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ヴィクターの独り言

今回は違う世界には行っていませんが、学園生活がふとよぎったので書いてみました。入学してすぐくらいの話しつもりです。あまり深く考えてないでください。

 俺、ヴィクター。

 学園に通い始めたばかりの平民だ。実家はこの国でも大きい商会をやってるのでそれなりに裕福な家の子供だ。俺には兄貴がいるんだけど、剣の才能を持っていたらしく小さい頃からギルド長に鍛えられてたせいか「商人はムリ、騎士になるから」と言って今は本当に皇城勤務の騎士になった。おかげで俺が次男だけど商会を継ぐことになっている。商売は嫌いじゃないし、小さい頃から親父やじーちゃんばーちゃんについて行って色々と鍛えられたからむしろ大好きだ。

 だけど、問題が1つ…、というか1人…。むしろ、2人?

 分かってるんだ、あいつらがいるから俺たちは今まで無事だったんだし、毎日がちょっとだけ刺激的になってるんだって。さすがに学園に入ったらクラスが分かれると思っていたら、まさかの自分に魔力有りの判定が出て、同じクラスに通うことになった。

 俺、平民だよ?平民って普通、魔力なし、もしくは弱すぎて放置でよし、じゃなかったっけ?なんでうっかり魔法科に放り込まれてるんだろ?しかもちょうどいいからって、親父たちにあいつらとちゃんと顔を繋げとけって言われた。 

 安心してくれ、親父。俺は昔っからあいつらの覚えはいいんだ。いつも後始末とかしていたからな!

 ……言ってて悲しくなってきた……

 今回も当然の如く、俺たちはあの2人にばっちり巻き込まれそうだ。もちろん1人で巻き込まれるなんて自滅に近いことはしない。一緒に巻き込まれるのは、相棒のハリーと将来は植物学者になると宣言している研究熱心なオリヴァーだ。この2人も魔力持ちだったから同じクラスに入っている。

 今、あの2人は教室ではしゃべらないようにしている。入学したばかりだが、家柄が良いっつーかぶっちゃけこの国の第一皇子であるユリウス皇子サマの周りには有象無象の連中がたむろしている。側近になりたいやつらや婚約者のいない皇子サマ狙いの女性陣が我こそは、という感じで毎日肉食獣どもが戦闘モードで嫌みの応酬をしていたりする。

 あー、ムダなのになぁ。

 ユーリの側近としてユーリのお父さん(皇帝陛下)が送り込んできた人物は静かに教室の片隅で子供達を観察している。皇子サマが餌として十分に役割を果たして色んな人物を引き寄せているので、その中から使えそうな人物を選別しているのだろう。この人とは俺たちもなぜか顔合わせをさせられて、その時に「共に苦労を分かち合おう」と言われた。


 …それもおかしいだろ!どうして高位貴族の人と苦労を分かち合わなくちゃいけないんだ。俺たち、平民だぞ!


 ハリーとオリヴァーと3人でそう叫びたかったが、ユーリとナリスとの付き合いが長い分、妙な納得をしちゃって3人揃って彼に向かって頷いていた。その瞬間、彼が心底ほっとした表情を浮かべたのを見て、あー高位貴族って言ってもあの2人に関しては俺らと一緒か、と密かに思ったのはナイショだ。


「なー、ヴィー。ひょっとして俺らってこのままあの人たちとは関係ないですよ、って感じで学園生活を乗り切れるのかな?」

「ムリだ。オリヴァーだってわかってるだろ?今は選別の時期なんだって。それにこれから先は長いんだぞ。あの人が逃がすわけないだろ」


 今、教室内ではいくつかのグループが出来上がりつつある。皇子であるユリウスに近づきたい高位貴族のグループとその手下になりつつある魔力持ちの下級貴族(男子限定)、玉の輿狙いの女性陣(内部でドロドロあり)、そしてユーリと距離を置こうとしている者たち(主に平民+変わり者の貴族)。

 各グループ+個別の中でもそれぞれの特性などを側近の彼が選別してどのようにユーリと関わらせるかを考えている最中だろう。

 当然ながら自分たち3人は放置だ。ついでにナリスも放置だ。

 こっちに関しては彼が考えたってムダだという意識があるらしく、お好きにどうぞ、という許可が出ている。ただ、ほんの少しの間だけユーリとしゃべらないようにして欲しい、と要望があった。最初からユーリとしゃべろうものなら皇子に近しい者とされて色んなことに巻き込まれるだろう、とのことだったので喜んで彼に協力している最中だ。だが、そろそろユーリが限界を迎えようとしている気がする。


「…言いたくないけど、そろそろ笑顔が疲れてきてるよ。あれは近いうちに爆発するんじゃないかな」


 ハリーがユーリの方を見ながらそう言った。確かにそれは俺も感じていた。他の連中には毎日同じ笑顔に見えるかも知れないが、付き合いが長く色々な出来事に日々翻弄されてきた仲だからわかる。あの笑顔はユーリがガチで疲れてきていて爆発一歩手前だってことが。ユーリの爆発の仕方は一見分かりにく感じなので、あの取り巻き希望者たちでは分からないだろう。

