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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶
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3 王都 シルバラ

 おじいちゃんの荷馬車に乗せてもらいゴトゴト揺られ数時間、森を抜けると時々他の馬車や歩く人とすれ違う。

 人々の様子を見てもやっぱり私がいた世界とは雰囲気が違っている。車も無く自転車もない。

 異世界に来てしまったのはさっきのゴブリンでわかっていたが嘘であって欲しかった。

 少なからず戸惑っているとやっと遠くに文明の香りがする建築物が見えてきた。


 良かった、掘っ立て小屋とかだったらどうしようかと思ってたけど結構文化的な暮らしをしているようだ。


「ねぇねぇおじいちゃん、あの凄い建物なに?」


「おじいちゃんじゃなくてマルコと呼んでくれ。お前さんは何という名前じゃ?」


「私はユキ」


 マルコによると目の前に広がる巨大な建築物はここプラチナ王国の都シルバラを取り囲む外壁だった。

 遠くから見ても大きそうだと思っていたけど近づくにつれその迫力にため息がもれる。

 ゴツゴツとした見た目で石造りのように見えるがその継ぎ目はどこにも無い。まるで一枚岩で作られたかの様なその分厚い壁に鉄格子の扉が取り付けられている。


「凄い……都って大っきいんだね」


「そりゃ王都だからな、国で一番栄えとる。門には検問があるが……ユキは通行料は持っておらんのだろうな」


「そんなのいるの?お金なんて無いよ」


「仕方ないの、とりあえず払っておいてやる。必ず返せよ」


「もちろんです」


 マルコは馬車を進め検問所に来るとジャラリと数枚のコインを係の人に渡した。


「いくら払ったの?」


「お前さんは余所者だからな、大銅貨三枚、三千ゴルじゃ」


 ここじゃお金の単位はゴルというらしい。小銅貨が大体百円くらいの価値で後は十枚毎に大銅貨、小銀貨、大銀貨と大きくなり大金貨は一千万円くらいの価値だ。まぁお目にかかる事は無いだろう。


 ここシルバラに住む者は身分を証明出来れば無料で検問を通過できる。顔パスもあるだろう。

 この国の行商の人で他の地域の人は商売目的で権利書を持っていれば大銅貨五枚、他の国の商売人は大銀貨一枚、ちょっと高いが国内の商売人を守る為だし結局それ以上の儲けが見込めるほどここは栄えているらしい。


 マルコはここの住人なので住人専用の簡易検問所を通れるが住民以外は長い列に並んで検問を通らなくてはいけない。多い日には数日かかることもあるらしい。


 門をくぐると驚いた。マルコの荷馬車は絵に書いたような田舎クサイちょっと古ぼけた壊れかけの物だが街の様子はそれとは別格に発展していた。

 中世ヨーロッパ風な街並みだけど、石畳の道の両側には店が立ち並び店先はガラス張りで中の様子が伺える。

人々が大勢行き交っていて、服装もドレスをまとった女性がいたり豪勢に着飾った紳士がいたり。でも、あっさりしたワンピースや少し安っぽいラフな格好の人、ティーシャツにズボンの人もいて私の服装もあまり違和感はない。

