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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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45 討伐の話

ブクマ、評価ありがとうございます!

 古びたドアを開け廊下に出ると外へ出る為の階段に向かった。シャワールームと反対のすぐ隣りにある小さな共同キッチンを通りすがりに覗くと埃っぽく全然使ってない感じで、冷蔵庫らしき長細い扉付きの箱があった。そろそろ自炊を始める予定なので後で使い方を誰かに聞かないとね。

 外へ通じるドアを開けると今までより気温が低く感じる。ヒュドラがいた所はもっと北の方で寒かったが王都シルバラもそろそろ冬になるのだろうか。

 なんだか久しぶりの仕事だ。ヒュドラなんて魔物を倒したとは未だにい信じられない。まぁ私が倒した訳じゃないんだけどね。

 会社の寮的な二階から下りると細い路地を通って関係者以外立入禁止のドアへ向かい中へ入ろうとするとイーサンがちょうど出て来た。

 

「おはようございます、イーサン。昨夜はどうでした?」

 

 少し顔色が悪い様子が気になった。

 

「あぁ、ユキ。おはよう、そ、そうだな。ダンジョンの不調が改善してまた騎士達が奮闘しだして以来、救助要請が増えていてな。ライアンに聞いてないのか?」


「そんな話はしてないですね、今朝は顔も見てないですし」

 

 ドア越しに声は聞いたけどね。 

 

「ライアンの隣に住んでいるのだろう」


「えぇ、でも早く引っ越したいです。何もかも共同なんてちょっと……」

 

 今朝のやり取りを思い出すとなんだか恥ずかしい。

 

「そうか、それでは頑張って働かなくてはな」


「はい、頑張ります。お疲れ様です」

 

 話してるうちに少し顔色が良くなった感じのイーサンを見送ると中に入り廊下を事務所の方へ向かった。

 昨夜の当直がイーサンとライアンって事は今日は……

 

「遅いんじゃないか?」

 

 朝から不機嫌な顔のファウロスが事務所から出て来た。

 

「おはようございます、ファウロス様。遅くないです、時間どおりですよ」

 

 ウザいコイツの顔も多少見慣れたか。偉そうな言動も幼稚なせいだと思えば少しは可愛く見えなくも……無理だ、見えないわ。

 一緒に訓練場へ向かうと数人の騎士が順番を待っていた。そのまま待機室へ行こうとすると一人の騎士が呼び止めてきた。

 

「ユキこちらへ、話がある」

 

 その騎士は確か昇段試験の最初の方に来ていた上級の自主的に脱出した奴だ。

 

「なんの用ですか?」

 

 私が呼び止められると、サッサと先に行っていたファウロスが急に引き返し割って入って来た。相手は上級で年上、流石のファウロスも口調が丁寧だが騎士は彼を鼻で笑った。

 

「あまりユキに付いて回っていては外聞が良くないぞ」

 

 どうやら私に付きまとう事が噂になっているようだ。

 

「別に気にしません、それより用件はなんです?」

 

 いや貴族なんだし多少は気にしようよ、そして止めようよ。

 

 二人は少し睨み合いになってきて揉めそうだ。

 

「あの、ご用件は?」

 

 仕方なく声をかけると騎士は私に視線を移した。

 

「ヒュドラ討伐に行ったのであろ?どんな風に戦ったのだ、特にライアンの事を聞かせてくれ」

 

 その言葉を聞いて他の騎士達も集まって来た。みんなライアンの事が気になるようでザワザワとしている。中級であろうが上級であろうが躊躇うことなく救助に向かい軽く魔物を倒す冒険者なんてそんなにいないのだろう。勇者の弟子だとは言っていなくても注目はされているようだ。

 

「私達はカトリーヌさんの手伝いをしただけですから」

 

 他言無用だって言われてるもんね。

 

「だがヒュドラは首を切り落とす必要があるであろ、それをライアンが行ったのだったら……」

 

 後ろから別の騎士が口を挟んできた。

 

「カトリーヌさんが黒焦げにした後ですけどね、ライアンが斬ったのは」

 

 多少、話は前後するがこれくらいはいいだろう。本当に私達はいなくても何とかなりそうだったし、私が行ったのなんて借金の為だし。

 

「だがお前は毒を浴びたのだから生きたヒュドラの側まで行ったのだろう?」


「えぇまぁ、そうですね。私はヒュドラを沼から引き離す為のオトリでしたから」

 

 オトリと聞いて皆がザワついた。やっぱりか弱い女子を普通オトリには使わないよね。

 思い出すだけでも腹が立つ。

 

「私は足が遅いので、その時に毒をかけられました」

 

 本当に死にかけたんだもんね。ライアンに助けられたけど……あんまり助けられた感じがしないのは気の所為かな?

