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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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23 昇段試験6

「行ったよ、上級」

 

 待機室に戻るとライアンに報告した。出来ればキャンセルして欲しかったけどプライドが邪魔して無理だったようだ。

 ライアンは黙って頷くと起き上がってソファに座り分割された地図を確認しつつ頭をかいた。

 

「ユキ……準備しとけよ」

 

 ……………………はぁあ?

 

「な、な、なんの事ですか?今日は初級には誰もいませんよね?」

 

 私の担当は初級だけだったはず!嘘ですよね?

 

「どんな時にも不測の事態ってのは来るんだよ」


「いや、不測すぎるでしょ!私は昨日今日入った新人中の新人ですよ。まだゴブリンしか戦った事ないのに中級以上なんてとてもじゃないけど無理ですよ!」

 

 驚きすぎて首がちぎれるほど横に振ると目眩がした。

 

「無理です、絶対に無理!この前死にかけたばかりですよ」


「今回は最初からコレで行け」

 

 ライアンは拳を握って言った。

 

「人の話聞いてます?」


「おまえは最初にここに来た時も戦えないって言ったが出来た。後は経験だけだ。流石に一人では無理だからマルコさんと一緒に行ってくれればいい」


「マルコさんと……それならまだ……でもマルコさんって一人で行ってますよね」

 

 昨夜は三回いったはず。

 

「確かにそうだがやっぱり回数が増えると負担が大きい。そうなれば判断が鈍ったりするから助手的な誰かがついている方が良いだろう」

 

 マルコはまだ休憩しに行って戻って来てない。いくらポーションを使ったところでそう簡単には疲労感は抜けないのだろう。見た目はただのおじいちゃんだし。

 

「マルコさんて何者ですか?おじいちゃんなのに強いみたいだし」


「まぁ見かけに騙されないことだな。あれで結構やる」

 

 何となく話をはぐらかされた気がするが聞くなと言う事か、別に良いけど。

 そんな事より魔物が強くなって来ていると言われている所へ救助に行かなくちゃいけないの?騎士が救助されて帰ってきてるのに?

 

 私が戸惑って何も飲み込めていなくても容赦なく救助要請はやって来た。

 待機室の明かりが二度チカチカと点滅し驚いて顔をあげると上級の地図で赤い光が見えた。

 

「来たか」

 

 素早くライアンは立ち上がると地図をザッと見てマントと剣を掴み部屋を出た。

 私はひとりで待機室に残されると要請が出ている上級の地図を少し拡大して見た。

 レベル39で結構深い。せっかくそこまできてもう少しでレベル40なのに救助を要請しなきゃいけないなんてよっぽど切羽詰まった状況なんだろうな。

 ライアンが転送され地図上にポツリと光が増えた。赤い光までは結構遠く、最短でも場所によっては行き着くまでに時間がかかる。ライアンの光が勢いよく赤い光のところ目がけて移動し、それは順調そうに進み確実に距離を縮めていた。

 私はハラハラしながら二つの光を交互に見ていた。すると急に赤い光が突然ライアンがいる方向とは逆の方へ移動しだした。私は自分の『所在発信用魔石』をグッと握り込んだ。

 

「ライアン、救助対象が移動してる!」

 

 自分の声が頭の中に響いて聞こえた。

 

「どっちへ向かっている?」


「遠ざかってる。勢いがあるみたいだから何かに追いかけられてるのかも」


「チッ、オレの方も出てきた!オーガか!何体いるんだ?」

 

 どうやらライアンも魔物と遭遇したようで、そこから数分、戦っている激しい息づかいだけが聞こえてきた。それに意識を集中させているといつの間にか祈る様に両手を握り力がこもる。

 

「よし!」

 

 その声と同時にライアンの光がまた移動を始めホッと手の力を抜いた。

 

「まだ気を緩めるな」

 

 私が小さく息を吐いたのが聞こえたのかライアンからお叱りの声がした。ちょっと恥ずかしい。

 

「あっちはどうだ?」

 

 すっかり忘れてたけど赤い光に目をやった。

 

「あぁ、進行方向を右にどんどん進んでる」

 

 騎士は迷宮にいくつか有る転送用の魔法陣が無い方へと追い詰められている。上手く救助用の魔法陣へと近づければそこから脱出できたがそれも無理なようだ。騎士達にはその場所は知らされていないし、どこで自分が危機に陥るかもわからない。ライアンはこの階のおおよその地図が頭に入っているらしく私の答えに悪態をついた。

 

「クソッ!上手く行かないな」

 

 そう言いながらどんどん進み騎士を追いかけて行った。行き着くまでにまた魔物と遭遇したが小物だったらしく軽く倒す声だけがすると何事もなく進んでいた。

 

「もうすぐだよ」

 

 私は地図上の二つの光が直ぐ側まで近づいた事を知らせた。

 

「見えた!……ガーゴイルか!」

 

 どうやら騎士を追い詰めているのはガーゴイルらしく、しかも数体いるようだ。確か石っぽい飛ぶ奴だよね。硬いのかな?

