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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶
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5 登録手続

 この雑然とした部屋はどうやらこの会社の事務所らしいがその隣にこじんまりした部屋がありそこは物品倉庫なのかいくつか木箱が積み置きされていた。開けられた木箱の中にさらに紙箱がいくつも入っている。

 

「そこの物には触るな、壊したら弁償だぞ。あのカゴの中に着替えが入ってる。脱いだ服は自分で洗うか洗濯屋に頼めよ」

 

 そう言ってドアを閉められひとりになった。教えられたカゴを見るとティーシャツとズボンが畳まれて置いてありそれに着替えた。

 

「流石に下着はないか……」

 

 畳まれた服の中に男性用の下着はあったが女性用の物は無い。仕方ないがノーブラノーパンだ、見知らぬ男の下着は例え洗ってあったとしても履く気にならない。早速買い物リストを作らなくてはいけないようだ。

 胸元が気になるがダブダブのティーシャツにズボンの裾を折り曲げウエストは紐でギュッとしめると何とか着れた。

 脱いだ服は後で洗濯しようと空いたカゴにまとめて置いた。多分手洗いなんだろうな。

 着替えも済み事務所に戻るとライアンはまたソファで横になりタオルを顔に眠ったようだ。マルコと外に出ると今度は徒歩で役所に向かった。

 

「仕事でも時々お使いを頼む時もあるじゃろから場所を覚えといてくれ」

 

 会社を出て通りを右に行くと割と人通りが多い所へ出た。そこそこ賑わう数件の飲食店などを過ぎしばらく行くと役所らしきシンプルで地味な建物が見えてきた。そこは通りにも馬車があふれ一階裏が駐車場(?)になっているようだがそこも一杯で多くの人が役所内外を行き交っていた。

 

「もうすぐ昇段試験シーズンじゃからの。普段はこんなに人はいないんじゃが、地方の人達も沢山来るからそれ目当ての商売人もやって来て街が賑わうんじゃよ。今は事前の許可取りで忙しそうじゃな」

 

 そう言って人が溢れかえった役所へ入って行った。

 中は外で見てたより酷くて満員電車のようだった。おじさん達を押しのけ上手くスルリと人をかき分け進むマルコについて行くと、これまた長い行列が出来たカウンターの方へ行った。

 マルコは列には並ばず横からカウンター奥にいるひとりの細い顔色の悪い男を呼び出した。

 

「ジェイク、頼む」

 

 その男は優しそうに微笑むとこちらへやって来て中へ通してくれた。奥の一角に設けられた小さなテーブルに三人で腰かける。

 

「マルコさん、今日はどうされたんですか?こちらは見かけない方ですけど」


「今度うちで働くユキじゃ。この街に登録手続をしてやってくれ」


「わかりました。最ダンで働くのですか?受付……ですよね?」


「そうじゃよ、ライアンも承知したからの。今度こそ生き残って……いや長続きしてもらわんとな」

 

 前任者の生存確認をしたい……

 

「ライアンさんがいるから大丈夫ですよ。多分……」

 

 もっとハッキリした答えが欲しい。でも、もう深く考えない方がいいかも。

 

「登録手続って何するんですか?」

 

 気を取り直して話を進めた。知らない方が良い事もあるだろう。

 

「どこかの街に登録手続をした事は無いのですか?」


「ユキはどうやら迷子みたいでな。帰り方がわからんのだと。きっとど田舎育ちじゃろうな、シルバラの鉄壁も知らなかったからのぉ」

 

 王都シルバラの外壁と言えば鉄壁な作りで国内外問わず有名らしい。それを知らない私はよっぽどのど田舎育ちか相当な馬鹿に分類されるらしい。そんな同情した目で見るのはやめて欲しい。異世界から転移してきたんだから仕方ないでしょ。

 

「そうですか、では初めての登録手続という事ですね。準備してきますのでお待ち下さい」

 

 ジェイクは自分の机に戻ると一枚の書類と直径十五センチほどの大きさの透き通った水晶のような玉が入った箱を持って来た。

 

「ではここにサインをお願いします」

 

 書類にはここの住人として居住し税を納めるという事、有事の際は国の命令に従い協力する事などが書かれたものだった。

 

「有事の際って主に何ですか?」


「そりゃ他国との戦争や魔王出現の時のことじゃよ」


「魔王!?魔王なんか出るんですか?」


「そもそも魔王を倒す勇者を育てる為に最ダンが作られたのに、何言っとるんじゃ」

 

 そうだった、勇者を育てるって言ってたわ。でもマジか、魔王って……

 

「サインが終わったらここに血の登録をお願いします」


「血の登録ってまさか……やっぱり」

 

 ニッコリ優しい笑顔のジェイクだがやる事はライアンと同じく嫌がる私の手を掴むと針で指を刺しギュッと絞るとポタリと水晶のような物に血を垂らした。血はツルリとした表面に広がると薄っすらと光を放って吸収されていった。「ひゃ〜凄〜い」と見ていた私の指をそのままさっきサインした名前の上にグッと押し付けられた。するとサインした名前が血で染まり一瞬光った。

 

 なるほど、さっき借用書に血判した時光らなかったから登録が未だだと思ったんだ。どういう仕組みなんだ?異世界だからやっぱり魔術か?

