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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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34 ダンジョンの異常9

ブクマありがとうございます!

 トロールの手を受け止めたがどうすればいいか分からない。愚鈍な魔物はゆっくりとその手を持ち上げると本来ならぺしゃんこにつぶれているはずの私達を確認しようとしたのかこちらを見た。私達がまだ生きている事に動揺したのか慌てて今度は横から手で払い除けるように攻撃して来た。

 

「ユキ!踏ん張れ!」

 

 ライアンの声が聞こえた。とっさに足に力を入れ身構えると横からの衝撃に備えた。すぐに物凄い音と力を体全体に受け耳がキーンとなった。足元が少し滑り膝が痛んだが踏みこたえマルコには当たらなかった。

 

(いった)い!」

 

 痛み耐えているとご機嫌なライアンの声がした。

 

「良くやった!後は任せろ、マルコさんを頼むぞ」

 

 そう言って走りながらあっさり二体のオーガを倒しトロールに斬りかかった。

 ライアンはトロールを引き付け私達から遠ざける。

 

 相変わらず馬鹿みたいに強いな。

 

 彼の戦いっぷりを見つつ、さっきの攻撃で耳がまだ聞こえづらいが負傷したマルコの頭にポーションをかけその顔の血を拭った。

 

「大丈夫ですか?」


「あぁ、どうやら助かったのぉ。ユキのおかげじゃな」


「ムカつくけどライアンのおかげかも。二度目の攻撃にはとっさに反応出来なかった」

 

 そう言って振り返るとライアンによってトロールが腕を切り落とされ、怒り狂った奴は闇雲に攻撃しようと足を踏み鳴らしその巨体でタックルをする様にこちらに向かって来ていた。私達に背を向け戦っていたライアンが何とかその方向を変え、トロールは壁に激突すると動かなくなった。パラパラと壁が崩れ土埃が立ち咳き込む。

 

「ゴホゴホ、ちょっと、危ないじゃない!」

 

 私が口を尖らし文句を言うとライアンはニヤッとした。

 

「そっちに行っても受け止めればいいだろ」

 

 彼はマルコに近寄り助け起こすと他の怪我を確認する。

 

「ワシはもう平気じゃ」

 

 それを聞くと今度は私に近寄り雑に顔に触れるとオデコを見て舌打ちしポーションを取り出しかけてきた。

 

「なんでお前は顔ばかり傷を作る」


「えぇ!また顔?もう〜顔は無理だって」

 

 雑だがポーションをかけてくれケガの跡を指で擦ってくる。

 

「治った?」


「あぁ、膝にもかけろ」

 

 二度目にトロールを受け止めた時に少し痛めていた膝にも残りをかけた。

 

 よく気づいたよね、血が出てるわけでもないのに。

 

 無事に三人一緒に帰還しようと魔法陣がある方へ歩きかけた。私は何気なくベルトを確認するとダガーが無いことに気がついた。

 

「アレ?どこだ?」

 

 きっと最後に攻撃を受けた衝撃で吹き飛んだんだと思いキョロキョロと辺りを見回した。少し先まで進んでいたライアンが面倒くさそうに私を呼ぶ。

 

「早くしろ、また何か出て来ないとも限らん。一旦戻って今度はオレが来る」


「でもダガーが……あ!あった」

 

 ダガーは倒れたトロールの側に落ちていた。私はそこまで走って行き拾い上げようとした。するとダガーのすぐ側にコロコロと小石が転がって来た。

 

 え……

 

 ドキッとして顔をあげるとトロールと目が合い私に手を伸ばしてきた。

 

「ユキ!」

 

 異変に気づいたライアンが叫んだがここまで間に合わない。

 

 自分で殺らなきゃ!

 

 トロールが私を摑もうと腕を伸ばしてきたので逆にその手を掴むと思いっきり離れた反対側の壁に向けて投げ飛ばした。

 

「しつこいんだよ!!」

 

 くるりと回転しながら巨体は飛んでいくと壁をぶち抜きガラガラと音を立てて天井が崩れ落ちてきた。

 

「馬鹿、やり過ぎだ!早く来い巻き込まれるぞ!」


「嫌だ!待って、置いてかないで!」

 

 慌てて二人の元に駆けつけ急いで避難した。後ろではダンジョンの崩壊が続き魔法陣に飛び込むと一瞬で元の最ダンに戻った。

 

「びっくりした〜。ダンジョンて崩れるんだね」


「当たり前だろ、どんな物だって無茶すれば壊れる」

 

 ライアンが呆れたよう言った。

 

「ワシのダンジョンが……カトリーヌになんと言えばいいんじゃ……」

 

 マルコが涙ぐみながら頭を抱えていた。

 

「く、国がなおしてくれるんでしょ?そもそも魔法陣がおかしかったせいだし」 

 

 冷静に考えたらマズイ事になってるのかも。ちょっと顔が引きつりそうになりながらライアンを見た。

 

「知らねーぞ。ここの客だって必要以上に施設を壊せば賠償請求されるんだ」


「でも私は客じゃなくて店員だし!職務中の事故は会社の責任でしょ?」


「本人の落度があるだろ。著しく度を越してる場合は駄目なんじゃないか?」


「いやいやいやいや、それを言うならライアンだってちゃんとトドメを刺しておかなかった事だって落度でしょ?」


「オレを巻き込むな。いつもちゃんと手加減してる」

 

 いつも手加減して戦ってるって事?こいつどんだけ強いの?

