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ダンジョンの受付嬢最強説  作者: 蜜柑缶


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15 スキル2

 開店してはいるが全く客は入って来ない。物品を売っているわけでもないし性質上勧誘とかは違う感じがする、大人しく待ちの状態か。

 

 やはり押し付けられた書類に目を通しているとどうやらマルコは計算を苦手としていてそこが重点的に抜けたり間違ったりしていた。よくこれで商売が成り立っているなと思ったがそれより気になったのがここに投入されている国からの補助金だ。

 いわゆる公的な資格を得るための試験だから国家試験になるだろう。莫大な金額がかけられているがここにそれを匂わせる雰囲気は全く無い。

 

「このスゴイ補助金は何に使われているんですか?」

 

 書類には補助された金額は書かれているがどこにも使い道は明記されていない。まさかの横領とか?使い込みとか?

 

「それはワシの手には(いち)ゴルも入っておらんぞ。全てこの施設の維持費に使われておるからの。ワシが関わっておるのは運営費だけじゃ。維持は全般、国が請負っておる」


「えぇ!!維持費だけで大金貨百枚ですか!?」

 

 この古ぼけた建物にそんなお金がかかってるなんて信じられなかったが確かにダンジョンの地図とかエグい装置はある。

 

「何にそんなにお金がかかってるんですか?」


「一番はやっぱりダンジョン自体の維持じゃな。一定数の魔物を配置しておかねばならんし迷宮もひと月に一度組み換えるしの。損傷する場合もあるから修理もある」

 

 やっぱりとんでもない装置なんだ。それをこんなパッとしない二人で運営とかこの国の偉い人って頭がオカシイんじゃない?

 

「後は各地に設置しておる魔法陣じゃな。それで魔物を捉えて送り込んで来るように調整しておるからの」

 

 魔法陣に一定の条件をつけて魔物が出没する地域に設置しそこに入り込んだ魔物を自動で転送してダンジョンに配置しているらしい。凄い事考える人もいるもんだ。

 

「でもこんなに暇なら赤字なんじゃないですか?」

 

 ホントにひとりも客が来ないと不安になってくる。

 

「そこはかきいれ時にドンと稼ぐんじゃ。明日からの昇段試験シーズンがそうじゃ。昇段試験は貴族が来るからの、金払いがいい。午後からも受け入れて次々とダンジョンに送り込みドンドン稼ぐんじゃ!」

 

 握る拳に力は入ってるけどそれって……

 

「言っとくが昇段試験中はオレたちはほとんど眠れん。気合い入れとけ、少なくとも受付はお前の仕事だ」

 

 ライアンがウンザリした顔で言った。

 

 ですよね……不安だな。

 

 

 昼間近くになったが客は来ず、そろそろ閉めようかと思ったその時、一組の親子連れがやって来た。

 

「まだ行けますか?昼までだって聞いてきたんですけど」

 

 カウンターの向こうで父親らしき男が十代前半の男の子を連れている。私は受け付けていいのかわからず振り返るともうマルコが側まで来ていた。

 

「いらっしゃい、ではここにそれぞれ名前と血の登録をお願いします」

 

 マルコは役所で見た水晶の様な玉の入った箱と『所在発信用魔石』二個、書類を二枚取り出し、そこに書かれてある注意事項を確認するように親子に言うとサインの場所を指差した。

 

 え?

 

「この他の人間を襲わないで下さいってなんですか?」

 

 私は初めて注意事項を読んで驚いてつい口にしてしまった。親子連れが驚いて私を見たので慌てて謝った。

 

「申し訳ありません。私は昨日ここに入ったばかりで、不勉強でした」

 

 焦った私がおかしかったのか、男の子がクスクスと笑った。

 

「コラ、笑うんじゃないカイト。息子がすみません」


「いえ、こちらこそ」

 

 マルコは私に軽く注意をすると親子に説明するのを一緒に聞いておくように言った。

 

「このダンジョンでは時々後から来た者が前に入った者に追いついてしまう事がある。その時に揉めたり相手が気に入らず襲いかかったりする奴がおる。ダンジョン内では他に見ている者がいないからの、以前自分は悪くないと主張し悪さをする奴がおっての」


「それでこの事項が出来たんですか?」


「魔物を相手にして皆気が立っておるからの」

 