 

 ジェイクは優しそうな顔してるけど事務的にサクサク進めアッという間に登録手続は終わったようだ。

 

 指めっちゃ痛いよ。

 

 続いて小瓶を取り出すと小さなスポイトで中の液体を一滴、私のさっき針を刺した指に垂らした。指にあった刺し傷は嘘のように消えついでにライアンに刺された傷も治してもらった。

 心底驚いたがまた馬鹿を見る目で見られたく無かったので無言で耐えていた。

 

「ポーションですよ、ここには毎日沢山の人が来ますからね、用意があるんです。これで手続きは終了です、小銀貨一枚になります」

 

 ジェイクが小さい子に話すように教えてくれ、鬼のように容赦なく小銀貨を奪って行った。


 高いよ登録料……

 

 登録も終わり役所を出ると来た道を戻った。

 

「食事はあの店が安くて美味いんじゃよ、日用品はあの店が品揃えがいい」

 

 道すがらマルコは少し街の事を教えてくれた。後で買いに来よう、ホントに何も無いしとにかく下着が欲しい。

 会社につくと後はライアンに聞いてくれと言われマルコは馬車に乗って帰って行った。そろそろ仕事終わりなのか通りに人が増えた感じがする。

 最ダンがある場所は観光客が行き交うような繁華街からは離れ、どちらかと言えば住宅地に近い地元の人達が暮らす地域にひっそりと建っていた。

 さっき入った関係者以外立ち入り禁止のドアをくぐり細い廊下を通って事務所に入るとライアンが立ち上がって伸びをし帰り支度でもしているのかマントを羽織った。

 

「もう終わりですか?」


「あぁ、登録は済んだか?」


「はい、あの私の部屋ってどこですか?」

 

 確かここに泊まれるって言ってたはず。

 

「お前の部屋?宿に……金が無いか、まぁどこでも好きに使えば良いんじゃないか?仕事に支障がなければ」


「どこでもって……まさかここしか無いんですか?」

 

 私は事務所を見回し隣の物置の方も見た。

 

「シャワールームが廊下に出てすぐにあるし、洗面所もついてる。好きに使っていい」

 

 そう言って出て行こうとするので慌ててマントを掴んだ。

 

「待って下さい。食事はどこで食べれば良いんですか?」


「ここを出て通りに行けば店はいくらでもある、勝手に食えよ」


「いや、せめて今夜だけでも連れて行って下さい。勝手がわからなくって……何食べて良いかもよく分からないし」

 

 ライアンは面倒くさそうにため息をつくと顎で着いて来いと言われ急いで後をついて行く。

 彼は身長百八十以上はあるガッシリした体型で顔は黒髪がモジャモジャのボサボサでよく分からないが声を聞いてもまだ若そう、三十代位かな。

 さっき無理矢理血判を押された時に掴まれた手は大きく力強かった。レベルがどうのこうの言ってたからいわゆる冒険者なのかな?っていうか冒険者って職業なの?魔物を倒す仕事なのかな?

 

 ライアンに連れられ会社から近い一軒の店に入って行くと席についた。

 

「あら、珍しいわね。ライアンが女連れなんて」

 

 居酒屋の様な雰囲気の店内をキョロキョロ見回しているとすぐに女性の店員が笑顔で近づいてきた。

 

「新人だ、田舎モンだから何にも知らないんだ。何かあったら頼む。ウチは男所帯だからな」


「そうなの!?最ダンに女性受付が入るなんて初めてね。ヨロシクね、私はエリンよ、わからないことは何でも聞いて」


「宜しくお願いします。ユキです。あの早速なんですけど服のお店ってどこかオススメはありますか?」


「服?今着てるそれって最ダンの着替えよね。服無いの?」


「はい……事情があって……」

 

 まさか転移してきて何にも持ってないとか言えない。

 

「そうなの……家出って年でもなさそうだし。私のお古で良ければ持っていく?体型似てそうだし」


「良いんですか?!とっても助かります。お金無くて……」

 

 初対面の人に親切にされると涙が出ちゃうよ。エリン、なんて良い人!

 

 

ブクマありがとうございます。

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