 

 ライアンはサッサとドアを開け出て行った。私とマルコは顔色も悪く待機室に入るとモーガンが心配そうな顔で話かけてきた。

 

「二人共大丈夫か?最後はどうなっていたのだ?なんだかダンジョンの形も変わったようだな」

 

 壁に映し出されているレベル15の地図は頭の悪い私が見ても迷宮が三分の一ほど無くなりポッカリと空間が出来ている事がわかる。

 

「どうしよう……」

 

 心の中では自分が悪いと分かってはいるが認めてしまうと恐ろしい事になる気がする。いや、既になっているのか。

 

「とにかくカトリーヌに知らせなきゃならん。行ってくるよ、ここは任せたぞ。ユキは……ここを出るなよ」


「はい……」

 

 しっかり逃げるなと念を押された気がする。損害賠償っていくらかかるんだろう……もう一生ここの事務所に住んで働かなきゃいけなくなったかも。部屋を借りたりここを辞めて普通の生活をするなんて夢のまた夢なのか……

 

 

 

 

 どんよりしたまま終業時間が来て今日の当直のイーサンがやって来た。まだマルコは帰らないしライアンはソファで寝てる。交代でモーガンが帰ったあとイーサンが話かけてきた。

 

「ユキ、その姿……よく似合ってるな」

 

 そっか、イーサンはまだ見てなかった。色々あり過ぎて今日がこの服初日なんてもう忘れてた。

 

「ありがとうございます。ちょっと思ってたのと違ったんですけど」

 

 私はお尻を触りつつ言った。

 

「あぁ、まぁでも綺麗だよ。振る舞いには気をつけなさい、変な虫がつかないようにな」

 

 少し照れた感じで褒めてくれ嬉しさが込み上げる。

 

 やだ〜、綺麗とか言われちゃった。イーサン惚れちゃうよ〜なんてね。

 

「そんな大げさな。イーサンていつも婚約者さんにそんな風に言葉をかけるんですか?ステキですね」


「いや、どうかな。彼女とは幼い頃から知り合いだから改めて何かを言う事はあまりないな」


「それは駄目ですよ、ちゃんと言わないと。きっと喜びますよ」


「だがなんと言えばいいのか」


「今、私に言ったように言えばいいじゃないですか」

 

 イーサンは少し頬を赤らめ横を向いた。

 

「ユキは美しいからな。見たままを言えばいい」

 

 そう言うと離れた場所にある椅子に座った。

 

 マジ惚れそう……顔が熱い。

 

 なんとなく居づらくなって待機室を出ようとライアンが寝ているソファの横を通ると、彼は目を開け機嫌悪そうにこちらを見ていた。

 一旦、訓練場に出ると給湯室に入り熱くなった頬を冷まそうと顔を洗った。

 

 マズイ、ここで恋愛沙汰は駄目だ。ましてイーサンは貧乏とはいえ貴族だし。愛人とか私には無理だ。二股みたいなもんでしょ?悲劇再びだよ……

 

 手ぶらで戻れない感じがしてお茶を入れようとケトルに水を注いだ。

 

「止めとけよ、イーサンは貴族だ」


「うわっ!ライアン、脅かさないでよ」

 

 いつの間に来たのかライアンが後ろに立っていた。

 

「わ、わかってるよ。前にも聞いたし、今それどころじゃないし」


「どこまでいっても愛人は愛人だ。進んで苦労すること無い」

 

 母親の事を言っているのだろうか。

 

「自分の家が大変だったからそう言うの?」


「それもある。貴族の子を持っていれば他の男も付きにくい。面倒に巻き込まれるのが嫌だからな。だから子供を引き渡す親も多い」


「そんなに都合よく引き取ってくれるものなの?本妻は嫌がらないの?」


「そりゃ嫌がるさ。だけど他人を雇うより安上がりだし優秀な子だったら儲けもんだ。自分の子の部下として一生側に付かせる。人数が増えれば一族が栄えるし、他で仕事を探すよりは生活は安定する」

 

 どの世界でも安定した生活を手に入れるのは大変か。

 

「そうなんだ。どっちにしても今はそんな気にもなれないよ」


「なんだよ、前の奴を引きずってんのか?」

 

 からかうような口調に腹が立つがその通りだ。

 

「まだ引きずっててもいいくらいの時間しかたってないわよ。色々あり過ぎて感覚が麻痺しちゃってるけどひと月もたってないもの」


「ふ〜ん、そんなにいい男だったのか?」


「それが、よく分からない……」


「なんだよそれ、結婚するつもりだったんだろ?」


「そうなんだけどね……別れることになって辛かったんだけど、それより私ってそんなに価値が無いんだって思ってさ。なんだか相手の事より自分の存在意義の無さのほうが気になって。私って結婚に向いてないのかも。誰かより自分の方が大事な気がする」


「難しい事はわからんが結局はみんな自分が大事だろ、気にするな」


「ここじゃ行き遅れだって言われるしね。今はもう諦めてるよ」


「おい、本気で取るなよ。冗談だろ」

 

 ちょっと焦ったようにライアンが笑いかける。

 

 お前は冗談のつもりでもこっちは本気で傷ついてんだよ。

 

「もう立ち直れないで〜す」

 

 私は入れたお茶を持つと目を伏せながらライアンの横を通り過ぎた。

 

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