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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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19 昇段試験2

 また受付を始めるとライアンが隣でコソッと話してくる。

 

「自在に使えるようになったのか?」


「どうだろ?腹が立って来るとスイッチが入りやすいみたいだけど」


「まだムラがあるって事か。もう少し様子を見ないと駄目だな」


「私を試してたの?」

 

 なんだか実験されてるようムッとする。

 

「見守ってるって言ってくれよ。自在に使える様にならなきゃ困るのはお前だろ」


「そうだけど、体触られたくないんだけど」

 

 いくら命懸けの体張った仕事してても触られるのは嫌だ。

 

「もっと早くにキレるかと思ってたんだ。よくあそこまで我慢したな」

 

 コイツ、私が早々にキレて触られた瞬間に騎士をぶっ飛ばすと思ってたんだろうか。

 

「スイッチが入ってモロにパンチが当たって首が飛んだらどうする気だったの?」


「それは……避けられなかった奴が悪いだろ」


「自分が避けられてもみんなが避けられるとは限んないんだよ、現にゴブリンは死んでるんだし」

 

 私は呆れてそう言う。

 

「ゴブリン以下のやつが騎士をやってるなら死んだほうがマシだろ」

 

 ケロッと恐ろしい事を言う。ホントに酷い、でもちょっとそうかも。

 

 私達がコソコソと話しているとイーサンがスッと近づいて来た。

 

「ユキ、すまない。失礼な事をした者がいたそうだな」

 

 イーサンは店の入口の方で騎士達を並ばせてくれていた為さっきの事を見ていなかった。

 

「あぁ、まあイーサン様が悪いわけじゃ無いですし、それを言うなら見てても助けてくれなかったライアンのが酷いと思う」

 

 私がチラッと彼を見たが平然としていた。

 

「いや、それは難しいだろ。騎士が絡んだ事には平民は極力近寄らない方がいい。最近はましになって来たとはいえまだ身分を振りかざし無体を働く奴もいる」

 

 いやコイツは私で実験してたし。しかもかかってたのは騎士の命だし。

 

「とにかく騎士絡みで何かあったら私に言って来なさい。力になれるかは分からないが少なくとも事情はくんでやれるだろう」

 

 貧乏貴族だがそこそこ腕が立つイーサンは上の人に結構気に入られてるらしい。何かあれば頼らせてもらおう。

 

「ありがとうございます。イーサン様はやっぱり優しいですね」


「敬称は不要だ。ここで一緒に働く仲間だからな」

 

 爽やかな笑顔を残しイーサンはマルコのところへ行った。

 

「良い人だね〜」

 

 ヘラっと笑いながらイーサンを見ているとライアンがムッとした顔をした。

 

「アイツは駄目だぞ、貴族だからな。許嫁がいるんだ」


「おおぅ、惜しいねぇ。せっかく知り合ったのに」

 

 私は軽く受け流すと仕事に戻った。まだまだ客は大勢いる。

 

 

 

 粗方受付を終えると待機室で昼食となった。昇段試験中はエリンの店に出前を頼んでいるらしく。ここから二週間、毎日三食エリンの店の食事だ。しかも会社持ち!よし!

 

 昇段試験は期間中、何度挑戦してもいいが試験代は自腹の為ここでも裕福な家の方が出世にも有利だ。

 転移前の世界と似てるよね、教育にいくらかけれるかで成績が決まる、やっぱり金か。

 自分も借金がある身なのでとても切ない話だ。ポーション一つとってみても金持ちはハイポーションも平気で追加購入するしすぐ使う。だからダンジョンも進みやすくてレベルも上がりやすい。金が無いと回復もままならないからレベルも上がりずらい。

 

「だけど結局上に行くほど苦労したやつのほうが使えるんだよ。ポーションを使いたくなくて必死に戦うからな」

 

 イーサンは少しの自画自賛も込めてそう笑った。

 今は私とイーサンが訓練場のすみで食事中だ。待機中の騎士達もここで食事したりどこかに食べに行ったりしてそれぞれ時間を過ごしている。待機室にはマルコとライアンが詰めていて交代で休む予定だ。

 

「今回、イーサンは試験を受けないの?」

 

 店の手伝いばかりして手続きをしないイーサンは昇段を狙ってないのだろうか?

