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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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36 希代の魔術師2

 カトリーヌは足を組み替えるとニッコリと笑った。

 

「それで、なんのスキルなんだい?」

 

 そんな簡単に話していい事なんだろうか。秘匿するもんだってライアンも言ってたしなぁ。

 

「内容によっちゃ手伝ってやるって言ってんだよ、しかも格安で」


「お金取るんですか?」


「お前、私が誰だか知らないのかい?私を無料タダで使おうなんて随分厚かましいね」

 

 やば、この人って有名人なの?

 

「ユキ、カトリーヌは有名な魔術師だ。先の勇者と一緒に魔王を倒した仲間の一人だよ」


「えぇ!そんなに凄い人なの!」

 

 イーサンが親切にコソッと教えてくれたのに思わず大きな声で驚いてしまう。

 

「ユキはホントに何にも知らん田舎者(いなかもん)じゃのぉ」

 

 さり気なくマルコが庇ってくれた気がする。カトリーヌはチラッとマルコを見たがすぐに私に視線を戻した。

 

田舎者(いなかもん)んね。まぁ、今はいい。それで、話す気になったかい?」


「もし言ったとして、それがあなたのお気に召さなかったら手伝ってくれないんですよね、格安では」

 

 私の言葉にカトリーヌは形の良い片眉をあげた。

 

「私に条件を出せる立場かい?」


「立場うんぬんは後で考えるとして絶対に手伝ってくれるなら言います。本来秘匿すべきものを上司、オーナーとはいえ強制されては言いたくありません」


「私の力はいらないというのか?」


「カトリーヌさんが凄い人だと聞いたところで私にはどれ程のものかわかりませんのでそれにかけるには分が悪過ぎます。ライアンがあなたに何も言わずに出て行ったという事は彼も当てにしてないって事ですよね。だったら私も来るか来ないか分からないものは当てにしません」

 

 キッパリ突っぱねた私を皆が驚いた目で見ている。

 カトリーヌはマルコを見るとククッと笑った。

 

「あんたにしては珍しく面白い(むすめ)を連れてきたね。物を知らないくせに偉いつもりで言い切る度胸は気に入った。馬鹿はいずれ治るだろ、今回はマルコとライアンに免じて必ず付いて行くと約束してやるよ、格安でね」


「ホントですか!良し!すっごい魔術師なんてカッコイイ!よろしくお願いします」

 

 これで少しは魔物を倒す確率が上がっただろう。私が今回の戦いで使い物になるかなんて分からない。でも有名な魔術師のカトリーヌならライアンの負担を確実に減らしてくれるだろう。

 

「それで、スキルはなんだ?」

 

 忘れてくれてなかったか、残念。

 

「怪力です……」


『怪力!』

 

 カトリーヌとイーサンが驚いた。

 

「ユキがスキル持ちなのも知らなかったが、まさか怪力なんて‥‥」

 

 あぁ!イーサンがいるのを忘れてた。やっちゃったよ、自分でバラしちゃったよ。

 

「怪力か、丁度いいね。なるほど、ライアンが引き受けるはずだ、怪力ね」


「何度も言わなくてもいいですから、誰にも言わないで下さい。こんな恥ずかしいスキル」


「恥ずかしい?よく言うよ欲しがる奴はいくらでもいる。貴族の愛人になりたいなら良い所を紹介してやるよ」


「愛人なんてしませんよ。なんで急にそんな事言うんですか?」


「そりゃスキルがあるからさ、貴族はスキル持ちを率先して取り入れる。身内にいれば優位だからね」


「スキル狙いとか子供狙いとか、貴族って何やってんですか」

 

 そこまで言ってここにも貴族がいる事を思い出した。

 

「あ、すみません。イーサン……」


「いや構わん。私もそういうやり方はあまり受け入れられない方だからな」

 

 なるほど、それで貧乏なのかも。好感は持てるけど貪欲に一族を栄えさせようとしていないのかな。貴族も色々だな。

 

「明日、打ち合わせに来る。ライアンが帰ってきたら言っときな」

 

 カトリーヌはそう言ってマルコを連れて帰って行った。

 イーサンと二人切りとかなんとなく意識してしまうが、カトリーヌに職場恋愛禁止にされたから向こうも何も言ってこないだろう。ライアンのせいで私だけが意識してるだけかも知れないし、気にするのは止めだ。

 

