砂漠の世界 おまけ~敵前逃亡??
思ってたユーリの婚約話しじゃなくなりました…。生暖かくご覧ください。
ナリスが砂漠の世界から箱庭に帰ってきたら、こちらの世界は夜でミズハのいない噴水からは絶えず水が流れ出ていた。そこにコミズハことクワルツがミズハを探すようにうろついていた。
「クワルツ、ミズハは10年ほど他の世界に行っちゃったよ。あっちの世界で色々とやりたいんだってさ。こっちは君がいるからいいよね?」
クワルツはミズハから生み出された分身みたいな存在だ。子供、と言ってもいいのかもしれない。ミズハとはまた違った動きと性能を持っている。だが、基本的にミズハから生み出された存在だけあって、ミズハとは繋がっている。繋がっているのにナリスだけ帰ってきたのでうろたえたようだが、ナリスから話しを聞いて納得したらしく、クワルツは小さく光ってYESと返事をした。
「ふふ、10年後は一緒にミズハを迎えに行く?もしボクの納得いかない感じに世界がなってたらちょっと水浸しにしてこなくちゃいけないからちょうどいいよね」
ミズハもクワルツも水属性の水晶だ。世界1つ水浸しにするくらいナリスと一緒なら出来るだろう。
「やれば出来る、だよ?」
ナリスにそう言って微笑まれればクワルツはがぜんヤル気になった。
「まぁ、あくまでも10年後の話しだし。向こうの人たちもがんばっちゃうかもしれないけどね」
それに水の女神も現状を憂いていたので力を貸してくれるだろう。炎の男神の力をちょっとの間封印して水気を多くすれば、ミズハもいるし緑の大地を取り戻すことも不可能ではない。水の女神にその度胸があって炎の男神が大人しく封印されてくれれば、の話しにはなるが、こっちは妥協点を作ってミズハを派遣して時間稼ぎもしてあげたのだから、あとは好きにすればいい。
あの世界はあの2柱の神が主神として君臨する世界なので、本来なら別の神の介入はよろしくないのだ。
「問題は……ユーリの婚約話しがどうなったかだよね!クワルツは知ってる?」
点滅は2回。クワルツは知らないらしい。
「よし、聞きにいこう」
ナリスがうきうきと決意を宣言したら、げんなりした声が聞こえてきた。
「聞きに来なくていいから。僕がここに逃げてきたことで察してくれ」
大変顔色の悪いユーリが扉に身を預けるようにして立っていた。
「ユーリ?お疲れ?顔色とか色々悪い上に、全身から悲壮感漂うオーラが出てるよ?」
「悲壮感も出るよ。あの人は無いから。無理。皇国の皇妃とか絶対出来ないよ」
「えー、本人は自分しか皇妃はいない!って宣言してたよ?」
「…あの自信はどこから出るんだろうね。身分の問題なら他にも同程度の人たちはいるし、教養、語学、その他諸々だって高位貴族ならごく当たり前くらいの知識だよ。なのにどうしてあーも僕の妻になるのは自分だけだ、って言い張るんだろう?」
ユーリの自称・婚約者は、強烈な印象を相手に植え付ける女性だった。初めて会った時にその突拍子もない色合いのドレスに、ナリスは思わず「ここ、学園」とツッコミを入れてしまったくらいだ。顔立ちは悪くないのに、その言動やその場にそぐわない衣装や行動で変わり者というイメージしかない。変わり者でも実は…などということは一切無く、本気の本気で空気を読むことの無い己というものーある意味ーをしっかり持った女性だった。
「裏にいる人とかはいた?」
「強いていうなら父親と寄親。あの2人の言動があの女性の行動を全て仕切っているみたいだよ。確かに顔立ちは悪くないし、幼い頃はずいぶんと可愛かったんだとは思うけど、だからといって僕の妻になれるかどうかは別問題だ。それにずいぶんとレグルス皇国の皇妃という存在をなめてくれてる。必要なのは顔じゃない」
問題の女性は自分の事を「この世で一番、綺麗な女性」だと信じているようで周りの女性を下に見てけなしているようだった。ユーリは神々の人外の美しさ、というのを直に見て知っているし、皇帝を支える女性が顔だけではダメなことも十分に知っている。だからこそ、将来の皇妃になる女性をまずは婚約者として慎重に選ばなくてはいけないのに、全く話しを聞かない上に、『学園内で学ぶ者は全ての身分は学生である』という言葉を良いように利用してユーリに近づいてくる問題の女性に困り果てていた。
「はっきり言っちゃえばいいのに」
「言ってもきかない。照れてるだけですわ、とか言われた」
心底げんなりしている様子のユーリにさすがのナリスも同情した。ちなみに件の女性は身分が高い人間しか狙わないのでナリスはアウトオブ眼中だ。ユーリ目当てでしょっちゅうこっちのクラスに来るくせに表向き平民のナリスは存在を認識もされていないだろう。
「あ、そうだ、いいこと考えた。ナリス、君、あの女性の認識には入ってないでしょ?だから、女装して。身分は叔母上の結婚した相手の遠縁ってところで。なんだったらシメオン様が後見人についてる、とか言えば問題ないでしょ。何かあったら神殿が出てくるぞ、って脅しておけばしばらくは大人しくなってくれるでしょう?」
女性陣がすぐに陥落しそうなほど良い笑顔でナリスに微笑んだが、生憎付き合いの長いナリスは落ちてくれなかった。
「イヤだよ。根本的な解決になってないし。じゃあ、時間かかりそうなギルドの仕事を受けてちょっと遠出してみる?帰ってきた時にどうなってるのか色んな意味で怖いけど、高ランクの仕事なら学園でも単位認定してくれるし、うまくいけば興味が他の貴族の方に移ってるかもよ。基本的にちやほやされないと気が済まないタチみたいだし。ユーリの名前出して自称婚約者として好き勝手にするならそれこそ身分詐称で家や寄親ごと処分出来る」
その為にはまずは女性にしっかりはっきりと大勢の前で婚約者ではない、と否定をすること。とは言え、これまでも散々言ってきているのでほとんどの学生は女性とその取り巻きによる劇場だと分かっている。
「にやにや眺めようと思ってたのにー」
「悪趣味だよ。僕が君を巻き込まないとでも思ったの?容赦なく巻き込むに決まってる」
皇子様は愛し子である親友をこき使うことにためらいはなかった。
それからしばらくしてレグルスの第一皇子とその親友及び巻き込まれたご学友が、ギルドの高ランクの仕事に出るために学園を休む事態が発生したのだった。