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エリザベス編 前編

読んでいただいてありがとうございます。色んなジャンルを読んでいたら書いてみたくなりました。

 「エリザベス・パーク、お前との婚約を破棄する!理由は、ここにいる我が”真実の愛”の相手である最愛の女性、リリア・モモニア男爵令嬢をいじめ、あまつさえ怪我をさせた事だ!事態を重く考え、貴様には同時に国外追放を命じる!!」


 卒業パーティーが始まったその時に壇上からそう言い放ったのはこの国の第一王子であるフィリップだった。金髪碧眼のいかにも王子様然とした容姿の彼の隣には、ピンクの髪のかわいらしい女性が寄り添っていた。言われたエリザベス・パーク侯爵令嬢の方は王子と同じ金髪碧眼だが、金髪は少しくすんでいて、瞳も同じ碧眼とはいえ色は薄く、王子とは全く違う印象を受ける色合いだった。だが、その容姿は貴族らしく整っていて、可愛らしいというよりは冷たい感じの印象を与える顔立ちだった。


「…恐れながら殿下、わたくしはその方をいじめてなどおりません。まして怪我をさせた覚えもございません」


 エリザベスに身に覚えは全く無く、むしろそのリリア・モモニア男爵令嬢とやらは今日初めて見た女性だった。


「何をふざけたことを言っているんだ!貴様が何度もリリアをいじめていたことは多くの人間が見たと言っているんだぞ!貴様は私の婚約者であることをいいことにやりたい放題だったらしいではないか!!」

「殿下、わたくしは今日、初めてその方…リリア嬢に会いました。どうして、今日初めてあった方をわたくしが今までいじめてきたと言えるのでしょうか?」

「嘘を言うな!リリアはこの一年間、ずっとこの学園に通っていたのだ。今日初めて会っただと!そんな嘘、通用すると思うなよ!!」


 フィリップはエリザベスの言葉を全く信じずにさらに怒鳴りつけた。フィリップの周りにいる男性達も大きく頷いている。驚いたことにフィリップとリリアの周りにはこの国でも将来衆望な男性達が集い、2人を守るように立っている。宰相の子息、騎士団長の弟、学生でありながら魔術師の称号を持つ者、公爵家の兄弟、そして、エリザベスの腹違いの弟。誰も彼もがエリザベスに対する敵愾心を隠そうともしない。


「恐れながら、わたくしは今日まで神殿に籠もっておりました。学園には通っておりません。そんなわたくしがどうしてその方をいじめることが出来るとおっしゃるのでしょうか?」


 エリザベスはこの国の慣習に従い、王子妃となる前の1年間、この国の主神たる愛と平和を司る双子の女神に仕えるべく神殿預かりとなっていた。リリアが転校してくる前に神殿に入り、今日までの間は私用で神殿を出ることは許されておらず、王子妃教育の時だけ監視の神官と共に王宮に赴くことを許されるという生活をずっとしてきたのだ。その間に会ったのは教育係を除けば王妃と婚約者のフィリップーとは言ってもフィリップは何だかんだと理由を付けて王宮にはいなかったので、フィリップに会ったのも約1年ぶりなのだがーだけだった。そんな生活を送ってきたエリザベスが学園内でリリアをいじめることなど現実には不可能なのだが、リリアの周りの男達はエリザベスの言葉など聞いてはいなかった。


「は!そんなもの何とでもなろう!!貴様がリリアをいじめていたのを見た者が大勢いるのだ!それこそ貴様が神殿を抜け出していた証拠だ!そうだ、女神様さえも裏切った貴様に国外追放などぬるすぎる!処刑にしてやる!!」

「殿下、わたくしは常に神官様とともにおりました。その方たちがわたくしの証言をしてくださいます」


 そう言ってエリザベスはこの1年ずっとともにいた神官たちの方を見たが、神官たちは首を横に振るだけだった。


「……?どうして…?」


 呆然としたエリザベスに女性神官の1人が近づいた。


「残念ですがエリザベス嬢。女神様の審判は下されたのです」

「女神様の審判?」

「そうです。我らが愛と平和を司る双子の女神様は、フィリップ王子とリリア嬢の”真実の愛”を支持なさるそうです」

「真実の愛…?」

「そう。残念だわ、エリザベス嬢。貴女ならお姉様の用意した女に勝てると思ったのに、やっぱり負けてしまったのね」


 女性神官が急に口調を変えた。それと同時にその姿も変わった。神殿にある双子の女神の絵画。その妹女神にそっくりな姿へと。いや、彼女は間違いなく双子の女神の妹の方だった。


「め、女神、さま?」


 観衆の誰かがそう言ったことで、これは夢でも何でも無く現実なのだと気付かされた。妹女神は優雅に歩き出すと、壇上に上がって彼女曰く姉の用意した女のあごに手をかけた。


「ふぅん。こういう子が好みだったのね。まぁ、仕方ないわ。あーあ、今回もお姉様の思惑通りになっちゃった」

「……あ、貴女は妹女神様なのですか?」


 今まで勢いよくエリザベスに怒鳴りつけていたフィリップが信じられない様子で女神を見た。


「えぇ、そうよ。私が貴方たちの崇める女神の1人よ。お姉様、見ているのでしょう?お出でになったらいかが?」


 妹がそう言うと柔らかな光が天上から振ってきて、その光が双子の姉女神へと姿を変えた。


「おほほほほ、いつでも真実の愛の方が強いのよ。真実の愛の前に障害物の真実などどうでも良いこと。その娘が真にリリアをいじめていなくても、その娘が悪役令嬢になれば事は全て済むことなのよ」