 そこからは騎士にポーションを与え一緒に戦う声だけが延々と響き、私はまた両手に力がこもっていた。

 

「あと二体!」

 

 進捗状況を知らせてくれたのかライアンの声が頭の中に響いたその時、不測の事態はやって来た。

 

「ライアン!!救助要請が来た!」

 

 私は悲鳴の様な声を上げてしまう。待機室の明かりが二度点滅し見ていなかった地図の一つに赤い光がついていた。

 

「クソッ!どこだ?」


「中級、レベル27!」


「27か……救助用の魔法陣の位置からは?」

 

 私は動揺しながらもすぐに魔法陣の位置を確認した。

 

「ち、近くにある」

 

 ひと呼吸おいて低い声がした。

 

「……行けるか?」

 

 その声に体がビクッとし、一瞬息を止めた。

 

「私が……?」

 

 心臓がバクバクとして耳鳴りがする。ここには私ひとりだ。

 

「行くんだ、それともそこでその光が消えるのを見ているか?」


「光が消える……」

 

 それはそこに浮かび上がっている名前の騎士が死んだ事を意味する。私が救助に行かなかったら恐らく数分後に消える。

 

 もう!何でこんな事に……

 

 一度大きく深呼吸した。頭は上手く回ってないがゆっくりと立ち上がりベルトを確認した。ポーション、ハイポーション、魔石、念のためダガーも。

 

「ふぅ……行きます」

 

 待機室を出ると訓練場にいる騎士達がこちらを見た。みんなライアンが今、救助に行っているのは知っているので私が救助専用のドアに近づくとザワッとし、アウロラが声をかけてきた。

 

「ライアンはもう帰って来るの?」

 

 美しく微笑む彼女に対して余裕無い私は顔を引きつらせながら答える。

 

「まだです。すみません、急いでいるので」

 

 そう言ってドアに手をかけた。

 

「まさか救助要請?あなたが行くの!?」

 

 驚いた声を上げる彼女を振り返って言った。

 

「仕事ですから」

 

 まだ何かアウロラが言っていたがドアを閉めると魔法陣の横のタッチパネルを操作し一応救助者の居場所が分かるようにした。

 

 出てすぐ右に真っ直ぐ、三つ目を左に行けばいるはず。

 

 アウロラには偉そうに「仕事ですから」とか言っちゃったけど、呼吸は苦しく震えの止まらない手で魔法陣を作動させた。

 床が光りクラリとして一瞬真っ暗になり、すぐに明るくなった。

 

 来るんじゃなかった!

 

 目の前にグールがいた。それも二体!

 

「キャーー!!」

 

 思わぬ自体に悲鳴を上げてしまう。

 

「ユキ!大丈夫か!?」

 

 頭の中にライアンの声が響くが答えることが出来ない。グールの一体は近い位置でこちらを向いていたがもう一体は少し離れていた。近くにいた方が私の悲鳴と同時に襲いかかってきた。

 

「イヤ!来ないで!」

 

 魔法陣は少し窪んだ陰に設置されていた為コイツを倒さなくては逃げる事も出来ない。パニクって後ずさりする事しかできず壁際に追い込まれた。向かって来たグールに肩を掴まれ噛みつかれそうになり慌てて両手で突き放したが、グールは肩から手を離さず再び食らいつこうと迫って来る。

 

「止めて!離してぇ!」

 

 泣き叫んだところで魔物が聞いてくれるわけもなく。ギリギリの所で揉み合いになる。何とか抵抗していたがすぐに、気持ちの悪いグールの顔が間近に迫り開いた口からのぞく牙が今にも頬に触れそうになる。

 

「いやぁ!ライアン!!」

 

 切羽詰まって彼の名を呼んだ。

 

「蹴れ!そのままじゃ死ぬぞ!!」

 

 ライアンの言葉に体がザワッとし反射的にグールの腹に膝蹴りをした。くの字になった奴を引きずり倒し思いっきり踏みつけた。無我夢中で踏んだグールの胸を踏み抜き私の足が体の中にズッポリとハマった。

 

「いやぁ〜!キモい!」


「ユキ!どうなってる!?」

 

 ハマった足が気持ち悪くて再び悲鳴を上げるともう一体のグールがすぐそこまで来ていた。

 

「うわっ、また来た!もういい加減して!」

 

 私は足にハマったままのグールの死体をそのまま蹴り飛ばし二体目にぶつけた。もろとも二体のグールが飛ばされ倒れた所へ駆け寄ると顔を歪ませながら二体目も踏み抜いた。ハマりたくなかったので頭を。

 

「うぇ〜キモい、吐きそう」

 

 地面にアレが広がり直視出来ない。すぐにここから離れよう。

 

「ユキ!返事しろ、やったのか?」


「キモいけど、なんとか。今、向かってる」

 

 せり上がってくる物をゴクリと飲み込み右へ真っ直ぐ進んだ。

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