 

「いや、皆の試験が終わったあと時期をずらせて取っているんだ。上にも話は通してある」


「そうなんですね。優秀なんですか?」

 

 直接レベルを聞くのはなんだかいけない気がした。

 

「どうだろうね、今の目標は中隊長を目指している。必要なレベルは50だ」


「えぇ!凄いですね」

 

 私が以前の会社の先輩直伝の「凄い」を使うとイーサンは少し照れて頬を染めた。ここでも効くんだ。

 

「お前、ちょっとこっちへ来い」

 

 食事を終えそろそろ交代しようかと思っていると急に声をかけられ、振り向くとさっき私の腰を抱いてきた騎士がいた。

 

「なんの用だファウロス、先程も無礼な事をしたのだろう」

 

 イーサンがすぐに割って入ると男を睨んだ。

 

「お前には関係ない。その女に用があるんだ」


「用とはなんだ?彼女はここの正式な受付だぞ。何かあればただでは済まないと思うが?」

 

 イーサンが何か含んだ言い方をした。

 

「ここの受付?嘘だろ、冗談を言うな」

 

 ファウロスは信じられないという顔で私を見た。

 

「本当だ。そうであろ?」

 

 イーサンに話を振られコックリと頷いた。ファウロスは一旦驚いたがハッと思い直し、

 

「あぁ、手続き専用か」

 

 そう言って鼻で笑った。イーサンはゆっくりと首を横に振る。

 

「違う、ダンジョンにも潜っている」

 

 私は再び頷いた。

 

 二回だけだけどね。

 

 ファウロスは笑うのを止めた。

 

「上級にも行っている」

 

 三度(みたび)頷くと周りがザワッとした。

 

 一回だけだよ。ライアンに着いて行っただけだし。

 

 それでも私がここの受付で救助要請にも行っているという事が皆には驚きらしく訓練場は静まり返った。その時待機室のドアが開き中からライアンが出てきた。

 

「交代だ、ユキしばらく頼むぞ」

 

 そう言って事務所の方へ行った。

 

 ここじゃゆっくり食べられないもんね。

 

 ライアンとマルコが行ってしまうと一気に騒がしくなった。

 

「あのライアンが頼むって言ったぞ」


「交代だって」

 

 などと噂し始めた。

 

 アイツわざとじゃないか?私の名前を呼んだの。ここを離れるならイーサンに任せるに決まってる。いざという時はイーサンが救助要請に行くんだし私じゃまだまだ無理だ。こんなにザワつかせといてどういうつもりだ?

 

 イーサンと待機室に入りドアを閉めた。

 

「何であんな事いったんですか?」

 

 最初に何か含んだ言い方をしたイーサンの行動を不思議に思った。彼はライアンがしているように地図を見つめながら肩をすくめた。

 

「何故って?別に何も嘘はついていない」


「だけどあの言い方じゃ私がいかにもベテランで上級に何度も救助に行ってるみたいじゃないですか。おまけにライアンまであんな風に言うし」


「確かにそうだな、だがその方がやり易くなる、君の仕事がね」


「やり易いって?」

 

 どうしても下に見られる女の私がこの仕事に慣れるまではさっきのような事がずっと付き纏う。ある程度の実力がつけば被害は減るがそれまでは誰かがそばに居ないと下手すればどこかに連れ込まれる可能性だってあるそうだ。しかも後で訴えたところで貴族相手じゃ話すら聞いて貰えないのが現状だそうだ。

 

「女性騎士もいるが初日は特に血気に逸った若い奴等が多い。それを嫌がって数日ずらせて来るのが通例だ」

 

 女が男社会に混じって働くのはどこの世界でも同じって事か。さっきのファウロスって奴もまたふざけた事言うつもりだったのかな?学習能力無いね。

 

 

 

 ライアン達が休憩に行っている間はイーサンが救助要請に応じる訳だが、私がここで働き始めた初日の時のライアンのような緊迫感はない。朝から次々と騎士(お客様)を送り込んでいるがそれほど地図を気にしてる感じもなかった。

 

「まだ誰も帰って来ませんね」

 

 もうお昼を過ぎた頃だが一人として帰って来ないし、救助要請も無い。

 イーサンはソファに腰掛けながらくつろいだ様子でゆったりとお茶を一口飲んだ。

 

「流石に騎士である以上一番最初に脱出する事は避けたいという気持ちはあるだろうね」

 

 ここでもプライドが絡むか。

 

 

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― 新着の感想 ―
[一言] >「確かにそうだな、だがその方がやりやすくなる、君の仕事がね。」 >「やり安いって?」 やり安い→やり易い 表記としてはこちらかな、と。
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