 話を聞いた親子連れは少し怖がった顔をしたがマルコが今日は誰も入っていないから大丈夫だと言うとホッとしていた。

 

「救助要請を申込みますか?」

 

 私はマルコに『救助要請用魔石』を手渡されそれを書類の上に置いた。親子二人で追加は小銀貨二枚、結構な金額だ。

 

「いえ、初級だし、私は前に中級までは取っていたので結構です。今回はカイトの、息子の訓練の為に連れて来ただけですので」

 

 父親は冒険者では無く運送業者だそうだが時々魔物にも遭遇する為、仕事の為に冒険者登録をし中級のレベルまでは取っていたそうだ。中級を持っている運送業者なら護衛を雇わなくても自分で荷物が守れるし客から信頼も得られやすいようだ。

 父親が中級レベルなら安心だろう、私はそうですかと頷き魔石を片付けようとした。

 

「失礼ですけど、いつ取られたどれくらいのレベルですか?」

 

 気がつくとライアンが直ぐ側までやって来て父親に尋ねた。

 

「えっと、確か五年ぐらい前にレベル22です」


「お一人で?」


「いえ、三人です。仲間と一緒に取りました」

 

 ライアンに少しムッとした感じで答えた父親。

 

「それでは息子さんを連れてダンジョンを利用するには不安だと思います。『救助要請用魔石』を持って行って下さい」


「いえ、私は普段から仕事で魔物と遭遇する事に慣れていますから初級に出る魔物くらい大丈夫です」


「しかし、最近の魔物は稀に思いの外強い物が混じっている時があります。ですから油断は禁物です。三人で取ったレベル22ではご自身は守れても息子さんまで守る余裕が無いかもしれません」


「その噂は聞いてます。しかしゴブリンが少し強くなった所で大したことないでしょう。このままで大丈夫です」

 

 頑なに救助要請を申し込まない父親にライアンは少し苛立っていたがマルコがそれを制した。

 

「では今回は息子さんに魔石を預けさせてもらってもいいかの?実は先程の件でおわかりの通りこの娘は入ったばかりでの。今は研修中なんじゃ、この娘の研修に協力してもらうと助かるんじゃ、息子さんが魔石をちゃんと保管出来るかの練習にもなるじゃろ。もちろん使ってもらっても構わん、その場合は後で料金を請求するがの」

 

 マルコはニコニコとしながら魔石をカイトに握らせた。

 

「ちゃんと持って帰って来れるかな?」

 

 カイトは嬉しそうに頷くとベルトのポケットにそれをしまった。ベルトには小さなナイフが差し込まれ一人前の冒険者の様な出で立ちだ。

 

「使う時はそれをグッと握りしめるんじゃぞ、いいな?」


「うん!」

 

 嬉しそうな息子の顔にそれ以上は父親も何も言わなかったのでライアンは引き下がり、私とマルコで初級レベルのドアまで二人を案内した。

 

「ではお気をつけて、各階に脱出用の魔法陣がございますのでお帰りの際はご利用下さい」

 

 魔法陣が薄っすら光ると親子はスッと消えて行った。

 私は地図の前に行くと初級レベルの地図を出して親子が無事にダンジョンにたどり着き進むのを見た。

 

「ねぇ、中級レベルの人が初級に行くのがそんなに不安なの?」

 

 さっきしつこく救助要請を勧めていたライアンを振り返って聞いた。ソファに寝転びながら地図を眺める彼はため息をつく。

 

「子供がいたからな。仲間もいない上に戦えない者を連れて三人で取ったレベル22じゃゴブリンが三体も出ればキツい。油断すれば自分がやられて子供も巻き添えになる。せめて子供だけでも救助要請出来れば助かる可能性があがる」


「基本はパーティー全員が申し込まないといけないんですよね?」


「あぁ、だが子供がいる時は子供だけでも持たせるようにしている。結果的に使う時と使わない時と半々だ。親が殺られてどうすることも出来ずただ殺されるだけって事は避けたい」

 

 確かにそれはキツい。

 

 私は初めて受け付けたお客さんが映っている地図の小さな光を見つめた。

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― 新着の感想 ―
[一言] どっからどう見ても救助必要フラグだこれ こういう、モブキャラが忠告受けても自信満々で辞退し、 結果余裕で帰ってきて忠告不要だった・・て展開はほとんど見ない 無双系主人公なら忠告不要で余裕で帰…
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