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ヴィクターの独り言ー2ー

周りの方々も大変そうです…。

 あれから教室内はちょっとしたパニックになった。主にユーリの側近や婚約者になりたがっていた高位貴族出身のお坊ちゃんやお嬢さんが。


「ユ、ユリウス殿下。その、その者たちとはお知り合いですか…?」


 動揺が隠せない坊ちゃんが震えながらユーリに問いかけた。


「私は君に名を呼ぶ許可を与えたかな?いくらこの学園では私の身分も学生とはいえ、許可もなく名を呼ぶのは失礼にあたるよと思うよ」


 学園内で学ぶ者は全て学生である。これは本音であり建前でもある。

 学園としては生まれた家柄に関係なく、全ては学生である、と謳うことで平等を取り入れているというアピールになるのだが、学園は色々な意味で繋がったり切れたりしているので貴族としては一種の(仮)社交場といった感じになっているらしい。

 お貴族様はある程度教育を受けてから入ってくるので、まずは最初の数ヶ月でこうやってあぶり出されるそうだ。これも側近の彼が言っていた。しばらくユーリを餌にするっていうのはこういうことだったらしい。


「…ねぇ、ヴィー。ボクの寝ている間に何があったの?」


 半分寝ぼけている様子のナリスが俺に聞いてきたが、俺らとしても『ユーリが疲れて切れた』以外に言いようがない。


「…見ての通りだ」

「切れたの?ユーリ、お疲れ?」

「だと思うよ。さっきヴィーとも話したけど、笑顔がヤバい!」


 ハリーがそう言ったのだが、さっきまでは視界にも入れてなかった俺らの事をお貴族様がばっちり見ているので、俺らが交わしている小声での会話もちゃんと聞こえているようだ。そのせいで戦々恐々として空気が教室内全体に流れている。


「なぁ、ナリス、昨日の仕事とやらにユーリを連れていけなかったのか?」


 息抜きが出来ていないユーリを連れて行って暴れさせれば多少なりとも…せめてあと3日くらいは平和に生活できたのに、と思う。


「ちょっとムリだったかなぁ。さすがにこの時期に無断で皇子サマを皇都から遠い場所までは借り出せない」


 そういうナリスの移動手段は何だったかというと、ユーリの相棒の神獣、天虎のヴェイユだったと聞いている。専用の鞍に座っていったので大変楽に移動出来たらしい。相棒の天虎はよくて何故に本人がダメなのか、というところでさらにユーリのご機嫌が斜めになったと聞いている。

 だけど、確かユーリに関してはナリスはいつでも連れだしOKのお許しがユーリの父君、つまり皇帝陛下から出ていたはずだ。


「許可、出てるよな?」

「あっちの彼のが厳しい」


 ナリスが見たのは側近兼お目付役の彼だ。確かに、あっちの方が比較的おおらかな皇帝ご一家よりも厳しいかもしれない。


「ユーリの精神状態がヤバめだっただろ?」

「まだ彼ではヤバ度の深さまでは推測できないんだよ。まぁ、ちょっとボクも身軽だった分、置いていってしまったのは反省してる」


 機動力重視した結果置いていった、と。そりゃ、マズいわ。

 俺がじーっとナリスを見ると、ちょっとバツの悪そうな顔になった。


「悪かったって。今度の仕事の時には連れ出すから。ってゆーかさぁ、ユーリってば皇子サマモードだと一人称は”私”なんだね」


 それは俺も思った。普段、気を許したユーリしかしらないから、一人称が”私”だなんてこれっぽっちも知らなかった。

 ついでに学園に入学するって決まった時に初めて自国の第一皇子だって知ったくらいだからな!

 そりゃ、おかしいとは思ってたさ。どうがんばっても育ちの良さがにじみ出てたから貴族のお子様なんだろうとは思ってたよ。

 ナリスに動じない辺り、肝が座っていて貴族でも別にいっか、とかみんな思ってたさ。ナリスの相棒だけあって暴走しかけたナリスをその笑顔で強制終了させてくれたおかげでなんど俺らがほっとしたか!

 俺らに丁寧な言葉使いと強制しないとこも好感度が高かったし。チビ組の中ではダントツ1位の人気だったから何か言おうもんなら女子たちからの攻撃がひどかったし。

 だけど、まさか皇子様とか誰が気付くんだよ。下町育ちの俺らに混じって普通の店で買い物してギルドの仕事で魔物とか狩ったり泥まみれになりながら薬草取ったりしてナリスと一緒にいたずら考えてるやつが実は皇子様とか、誰がわかるんだっての!


