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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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53 謝罪

昨日、投稿出来ていなかったので…

 大きく息を吸い込みゆっくりと吐いた。やっとまともに息が出来た気がした。

 

「来てくれたんだ。最ダンは大丈夫なの?」

 

 小声でライアンに尋ねた。彼はモジャモジャのヒゲ面で父親であるセオドアをチラッと見た。

 

「後はイーサンとファウロスに任せた。もう数人だけだからな」

 

 昇段試験は打ち切りだし、ライアンも今日から少しはゆっくり出来る。

 

「一応オレとマルコさんは口出ししないという約束で来ている。だからここにいるだけだ」

 

 そう言って笑った。それに釣られて私も笑った。

 

「居てくれるだけで心強いよ……ありがとう」

 

 自分でも驚くほど素直な言葉が出た。言ってしまってからなんだか恥ずかしくなり少しうつむいた。するとまた誰かが慌てるでもなく部屋に入って来た。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

 その声にゾッとし顔をあげるとあの騎士がいた。

 

 なぜだか今まで騎士の顔を忘れていた。

 ずっと思い出さずにいたのに顔を見てあの時のことが蘇る。血走った目を思い出し、覆いかぶさって来た時の汗のニオイや掴まれたときの胸の痛みを思い出した。

 咄嗟に勢いよく立ち上がり後ずさりすると椅子が倒れ、その音で皆が私を見た。

 すると騎士はニッコリ笑いかけ、近寄ってきた。

 

「ユキ、どうした、大丈夫か?」

 

 何を考えているのか手を差し伸べてくる。動けずにいるとライアンが間に立ちはだかった。一瞬ふらりとすると目の前の彼のシャツを掴んだ。

 

「ディラン、席につけ。ここに何をしに来たと思っているのだ」

 

 セオドアが厳しい声を出し彼を咎めた。

 

「団長、誤解なんですよ。私とユキは別に何もないですよ。ただ少し行き違っただけです。大袈裟に話が広がってしまってユキも困っていると思いますよ」

 

 彼はそう言うと父親の側に行ったようだ。

 私はまだライアンのシャツから震える手を離せずにいた。

 

 落ち着け、大丈夫、ここには他の人もいる。カトリーヌも、エクトルも、マルコさんも。

 

 おでこを彼の背に当て目を閉じた。

 

 ライアンがいる……

 

 深呼吸して顔をあげゆっくりと手を離した。

 起こされた椅子に腰掛け隣にライアンも座った。

 

 思い切ってディランと呼ばれたあの騎士を見た。

 ディランはまだ薄ら笑いを浮かべたまま父親と話していた。父親のルーベンはディランを諌め何も言うなと厳しく注意していた。

 

「では始めるぞ」

 

 国王アレグザンダーがおもむろに口を開いた。

 ルーベンは立ち上がると王に慇懃に礼をとり口上を述べようとした。王はそれを手で制すると本題に入るようセオドアに命じた。

 

「今回、平民女性に乱暴を働いたとされているがディランには言い分があるそうだな」

 

 セオドアは奴の顔を睨むように見た。睨まれているディランはおどけたように肩をすくめると仕方なさそうに立ち上がり私を見た。

 

「ユキからも言ってくれ、誤解だと。ファウロスの嫉妬のせいでこの場に呼び出されてしまったが同意があったと証言してくれないか」

 

 一瞬言葉が理解できなくなったのかと思った。

 

 コイツ何言ってんだ?

 

「仰る意味がわかりません」

 

 ぼうっとしたままそう答えた。

 

「だから、あの時お前が私に部屋に来る様に言ったと言ってくれればいい」


「言ってません」

 

 私がそう言うとディランはうんうん頷く。

 

「いや確かに言葉にはしなかったが部屋に入る時に私を振り返り意味ありげにこちらを見たではないか。入った時も既に服は脱いでおったし」

 

 開いた口が塞がらなかった。コイツ頭がおかしいのだ。

 

「そんな事してませんし、服を脱いでいたのは着替える為です」


「恥ずかしがるのも無理ないがこのままでは私もあらぬ誤解を受けるのでな、詳細を話させてもらう。お前は私に近寄ると口づけしファウロスがウザったいからすぐに私の愛人にして追い払ってくれと言ったであろ」


「そんな事してませんし、言ってません!」


「その後も乱暴に扱って欲しいと……」


「だから言ってません!!」

 

 私がいくら否定してもディランはまぁまぁと仕方なさそうに困った顔をした。

 

「これ以上はお前も羞恥があるから言えんだろうが一言誤解であったと言ってくれれば良い。こうなった以上愛人にはしてやれんがそれなりの事はしてやれるぞ」

 

 そう言ってずっしり重そうな革袋を取り出した。(とも)の者がそれを受け取り私の前に持って来ると袋の口を開き中身を見せた。

 

 金貨がキラリと光っていた。

 

 私は泣きそうになった。

 こんな扱いを受ける為にここに来たのかと思うと腹立たしく、侮辱されると言う事がこんなに悔しい事だと改めて知った。

 金貨ごしにルーベンとディランを見ると早く受け取れと言わんばかりにこちらを面倒くさそうに見ていた。


 私はカトリーヌとマルコを見た。二人共私を心配そうに見つめゆっくり頷いた。エクトルをチラッと見たが怖いくらい真剣な面持ちでいる。

 最後に隣にいるライアンを見た。顔は無表情だがその目は怒りに満ちているように見えた。

 私は大きく息を吸い込むと金貨の入った袋をジャラリと受け取った。それを見たルーベンはホッとし、ディランはニヤつき横柄に椅子に座った。ライアンの手がピクリと動いた。

 私は受け取った金貨の入った袋を両手で握りしめグッと力を込めると立ち上がった。


 ライアンが笑った気がした。

 手に力を込めたままディランの前まで静かに進むと最後にまたギュッと握りしめ座っている彼に革袋を差し出した。

 

