エリザベス編 おまけ
そこは神々の世界。普段はそれぞれの世界を管理している神々だが、時折こうして狭間に作り出された交流の場所で会っていた。この場所ならばどの世界の神々が会おうとも現実世界には何の影響もない。変な神力が混ざって歪みを作ることもない。そう言った場所も必要だとして、神々が協力して作り出した交流の場所なのだ。この場にはいくつかの建物と庭園が造られていて、誰もが自由に使えるようになっていた。
エリザベスのいた場所からナリスは一度、この交流場に戻ってきた。この庭園でエリザベスの世界を創った大神と待ち合わせをしているのだ。
「おぉ!何かデートの待ち合わせみたいだねー」
デートの待ち合わせなんてしたことが無い外面青少年なのだが、ナリスは自分でつっこんでクスクスと笑った。
「ナリス…」
名を呼ばれて振り向けば、庭園に現れたのは、エリザベスの世界の大神である幼女。
双子の女神と違って特にでっぱりも無いお子様特有の外見を持つ幼女大神。
「………だから放置しちゃったの?」
何となく、何となくだが、この幼女神様は、双子の女神が苦手だったのではないだろうか。主に外見的な理由で。神々は自在にその姿を変えられるとは言え、だいたいの神が自分が安定して神力を振るうのに最も適した外見をしていることが多い。その方が力も精神も安定するからだ。この大神の場合は幼女姿が己に最も適していてるので普段からこの姿で過ごしているのだろう。
「えーっと、ってゆーか、その姿、ひょっとして固定?」
まれにいるのだが、姿が固定していて変化させたとしても長時間はもたない者がいる。上位、下位関係なく、もうそれは生まれ持った特性としかいいようがないのだが。
「…言うな…」
恥じ入る幼女神様、かわいいー!!
ナリスと幼女のことを見守っている他の神々のあほらしい心の声がだだもれで聞こえてくる。
イエスロリータ、ノータッチの精神で見守る神々ー男性だけでなく女性も混じっているのが大変残念なのだがーの視線を一心に受けているのをひしひしと感じてしまう。
「あー、あの双子は届きました?」
「…う、うん。とりあえず部下に預けた。その…手間をかけさせたな」
顔を赤らめてぷいっと横を向いた姿が大変かわいらしい。被弾した何人かがぶっ倒れたのが視界の隅に見えたが放置だ、放置。
「だいじょーぶ、ですよ?滞在時間もちょこっとだけだったし。あ、でもエリザベスちゃんにボクの加護を付けてきちゃったけど問題なさそうですか?」
「それは問題はない。あの子には苦労をかけた。私からも加護を与えたからこれから先の事は心配ない」
「良かった。一応、バランス崩れちゃうかなって後で思ったので」
「よい。…ありがとう」
微笑む幼女大神様にさらに何人かが撃ち抜かれていたが、こっちも問題はない。
ちなみにナリスと幼女神が会話をしている姿は、その外見からか『ロリ&男装の美女風』と見られているので一部からは大変好感触を得ている。
「でも自分で作り出した部下でしょう?どうしてあの姿?」
「………理想、を詰め込んだ」
またもや恥ずかしがる幼女神だが、幼女だけに自分がなりたい理想を詰め込んだ大人の女性の外見がアレだったらしい。
「うーん、大神様だと、成長してもアレにはならなさそうだけど」
双子の女神を思い浮かべても、どうしても今のこの幼女神の成長した姿には重ならない。この方が成長したのならばもっと清楚系になると思うのだが。
「そなたの筋肉つけたいのと一緒だ。だたの願望だったのだが、思いのほかうまく出来すぎて、な」
で、うっかり放置した、と。結果、好き勝手やった双子の女神の始末をつけるのにナリスの手を借りるはめになったのだ。
「まぁ、いいや。じゃ、ボクは戻りますね」
「うん、報酬は忘れていないゆえ、そなたが困った時はいつでも言うがよい。必ず、手を貸そう」
今回の報酬は先送りにしてある。困った時に手を貸して欲しい、ただそれだけだ。
「いつか連絡した時にはお願いしまーす」