 ユーリは今まで、ある意味、ガス抜きが十分に出来ていた状態だった。皇子サマの仕事は大変そうだったが、それでも俺らとギルドの仕事をしている時は俺らと一緒の扱いだったから皇子サマじゃないユーリを出せていたけど、学園生活が始まってからは毎日皇子サマモードになっているから息抜きなんて出来ないだろう。その状態で俺らはともかくナリスとも話せていないのはキツそうだ。

 チラリ、と側近の彼を見ると、彼も仕方ないとばかりに頷いた。どうやら彼の観察と選別も終わったらしい。


「…そこの平民のお前。ユリウス様の前でずうずうしいぞ、起きろ!」


 男子生徒がそう言ったのが聞こえてきて、えっと思ってそっちの方を見たら、ユーリの席の近くで顔を伏せて気持ちよさそうに寝ているナリスにちょっかいをかけた生徒がいた。

 ちょ!待て、マジで止めてくれ。ナリスは昨日、ちょっとギルドの仕事で遅くなったって聞いてる。ストレス発散でユーリも一緒に行きたかったらしいが連れて行ってもらえなかったとか何とか。疲れてるナリスにちょっかいかけるんじゃねぇよ!


「おい!聞いているのか!!愚民!!」


 ……あー、あいつねーわ。後ろでユーリの笑顔が怖くなってるのに気付いてねぇし。チラリと側近の彼を見たら、もうどうしようもなくなったのか、机に肘ついて頭に手をあてて首を横に振っていた。

 うん、諦めたな、俺らもだよ。

 ハリーとオリヴァーが死んだような顔になっている。


「全く、どうして平民と我らが同じクラスなのだか。魔力持ちと言っても質が違いすぎるくせに」


 問題のやつは、ナリスだけじゃなく、俺たちの方も睨み付けてきた。

 そうだな。違いすぎるよな。ナリスとあんたじゃ。イヤ、俺たちとも、だ。ナリスに鍛えられた俺たち皇都南ギルド出身者をなめるなよ。教皇様やギルド長からお墨付きをもらった俺たちはそんじょそこらの貴族よりも魔力の質も高く、量も多いそうだ。魔力の選別の儀を受けたときに今まで平民でもこれくらいは当たり前で、これが魔力無しの基準だと思っていたのに、全く違っていたことを初めて知らされて呆然としたっけ。

 当然、一緒に仕事を受けているユーリもそのことを知っているし、仲間をバカにされて黙っているやつじゃない。


「…ねぇ、君」


 俺らを睨み付けた貴族の後ろからユーリが話しかけた。ってゆーか、怒ってる。


「は、ユリウス皇子。あのような者たちの顔を見るにもお嫌でしょうが、しばらくお待ちいただければ、クラスから排除いたしますので」

「……排除??」

「はい。しょせん平民です。我らとの違いに気付いてすぐに自分からクラス替えを申し出るでしょう。何でしたら今すぐに実力差というものを思い知らせますが」


 ユーリにそう言っているのは確か上位貴族の中でもリーダー各になっているやつだ。あいつの意志1つで貴族グループが動く。


「その通りですわ。ユリウス皇子のお目汚しでしかない者たちですもの。何でしたらすぐに我が父に言ってクラスを替えさせますわ」


 そう言ったお嬢様は確かこの学園の理事を務める貴族の娘だったと思う。

 どっちにしてもムリだろ。力ずくなら俺らの方が強いし、権力込みでくるならこっちも貴族後見人(=宰相閣下)とナリスの義母(皇帝陛下の妹姫)+教皇猊下に全面に出てもらうだけだ。あの3人にお願いするのにためらいはない。俺たち、まだ子供だし。っていっても出るまでもなさそうだけど。


「……ヴィー、そろそろ先生が来るだろうからナリスを起こしてあげて」


 ユーリが俺に向かってそう言った。俺を”ヴィー”と愛称で呼んで、ナリスに名前を親しみを込めて呼んだ。


「…いいのかよ?」

「何が?あぁ、ナリスを起こすってこと?何か、昨日、僕をおいて楽しい事に出かけてたみたいだからね。そろそろ起きてもらわないと」


 聞いたことと答えは違うんだが、ユーリが楽しそうに言った。


「あーったく、わかったよ。ナリス、そろそろ起きろよ。先生がくるぞ?」

「……あぁー、もうそんな時間?昨日はちょっと夜更かししたから眠いんだよねー」


 ぎゅっと伸びながらナリスが机から顔を上げた。そんなナリスの前にユーリは立って、ナリスにその笑顔を近づけた。


「ねぇ、ナリス、昨日は楽しそうだったみたいだね?」

「はぇ?ユーリ?あ、うん。タノシカッタデス」

 最後の方が何か怪しい発音になっている。ナリス、がんばれ。ユーリはもう限界突破してるぞ。

 ついでにお貴族様たちが目を見開いて、えって顔してるぞ。そりゃそうだろうな、俺たち平民が思いっきり”ユーリ”って愛称で呼んでるし。


「…ヴィー?」

「お察しの通りだ」


 もう俺はそう言うしかなかった。


「あーっと、うん、ゴメン。今度はユーリも一緒に連れていくからそれで許して?」

「絶対だよ?ヴィーもハリーもオリヴァーもだよ?」


 ダメ押しのようにユーリが俺たちの名前を呼んだ。

 さらば俺たちの静かな学園生活よ!!

 

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