 荷馬車は賑やかな通りをどんどん進みバザールと呼ばれる市場を通過し住宅街なのか少し静かな通りに入って行った。

 通りから入ってすぐ、何軒か並んで建っているこじんまりした家の前で馬車は止まった。


「そこがワシの家じゃ、そこでちょっとばあさんに話してからユキが泊まれる所へ連れて行くから馬車で待っててくれ」


 そう言ってマルコは家に入って行った。家の前に馬車を止めたので中での会話がまる聞こえだ。


「また何か拾って来たのかい。駄目だって言ってるじゃないか!」


「いや困ってるお嬢さんがいて……」


「前もそんなこと言って得体のしれない男を連れてきたんだろ!いい加減にしな!」


「いや、お前に面倒はかけないから。すぐにあそこに連れて行くし」


「当たり前だよ!早く行って片づけてきな!」


 キツイ奥様なんだな、大変そう。


 マルコは少しうなだれて出てくると再び馬車を走らせた。


「ごめんなさい、私のせいで奥様に叱られた?」


 流石に悪いと思って謝った。マルコは肩を落とし力なく笑う。


「いいんじゃ……いつもの事じゃ」


 気まずくなりながらも馬車は進み、それ程の賑わいもなく地元の人が利用してそうな飲食店などが数軒立ち並んでいる通りに来た。

そのうちの一つの大きな構えの店の前に馬車は止まりマルコが私に降りるように言った。

 店の看板には『最終試験ダンジョン』と書いてあるのが読めた。


 おぉ、字が読める。もしかして書くこともできるのか。異世界転移って結構便利。


 マルコに導かれるままに店の脇にある『関係者以外立ち入り禁止』と書かれてあるドアを開け中へ入り細い廊下を行くと広い部屋に出た。

 そこには事務用机やソファ、テーブル、荷物が詰め込まれた棚や箱がそこかしこに雑然と置いてあり男所帯の匂いがプンプンした。


 マジか、臭い。


 置いてあるソファにひとりの男が寝ていた。顔にはタオルをかけ足を片方テーブルに乗せている。わかりやすくウザそうなやつだ。


「ライアン、就職希望者が来たぞ。面接してくれんか?」


 ライアンと呼ばれた男はピクッと反応すると顔のタオルと取りチラリと私を見た。一応面接だし愛想良くしておいたほうがいいかと思いニコリと笑顔を作った。


「却下……」


 それだけ言ってまた顔にタオルを乗せると眠りだした。するとマルコはあわあわとしもう一度ライアンを起こした。


「いや、でももうすぐ昇段試験のシーズンだし人手はいるじゃろ。このままじゃとてもじゃないけど回せんぞ」


 マルコの言葉に舌打ちをし面倒くさそうにタオルを取ると今度はゆっくりと起き上がりソファに座った。


「はぁ……こんな痩せた女に務まるわけないでしょう。もっと頑丈な根性あるやつじゃないとまたすぐに辞めるだけですよマルコさん。教えるだけ無駄です」


 ライアンはボサボサ頭と、それと繋がったモサモサの無精ヒゲ男でガタイは良さそうだが清潔感はない。私がその姿を多分嫌そうに見ていたのだろう、彼は口の端をあげると体をボリボリ掻きながら言った。


「こんなの務まりませんよ、すぐに死にます」


「死ぬ!?ここの仕事って命に関わるんですか!?聞いてないんですけど」


 私が驚いて振り向くとマルコはテヘっと舌を出した。


「じゃから言ったろ、キツイ仕事だと」


「いや、キツイにも限度があるでしょ。命に関わるってどれ位の確率で死んでるの?」


 二人共黙った。


「そんなに死んでるの……」


 私は血の気が引くのを感じた。生きていたいから働きたいのに死んだら元も子もない。


「最近はあんまり死んでおらんぞ」


「最近はほとんどオレとマルコさんだけでやってるからな。皆死にかけて辞めてった。最短二時間で辞めたな」


 ライアンが面白そうに話す。


「いや実質一時間じゃ、事前の説明が一時間あったからな。そしたら運悪くすぐに呼び出しがあったからの、レベル11から」


「レベル11なんて初級と同じですよ、それをビビって救助要請放り出して逃げ帰ったんですから。なんとかオレが間に合ったけど後が大変だった」


「流石に素人なのに一人でグール二体はキツかったんじゃろ。泣いておったからの」


 二人で和気あいあいと思い出話に花を咲かさないで欲しい。


「なんですかその救助要請って」


 疑問を口にするとライアンはため息をつきマルコに注意した。


「マルコさん、ちゃんと仕事内容を説明してないんですか?それじゃホントに死にますよ」


 そう言って私に向き直ると仕方なさそうに教えてくれた。


「ここは最終試験ダンジョン、略して最ダン」


 ダッサ、誰だ略したの。


「ダンジョン内に魔物をレベルに合わせて配置しそこをどこまでクリア出来るかを挑み証明する。

本来は勇者を選別し探し出す為に作られた施設だが今は主に騎士団の昇段試験や冒険者達のレベルの証明に使われてる。

 だが初級レベルは子供が親から魔物を倒す手解きをしたり若いヤツが面白半分に利用したりしている。ま、暇つぶしだな」


 この王都周辺は騎士団が警戒にあたってる為魔物が極端に少ない。その為外壁を出ずに暮らしている平民にとって魔物は滅多にお目にかかることが無く、この周辺では言わば事故のような確率でしか遭遇しないらしい。

私は既に会ってしまったがレアな事だったようだ。


「もちろん地方に行けば沢山の魔物がウヨウヨいて襲われる人もいる。ここが特別なんじゃよ」


 ここで鍛えられた騎士や冒険者達が地方で魔物を倒し人々の生活を守っているらしい。


 結構重要な施設なんだね。


「普段ここに来る客は昇段試験やレベル上げがほとんどだが時々観光客が団体で来る時もある。もしここで働くなら初めのうちはレベル1から10はお前の担当だ」


「担当って何するんですか?」


「受付、案内、説明、それから救助要請に応じてもらう」


「だから、その救助要請って何ですか?」


 さっきから聞いてる内容から想像してもいい答えは望めない感じだ。


「何らかの理由でダンジョンから自力で脱出出来なくなった客を迎えに行くんだ」


「何らかの理由って?」


「道に迷った、飽きた、腹が減った、これまで色々な理由があったが一番多いのが魔物に襲われて身動き出来なくなったから助けに来てくれって事だな」


「ですよね」


 答えを聞いて泣きたくなった。


 


 

 

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