二つの紙袋を手に戻って来た。

 

「もう随分着古した物もあるからいらない分はそっちで処分してね。好みがあると思うけど良ければ使って」

 

 女神再びだよ!エリンがキラキラ光って見える。

 

「ありがとうございます!感激です、泣きそうです。ありがたく使わせて頂きます」

 

 感動に打ち震えているとエリンはニッコリ笑った。

 

「大袈裟よ、それに年も近そうだしそんな丁寧に話さなくていいよ、ご近所だし仲良くしてね」

 

 女神が友人とか私は運がいいのかも……いやこんな訳わかんないとこに来てる時点で運は悪いか。

 

 エリンにお礼を言って別れると紙袋を手に再びライアンと並んで歩き出した。

 もう出勤時間なのか結構人通りが多い。人の流れに乗って賑やかな通りまで来ると通勤用なのかいくつか馬車の停留所があり、そこに乗り降り自由の結構大きな馬車が止まっていた。

先にお金を払い好きな所で降りることが出来る。馬車は一定の区間を往復していて手をあげて頼めば止まってくれるのでお年寄りや子供なども安全に利用でき、利用客が多い数ヶ所には必ず停まるので通勤につかう人が多いそうだ。

 

「あれに乗るぞ」

 

 ライアンについて馬車に乗り込み驚いた。イスは壁沿いに一台ベンチがあるだけでほとんど立ちっぱなし。壁や天井に掴まるバーが設置されてるだけのシンプルな造りだ。出来るだけ沢山乗せれるようにという事かな。あっという間に満員になり馬車は走り出した。

 道は石畳で舗装されているが結構揺れる。掴まるバーには手が届かずライアンのマントを握った。しばらく走ると数人の客が走る馬車から降りて行く。

 

 乗り降り自由ってそういう事?!

 

 そこまで馬車は速くないとはいえこれは怖い。走り込んで乗り込む客も相次ぎ馬車の中は入れ替わりが激しい。

 

「飛び降りなきゃいけないの?」

 

 流石にビビってライアンのマントを引っ張った。

 

「馬車もひとりで降りれないのか……着いて来い、もう降りるぞ」

 

 そう言われ腕を掴まれるとすっと馬車から飛び降りた。

 

「うわぁ〜!」

 

 足が滑って抱きとめられる。安定感抜群にしっかり受け止められ無事に着地した。

 

「ほら急げ」

 

 すぐにまた歩きだす。いつまでもここに立ち止まっていては通行の邪魔だ。

 

 

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