ひらひらと片手を振ってナリスは今の自分が属している世界へと帰っていった。
後に残された幼女神は、大変嬉しそうに微笑んでいて、さらに何人かの犠牲者を出したようであったが全てはナリスの預かり知らぬ出来事だった。
「ただいまぁー、疲れたー」
朝、授業が始まる前に突然、『あ、呼ばれた。仕事だ。行って来る』と言って消えた友人が帰還したのはその日の夜遅くだった。
「お帰り、ナリス。遅かったね、お仕事は大変だったの?」
自分用に作っていたホットミルクに蜂蜜を垂らした飲み物をひとまずナリスにあげて、ユーリは改めて自分用に作り直した。
「お、ホットミルク蜂蜜入りじゃん。帰って来たって感じがようやくするよー」
ナリスが帰って来たのは、箱庭の家の方だった。今は学園に通っているナリスたちは寮住まいなので、そっちに突然現れるとさすがに見られたらまずいと思い、取りあえず箱庭に転移してから自分の部屋に帰ろうと思っていたのだ。当然ながら部屋と箱庭は繋いである。だが、箱庭には先にユーリが来ていた。ユーリも当然ながら寮住まいなのだが、息抜きにこちらに来ていることも多い。
「仕事自体は別にそうでもなかったんだけど、主に精神的な疲れ?」
なぜかナリスの疑問符付きでの返答がきた。
「何それ、精神的?」
「そう。そっち」
同じ王子様でも全く違う。こっちの皇子様は、見事な美少年に育ってくれた。水色の髪と金の瞳を持ち、少年から大人になりかけの微妙なお年頃のかっこよさと不安定な感じが同居していて大変麗しい。ユーリならあのバカ王子のセリフももっと優雅に言ってくれるだろうし、あんな気持ち悪さは出ないだろう。ナリスの精神的なダメージは主にあのバカ王子の気持ち悪さだ。こっちの皇子様たちが優秀すぎて、向こうの人たちにドン引いた。
「うーん、いいなー。ユーリはぜひそのままな感じでいてね。間違っても変なのに引っかからないでね」
「??そんな感じの仕事だったんだ。まぁ、お疲れ様。明日は休日だし、ゆっくりこっちで寝ててもいいんじゃないかな」
寮だと何かと生活音がする。それも人が生きている証の音で好きなのだが、たまには静かな場所でゆっくりとしたい。この箱庭には温泉もあるし、疲れた身体を休めるのにはちょうどいい。
「…は!ボクの癒やしはどこ!!」
そうここは箱庭なのだ。ならばナリスの最愛の癒やしがいるはずだ。
「にゃーん」
やっと気付いてくれたの?とでも言いたげな鳴き声がナリスの耳に届いた。ぱっと見れば扉の前でちょこんと座っているナリスの癒やしの白黒のハチワレにゃんこが1匹。
「センリー!センリ、もふらせてー!!」
ナリスの大切なハチワレ猫が、ちょっと二股入ってる尻尾をふりふりとさせながらゴロゴロ言って大人しくナリスにされるがままにもふらせてくれた。
「ふう、精神が汚染されそうな時はこっちの世界に戻ってくるよ」
「にゃぁぁん」
一通りもふって気が済んだのか、センリを抱っこしたままナリスが猫吸いをしてした。
「じゃ、今日はヴェイユも貸してあげるからもふもふと一緒に寝たら?」
ヴェイユはユーリと契約している天虎で、とても大きいので夜営の時の暖をとるのにとても重宝している白い虎だ。
「お、貸してくれるの?やったー、ヴェイユー、今日は一緒に寝ようね」
センリと同じように扉の近くで黙ってお座りしていた天虎が、ふぅっとため息を吐いた。
「しかたない。主の命令だし、ナリス様はお疲れのようだからな」
幼い頃からユーリとナリスの成長を見守ってきたヴェイユとしては、気分はもはや保護者だ。子供が疲れたのならば、全力で力になろうではないか。そんな男気溢れる気持ちを知らずにお子様たちは、わーい今日はお泊まりだー、と喜んでいた。
「ナリス様、そなた、成長しているのか?昔っから何もかわらぬ気がするが」
「えー、心外だな。ちゃんと成長してるよ!!たぶん??」
心外とか言う割にはたぶん??なんだ、などと思いながらヴェイユはそれこそいつも通り、ナリスとユーリとついでにセンリの世話をするべく、動きだしたのであった。