「しかし、何かあるとは思っていたが『怪力』か」


「イーサン、誰にも言わないで下さい、恥ずかしいですから」


「さっきカトリーヌも言っていたが恥ずかしがる事じゃない。スキルの力を欲しがる者は大勢いる。今言われている借金だって払ってやるという貴族は探せばすぐ見つかるだろう。……私には無理だがな」

 

 えぇっと、自分には言ってくるなよって言われてるのかな。

 

「そんな大丈夫です、イーサンに迷惑はかけませんよ。他の貴族に頼る気も無いですし」


「ハハ、そうか。ユキは強いな、ライアンにもカトリーヌにも一歩も引かずに交渉までしていたしな」

 

 彼は力なく笑った。

 

「事情があまりよく分かってないから怖いもの知らずみたいになってるだけ出すよ。カトリーヌさんも言ってたじゃないですか、馬鹿だって」


「だが気に入られていた。馬鹿は治るとも言っていたしな」


「ホント、酷いですよね」

 

 二人でクスクス笑っているとライアンが帰って来た。

 

「まだいたのか?」

 

 私達の様子を見てライアンが機嫌悪そうに言った。

 

「違います、待ってたんです。カトリーヌさんがヒュドラ退治に付いてきてくれるって」


「条件は?」

 

 話を聞いたライアンは眉間にシワを寄せた。

 

「私のスキルが何か言えって事」


「話したのか……」


「だって怖い魔物なんでしょ?私がどれほど役に立つか分からなかったし少しでもライアンの助けになればって思って」


「今度から何か要求された時は一旦オレに振れ。今回はカトリーヌじゃなくても何とかなったんだ。まさか来るつもりだったとは思っていなかった」


「最初から来るつもりで私に話してたって事?」


「そうでなきゃ何も知らんお前のやり方でカトリーヌが気持ちを変えるとは思えん。オレのいない所で話したかったんだろう。この後どう出るかが問題だがとりあえず魔術師は確保できたから良しとするしかないか」

 

 結局カトリーヌの思うツボだったって事なの?この世界怖いんですけど、命がかかってる話で味方からも引っかけ問題とかあるの?っていうか、オーナーと従業員でも油断しちゃ駄目って、私が世間知らずなだけなのかな。前はただデスクワークしてただけだもんね。大人って大変だな。

 

 

 

 

 

 

「お前、こんな所で寝泊まりしてるのか?」

 

 聞き慣れない声がしてガバっと起き上がった。

 

「ファウロス様?」

 

 アレ?ここは事務所のはず。

 

 キョロキョロ周りを見たが間違いなく最ダンの事務所だ。

 

「おはようございます、ファウロス様。何故ここへ?」

 

 ここは基本的に関係者以外立入禁止だ。

 

「契約しに来ただけだよ。早く顔を洗って仕事しな」

 

 カトリーヌが机の上のものを退けて書類を一枚取り出しファウロスにサインするように指差した。寝ボケた頭では理解できずとりあえず物品倉庫で着替えると顔を洗いに行った。

 

 契約って言ってたけど、まさか最ダンに入るワケじゃないよね。裕福な貴族のはずだから。

 

 身支度を整え訓練場を通り待機室に行くとイーサンが帰るところだった。

 

「おはようございます。おつかれさまです、昨夜はどうでした?」

 

 さほど疲れた様子も見れなかったので要請はなかった感じだ。

 

「あぁ、上級で一件だ。ライアンが行ってくれたから私はずっとここで暇にしていたよ」

 

 相変わらずライアンはソファで眠っている。いつでもどこでも眠れるのも一種のスキルだな。私にも備わりつつあるのが怖いけど。

 

 すぐに交代でモーガンがやって来ると後からファウロスとカトリーヌも待機室に入って来た。

 

「どうしてファウロス様がここに?」

 

 カトリーヌに尋ねているとライアンも起き出した。

 

「私達がここを離れる間はモーガンとイーサンだけでは回せないからね、ファウロスが手伝いたいって言うから一時的に雇った」

 

 いつも通りファウロスは私に厳しい目を向けてくる。しつこいタイプは嫌いだ。

 

「ホントにダンジョンを破壊したのか?」


「まぁ、事故ですけど」

 

 嫌いなタイプだがこいつは貴族だ。ある程度は逆らわない方がいいんだろう。

 

「そうか、やはりユキはスキル持ちだったか」

 

 モーガンがそう言ってライアンを見た。ライアンもモーガンから目を離さない。

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