「謝罪を」

 

 そう言って彼の膝に置かれた手にズシッと袋を落とした。沢山の金貨が入っているはずの袋は音も立てず手に収まり彼は不審な顔をした。

 恐る恐る袋を開き中身を取り出すとゴクリと唾を飲み込んだ。金貨はその存在を確かめる事は出来るものの全てがキレイに丸い形に隙間なくまとめられくっつき合って剥がすことは出きなさそうだ。

 

「うわぁ〜、何だこれは!」

 

 慌てたディランが放り投げた元金貨の玉はコロコロところがり王の靴先にコツリと当たった。ズッシリ重い金の玉を王は拾い上げると口の端をあげた。

 

「見事だな、ルーベン、取りに来るがよい。指の跡もついておる」

 

 最後に力を込めた私の指跡はくしくも私の胸に奴が付けた跡のようだった。

 

 あの金貨の塊が私の胸と同じ大きさって事?いやもう少し大きいでしょう、私は手が小さいし。

 

 何だか変な事を思い浮かべながら国王アレグザンダーを見た。

 国王が私を見据える。

 

「お前の望みは謝罪か?」


「はい」


「これはいらんのか?」


「はい。後の処置はそちらにお任せします。騎士が平民に無体を働いた時に処される方法で。私は誘ってないし、ファウロス様も助けてくれただけで関係ないです」

 

 そう言ってディランを睨んだ。彼はまた何か言おうと口を開きかけたが急に黙り込んだ。ビクッと体を震わすと立ち上がり私に頭を下げた。

 

「も、申し訳なかった。君に非はない」

 

 ルーベンが慌てて止めようとしたが間に合わず、話し合いは終了となった。

 不満気な父に引きずられるようにディランは退場し部屋の中は静まり返った。

 

「これで良かったのかユキ」

 

 騎士団長セオドアが優しく問いかけてきた。その目はライアンに似てる。

 

「は、はい。これでいいです。なんと言われようと気はすみませんが一応謝罪は受けたので……もう終わりにしたいです。みんなに心配かけましたし」

 

 私は自分の席に戻るとどっと腰を下ろした。

 

「大丈夫か?」

 

 いつもの感じでライアンが声をかけてくる。

 

「さっき笑ってたでしょ?」


「そりゃ笑うだろ、隣に素手で金貨を丸める女がいるんだぞ」

 

 そう言われ我ながらおかしくなってきた。

 

「そう、よね。確かに笑うわ」

 

 最初はクスクスと、次第に我慢できなくなり二人で身をよじって大笑いした。笑い過ぎて涙が溢れ止まらなくなった。

 

「すみません、止まらなくて……」

 

 よく考えると国王と騎士団長がまだいた。

 

「今更だ、別に構わん」

 

 アレグザンダーはそう言ってルーベンが置いていった金の玉を眺めていた。

 私はいつの間にか笑いは収まったものの涙は止まらなかった。

 

「どうしよっ、うぅ、と、止まらない……」

 

 しゃっくりが出るほど泣いてしまい、まるで子供のようで恥ずかしいがそれでもどうしようもなかった。感情が振り切れてしまったのだろう。

 側にいたライアンが心配そうな顔をし、そっと肩に触れたがそれをビシッと払いのける手があった。その手は私を引き寄せギュッと抱きしめた。

 

「なんの役にも立たなかった男どもが触るんじゃない!」

 

 それはカトリーヌだった。彼女のいい匂いに包まれホッとした。抱きしめられ体温を感じると段々と気が静まりそっと肩に頭をのせた。

 その間もカトリーヌは男達にキツイ言葉を投げつけていた。

 

「大体アレグザンダーは一体なんの為にここにいたんだ!それを受け取るためか!」

 

 そう言って金の玉を指さしたようだ。カトリーヌに抱きしめられている私の目にはマルコしか見えない。マルコはハラハラとしながら愛妻(?)を止めようかどうしようか迷っている。止めれるわけないのにね。

 

「セオドア!お前も騎士団長ならもっと厳しく追求すべきだろ!結局ユキが自分でケリをつけたようなもんじゃないか!」


「カトリーヌ、だが奴の処分はとうに決まっていたのだ。他の騎士達からも証言が上がっていたし、これまでも似たような事件をいくつも起こしルーベンも辟易していた。ずっと尻拭いばかりの三男が僻地に飛ばされても文句は出ないであろう」

 

 どうやらディランが言い分があると言った為にこの場が設けらたが、概ね私の言い分が正しい事は皆に認識されておりここに来る前に決着はついていたようだ。

 

「でもまぁ、最後に謝罪はしてもらいましたから……」

 

 私はカトリーヌに身を預けたままボソッと言うとアレグザンダーが声を震わせて言った。

 

「そりゃ希代の魔術師カトリーヌのあんな恐ろしい顔を見れば誰だって頭を下げるだろ」

 

 そう言えばディランがビクついてたな、カトリーヌのお陰だったのか。

 

「いや、ライアンも相当なものであったぞ。目だけで射殺す勢いだった」

 

 セオドアが楽しそうな声をだしている。

 

 ライアンも?

 

 私は心地良かったカトリーヌから体を離すと彼を振り返った。

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