砂漠の世界 前編
こちらを先に更新します。一応、前後編の予定です。よろしければ本編もご覧ください。
その世界の主神は、炎を司る男神と水を司る女神であった。
ある日、男神は女神にちょっとした嫌がらせをした。
炎の男神にとってはほんのちょっとした嫌がらせというか、気を引きたいが為に行った行為だったかもしれないが、それ以来、水の女神は炎の男神のことを嫌い、顔を合わせることもイヤだと言って、天上世界に1人で帰っていった。男神は女神のいない世界に興味はわかなかったが、もしここでこの世界が滅びようものならば、水の女神に二度と会えなくなるかも知れない。まして、世界の1つを潰しました、なんて事になったらますます女神に嫌われてしまう。そう考えて炎の男神は必死になってその世界を導こうとしたのだが、加減や上限と言ったものを知らない炎の男神がありったけの力を注いだ結果、その世界は男神の影響を受けすぎて、世界から水というものが失われかけている状態になっていた。だが、この事態を炎の男神は何とかできるはずもなく、月日だけが空しく時を刻んでいったのであった。
何度やり直そうとしてもどんな手段を使おうとも、一度方向性の決まってしまった世界は炎の男神の影響から抜け出すことが出来ずに水と命が失われていく世界だけが完成に近づいていっていた。
ここにきて事態を知った水の女神が、自らが天に帰ってしまった責任だと嘆き、より上位の神々に自分たちの世界の救済を願った。
上位の神々は、世界への影響を少なくしつつ何ができるのか相談をしたのだが、太陽神などはこれ以上、熱を上げるわけにはいかないし、ならば水の神ならどうだろう、となったのだが正当な水の女神がいる以上、その世界の神の座の乗っ取りになる可能性が高く、そうなると世界そのものが変わってくるので却下され、風や闇や空を司る神々もどうしたものかと頭を悩ませた。死を司る神々は、魂の救済ならできるが…としか言えなかった。
神々は考えた。考えた末に、もう丸投げしようぜ、という結論に達した。
つまり、全神一致で、番外の神の派遣が決まった。
そうと決まれば送り込む為にも、召喚の儀式をその世界の人間たちにさせよう、となったので炎の男神が神託を卸して地上の人間たちに召喚の儀式をさせた。
その召喚の魔方陣に人間の限りない欲望を示すかのように隷属の魔方陣が組み込まれてあるのを発見したが、神々はもちろん放置した。
道は示した。召喚もバッチリ発動している。神々としてはやることはやったから後は自分たちで何とかするべきで、隷属の魔方陣なんて番外には効かないなんだから、あいつ怒らせてうっかり滅びかけても何とかしてくるだろう、という心意気で見守る意を示した。
この世界の主神である炎の男神と水の女神は慌てて、さすがに隷属の魔方陣のことは教えた方が、と控えめに提案したが、上位の神々は揃って首を横に振った。
大丈夫。あいつの事だから世界への影響は少なくして怒ってくれるから!
上位の神々の誰もがそう言って頷くので、2神は何も言えずにただ事態を見守って行くしかなったのであった。
「……って感じなんだけど、理解した?さくっと言うと、ボクが何してもこの世界の神々は助けてくれないってこと。いやー、むしろ今この場はボクしか神がいないって感じかな?」
制服姿のナリスが優雅に水で作ったイスに座って魔方陣の周りでざわついている王様軍団に懇切丁寧に状況を説明をしていた。この水不足の世界で流れる水でイスを作って座っているのは嫌がらせ以外の何者でもない。当然ながらナリスが水に濡れることはないし、心地よい水流は音を立てながらどこか異次元に流れていくのでこの世界には一滴たりとも落ちない。
「あ、当然だけど、こんな隷属の魔方陣なんて効かないから。どーしてどの世界の人間も自分たちの手で神々を隷属させて言うことを聞かせられるって信じてるの?君たちの持ってない力を持つ存在を何だと思ってるのさ」
半分以上呆れた感じでナリスが王達に向かって言った。ナリスの足下ではこの魔方陣に隷属の魔方陣を刻もうと提案した王の1人がナリスの足置きと化して震えていた。
「足置き、震えないの。これくらいのお仕置きにしておいてあげてるんだから、まだボクってば優しい方だよ?」
王の衣装はズタボロになっており、王自身の身体にもいくつもの痣が出来上がっているが、命には別状はない。今のところは。
この王は、この世界では力ある方の王だった。身体も大きく、戦では軍としても個人としても負け知らずの王であった。だが、ナリスは召喚された瞬間にこの王を威圧で吹き飛ばしてさらにその細腕で殴り飛ばした。天井と地上を何回か殴られて往復させられた王は完全に戦意を喪失してナリスの足置きにされた。
その光景を見た他の王はただひたすらに頭を垂れてナリスが落ち着くのを待っていたのであった。