「ナリス、責任持ってユーリのストレス発散に付き合えよ」

「わかってるよー。ユーリ、その辺にしておいてあげて。ボクたちまだ入学したばっかりだし、少なくとも1年間は同じクラスメイトだし、同級生なんだよ」


 さすがにそろそろまずいと思ったのかナリスが笑顔で口撃しているユーリを止めた。


「僕としては君たちに攻撃しようとしたの許せないんだけど」

「親しくも無い人間に何言われたって平気だよ、ボクたちは」


 ま、そうだな。俺もあいつらが何言ったって放置するに決まってる。身分云々かんぬん言うんだったらまず俺たちにかまうなっての。同じ価値観持ってるやつらでつるんでくれ。あと、このクラスにどうして平民である俺らがいるかその意味を考えろっての!そう声を大にして言いたい。

 お貴族様のお子様方は小さい頃から家庭教師が付いて勉強するって聞いてる。魔法科は確かに魔力の量や質が一定基準以上の人間しか入ることが出来ないが、そこに貴族も平民も関係はなく、10歳の時の検査で引っかかったら強制的に入れられるって聞いた。その時、通常は平民だと学園から教師がやってきて入学までの間に他の貴族の勉強についていけるように個別で勉強を見てくれるらしい、そう本来ならな!

 なのに俺たちはそれも免除だ。つまり、俺たち知らず知らずの内に教育を受けてたってこと。

 犯人はギルド長だ。

 確信してる。だって俺たちだけギルド長から変な依頼とかいっぱい受けさせられたんだから。ガキの俺たちにお偉い教授の研究の護衛とか、普通なら考えられないような依頼をここのところずっと受けさせられていた。こういう教授たちは、自分の研究に情熱を燃やす一方で、その知識を他人に教える、というか披露するのが大好きな人が多く、護衛のついでのようにガキの俺たちにとことん自分の得意分野を詰め込んできた。この教室で授業を受けたときにびっくりしたよ。何せ授業内容が俺たちに詰め込まれてる知識よりずっと初歩ばかりだったから。というか、護衛した教授とかもいた。俺たちを見て、おっさんたちがウィンクしてきたのは正直、引いた。

 俺たちがここにいるのは、魔力量もそうだが、知識も問題ないからだ。じゃないといくら何でも一緒の授業は受けれない。

 魔力量、知識が一緒(?)である以上、個人として後はご自慢の血筋だけの問題になる。

 そう言った場合にどうするのか、とかを見られる場所でもあるのだ、学園というのは。

 ちょっと聞いた話しだと、学園で平民への態度が問題になって廃嫡、という例もあったらしい。

 逆に平民が建前にこだわってやりすぎた結果、貴族から総スカンを食らって魔力を封じられた、ってのもある。

 ここは社会が凝縮した場でもあるから、そこでの立ち居振る舞いが今後を決めることにも成り得るんだ。

 ってゆーのをお勉強してるはずなんだよなー、お貴族様は。今年はさらに皇子(ユーリ)が入るから変な風にこじれたんだろうか。おまけに平民も同じクラスに何人もいるし。


「ま、お貴族様の動向はどうでもいいか。俺たちは俺たちでやることをやれば」


 一応クラスメイトなので変な風にこじれると後々面倒くさそうなんだけど、騒動の源(ナリス)がいるからどういう学園生活になるかなんて正直分からんし。いざって時に信頼できない味方のフリしたヤツラはいらない。


「ユーリ、ナリスが責任持って今度、どっか連れていってくれるらしいから落ち着けっての」


 俺がそう言うとユーリはいつもの笑顔を見せてくれた。今までとちょっと違う親しい人間に見せる笑顔にユーリの婚約者になりたいお嬢さん方の目がハート型になっているのが見えた。こっわ。


「そうだね。オリヴァーが薬草採りに行くときもついて行っていい?」

「もちろんだよ。ユーリも来てくれるなら心強いし」


 薬草博士を目指してあちこちに出かけては薬草を採ってくるオリヴァーにいつも俺たちは付き合わされている。オリヴァーはユーリが一緒に行ってくれるのが嬉しいらしく間髪いれずに返答していた。

 その答えに満足したのか、ようやくユーリは落ち着いたのだった。


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