 オトリに使われて、全身死ぬ程痛いのに大岩動かして最後は腕を切られた……気の所為じゃない気がする……あまり深く考えない方が精神的に良さそうだ。

 

 何とか騎士達から逃れやっと待機室に入った。

 

「おはよう、騒がしかったな、色々聞かれたか?」

 

 入るなりモーガンが爽やかに笑った。朝からイケメンに癒やされるよ。

 

「おはようございます、まぁそんなとこです」


「大変じゃったようだな、無事でなにより」

 

 マルコも嬉しそうな顔をして迎えてくれた。二人共何があったか知っているので気が緩みそうだがファウロスもいるので詳細を口には出来ない。

 三人でわかり合っているように見えたのが気に入らなかったのか、ファウロスが訳知り顔で口を開いた。

 

「本当はライアンが首を切りカトリーヌは切り口を焼いただけなのだろう?お前もヒュドラを押さえていたらしいじゃないか、何かあると思っていたがやはりスキルがあるのだな」

 

 こいつなんで本当の事知ってんだ?

 

 思わずモーガンを見ると彼は別段驚いた様子も無く。

 

「ファウロスの父親は国王の側近の一人だ。賞金を受け取った時に王の側に細身の男がいたろう」


「あぁ、いた!あの偉そう……立派な感じの」

 

 危ない、余計な事を言いそうになったよ。って事はファウロスは王の側近の息子か。それでこんなに偉そうなのか。

 

「なんのスキルだ?」


「えっと……言わなくても良いですよね」

 

 一応マルコに確認した。

 

「言うか言わないかは本人に一任されておる」


「だそうです。言いたくありません。別にファウロス様に言いたくないという訳ではなく広めたくないだけです」


「私が他の者に話すとでも?」


「知らない方がご迷惑をおかけしないと思います。私ってここで働きだしてから全然ツイてないので」

 

 作り笑顔の私と眉間にシワのファウロスが睨み合いになった所で店を開ける時間となった。

 

「さぁ、仕事じゃ。今日もしっかり稼ぐのじゃ」

 

 マルコの一言で私は店の扉を開けると騎士達を招き入れた。数人が入った所で続いて鎧姿ではない冒険者の格好の男達が三人入って来た。

 

「確か昨日で昇段試験は終わりのはずだと思っていたのだが」

 

 三人のうちの一人が私に聞いてきた。

 

「はい、実は今回は特殊な事情がありまして、昇段試験の期間が延長されており明日までとなっております」

 

 そう言うと私はマルコを振り返った。マルコは上級の手続きをしながらこちらを見た。

 

「昇段試験の期間中でも一般の人もご利用できます。ただ時々揉め事が起きるので普通の人は避けておられますがの」

 

 昇段試験の期間は貴族が偉そうにしてるので冒険者は嫌がって時期をずらす。この人達だって終わっているつもりで来たのだからそうだったのだろう。

 

「そうだったのか、だが我々もあまりシルバラにいられる時間がないので出来れば利用したい」


「レベルは何ですか?」


「上級だ。前回は三人でレベル44だった」


「上級なら待って頂ければ今日中には入れるかと思います」

 

 中級よりは皆が慎重に進むので今回は自主脱出が多い。回転が早いのでなんとか入れるだろう。

 私の言葉を聞いた三人は話し合い、上級へ三人パーティで申し込む事となった。

 

 三人は騎士達が並ぶ上級の列に並び始めた。

 上級に並ぶ騎士達はある程度年齢のいった落ち着いた者たちだったので大人しくしていたが、平民の冒険者が自分達よりも上のレベルだという事が気に入らない中級の若い騎士達は少しソワソワしていた。

 私は中級の手続きを少し早めて次々と騎士を訓練場に連れて行った。冒険者の手続きが終わったがマルコは訓練場へは連れて行かずカウンターのあるこちら側で順番を待てるようイスを用意した。

 

 混ぜるな危険なんだね。

 

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