「さて、とは言え、ボクが派遣された最大の理由は火の気が強すぎるこの世界をどうにかするこなんだよねー。もういっそう、水を引き込んで世界全体で水中生活する?2、300年そんな世界にしておけば、水が引いて再び陸地で生活できるようになった時にはちょうどいいバランスになってると思うよ?」
ナリスの提案に頭を垂らしたまま王達は目を配って小さく話しあった。
「…恐れながら、神よ、その場合、我らはどう水中で生きていくのですか?」
「気合いで進化すればいーんじゃない?ボクがお願いされたのはこの世界全体のことであって、人間をどうこうして欲しいって依頼じゃない」
もちろんナリスは動物たちは助けるつもりでいるが、どうして召喚した神を自分たちに隷属させて良いように操ろうと目論んだやつらを助けなくてはいけないのか、甚だ疑問だ。とは言え、一般人はそれなりの人数は助けるつもりではいる。この世界は元々人口が少ないのでその作業はそこまで難しくは無いはずだ。だが、それを親切に教えてやる義理もない。
「わ、我らに死ね、とおっしゃるのですか!」
「あんたらが救国の強い意志を持ってボクを召喚して、誠心誠意、心の底から救済を願ったのなら考えたけど、炎の男神から教えられた召喚の魔方陣に隷属の魔方陣を組み込む人間という種族は果たして助けるに値するか否か?」
「そ、それは…」
王の1人が憎々しげに足置きになっている王を睨み付けた。
その王が己の強さに心酔して神さえも自らの前にひれ伏すと信じていたがゆえに起きたことだ。
だが、他の王たちの大多数もそれを止める事はしなかった。
彼らにしてみれば、自分たちの中でも最強であった人物がまさかこんなに一方的な展開でやられるとは思ってもみなかった。確かにこの王が自分で言ったように神以上の力を持っていたのならこの世界の水不足はとうに解消されていても可笑しくは無かったのだ。だが、現実問題として水不足は目の前の出来事であり、召喚陣に隷属の魔方陣を組み込んだのも事実だ。つまりこの王に神のような力は無かった。ただその事実に気付くのが遅かった。すでに召喚されし神の怒りを買い、滅亡は目の前に迫っていた。
「神よ、我らは謝っても謝りきれぬ許しがたい罪を犯した。なれど、どうかこの世界に生きる他の人間たちはお助けください。彼らは我らの被害者なのです」
穏やかな顔つきの青年王がナリスの方をしっかり見ながら願い出た。青年王は片腕が無かった。その理由をこの場にいる全員が知っていた。
「被害者、ねぇ。貴方もそうっぽいケド。その腕、足置きにやられたんでしょ?」
ナリスの言葉に青年王は恥じ入るように下を向いた。
「申し訳ございません。私がその者を止められればよかったのですが…」
青年王はこの王たちの中で唯一、足置きにされている王に隷属の魔方陣を刻むのは反対だと逆らったのだ。その結果、左腕を切られて無くした。
「……どうしよっかなぁ。貴方みたいな人は嫌いじゃないんだよねー」
「…ならば、どうか民をお救いください。この身がその代償となり得るとは思えませんが、どうかこの身、この魂と引き換えに民の救済をお願いいたします」
青年王は死ぬ気だった。足置きの王を止められずに隷属の魔方陣が書き加えられるのを見ているしかなかった彼はそれでも何とか神にすがって民の救済を、と願っていた。
「ううん、貴方の身も魂もいらない」
にっこり笑うナリスの横の何も無いはずの空間が歪み、ひょこっと姿を現したのは円錐系の水晶だった。箱庭で動物たちとまったりしているはずの天候を操る水晶。
「あれ?ミズハ?どしたの?」
ナリスは、というか誰一人としてミズハを召喚していないので、ミズハが勝手にこちらの世界にやってきたようであった。
「………そう、退屈してたの?暇つぶしでこの世界を救いたいの?」
確かに雲を呼び雨を降らせるミズハはこの世界では神にも等しい水晶だろう。召喚の魔方陣がきちんと発動しているあたりからも分かるようにこの世界は魔力に満ちているからミズハが変換する魔力にも一切困らない。
「ミズハ、本気でこの世界を救う気なの?」
ナリスの問いかけにミズハが大きく1回光った。それは、YES、という返事だ。
「そっか、わかったよ。ミズハ、ボクはたいそう身内には甘いと評判だ」
水晶が身内ってどういう事?とかも思った一同だったが、それ以上にこの酷薄そうな少年が身内に激甘だという事実が自分の口から語られたことに驚いていた。ちなみに当のミズハは大きく1回光った。訳すると『知ってるよ』そんなところだろう。
「ミズハが本気でこの世界に残るのなら、ボクは最大限の守護と加護を君にかけるよ。例えばそれこそ、ミズハの許可なくミズハに触ろうとしたら、地獄の最下層に直通で落とすくらいの罠はちゃんと仕掛けるよ」
とても心配そうな声で水晶に言っているが内容はぶっそう極まりない。許可無く水晶に触れただけで地獄の最下層に落とされるとか、ちょっと罰が重すぎないだろうか。
王一同はガクブルで震えるしかなかった。