 姉女神のその言葉に勇気づけられたのはフィリップとその取り巻きたちだった。


「聞いたかエリザベス!我らが双子の女神様は私たちの”真実の愛”こそ正しいと審判を下されたのだ!よって貴様は処刑だ!!」

「お、お待ちください。わたくしが何もしていないのは今のお言葉からも明白です。わたくしがリリア嬢をいじめていなくても、と姉女神様はおっしゃいました」


 さすがに理不尽すぎる言葉にエリザベスは顔色を悪くしながらも反論した。


「もう負けなのよ、エリザベス。本当に残念だわー、今度こそお姉様の用意した真実の愛の相手より国母に相応しい相手を選んでくれる王子だと思ったのに。結局今までの王子と一緒だったわね」

「妹女神様、それはどういう意味ですか?今までと一緒?ま、まさか女神様たちは今までもこのような事を…?」


 女神の言葉から正確に過去の出来事を読み取れたのはエリザベスだけだった。他の人間たちは自分たちの正義に酔いしれて女神達の言葉に一切の疑問を抱いていない。


「そうよ、時間をおいて何度かやってるんだけど、いつもお姉様に勝てないのよねー」

「当たり前よ。真実の愛の前に婚約者など障害物でしかないわ。障害物が大きければ燃え上がるよ。今までの悪役令嬢たちも立派に自分たちの役割を果たして死んでいったのですもの、本望だったでしょう」


 姉女神が慈悲深い笑顔でにっこり笑ったのをエリザベスは引きつった顔で見た。

 確かに歴史を習った時、王子の婚約者だった女性が何らかの理由で亡くなっている話しをされた。それは病死だったり事故だったりと様々な理由だったのだが、女神達の言葉から自分と同じように女神達の思惑で殺されたのだと悟った。


「な、なぜ?なぜこのような事を…?」

「賭けよ、賭け。私たち、愛の女神でもあるんですもの。人の恋愛に口出ししたいお年頃なの。私が教育を施した国母に相応しい女性と結婚するか、お姉様が用意した真実の愛の相手を取るか、いつも賭けてるんだけど、お姉様には勝てないわ。どんな王侯貴族であろうとも”真実の愛”を叫んでお姉様の用意した相手に夢中になるんですもの」

「当たり前よ。妹は姉に勝てないものなのよ。あぁ、安心してちょうだい。今のこの会話や私たちの姿や言葉を記憶されないようになっているから。私たちが消えたら貴方たちの記憶の中に残るのは、双子の女神に真実の愛が認められた、ということだけよ。貴女を除いて」

「え?わたくしを除いて?」

「そう、貴女だけは真実を知っていればいいわ。ごめんなさいね。貴女はすぐに処刑されるからせめてもの慈悲として全てを知って逝ってちょうだい」


 無邪気に妹女神が1年間、自らの手で育ててきた国母に相応しい女性を切り捨てた。双子の女神は一切の邪気など持っていないかのように楽しそうに笑い合っている。絶望に立たされたエリザベスとは対照的な笑顔だ。


「あら、待って。せめてもの慈悲だというのならば、私たちはこの子の処刑まで見届けるべきではなくて?いつもは天上から見ているだけだけど、たまには目の前で見てみたいわ」

「お姉様、それ、いいわ。処刑の方法もいつも首切りだけですもの。どうせならちょっと変更しましょう。まずは大勢の目の前で、うーんとそうね、国王とかに犯させちゃう?ほら、国王ってば前の時は婚約者と一度でもやっとけば良かったって後悔してたじゃない」


 今の国王、フィリップの父も確か婚約者が若くして病死している。婚約者の病死のすぐ後に結婚したのがフィリップの母親だ。どうやら親子2代に渡って双子の女神の思惑にはまったようだ。


「そうね、そうしましょうか。今回はあまり時間をおかずに親子で私たちのおもちゃになってくれたんですもの。それくらいはご褒美がないとね。あぁ、何て慈悲深いの私たちは」


 エリザベスの目には双子の女神が敬愛すべき女神ではなく、だんだんと醜悪なナニかに見え始めた。女神の言葉にそうだそうだ、と囃し立てている周囲の人間ももはや人の形をとったナニかにしか見えない。


「女神様、どうか一番始めはこの私に!今までイヤイヤながらも婚約者だったのです。その役目は私にお願いいたします」


 フィリップが片腕にリリアを絡ませながら女神に願い出ているが、その内容のあまりの気持ち悪さにエリザベスは吐きそうになった。

 女神の言葉に酔って、フィリップが自分を犯そうとしている。

 確かにこの1年間はあまり会わなかったが、その前の時間の中では2人で仲良く勉強とかもしていたのだ。幼い内に婚約者になったフィリップとエリザベスは、幼なじみとも言っていい関係で、こんなおかしな関係は築いてこなかった。恋愛では無かったかもしれないが、親愛の情を持ってちゃんとお互いを想い合う関係性を築いてきたはずなのだ。だが、今のフィリップの目には欲望のみが光っていて、エリザベスを思う気持ちなどは無かった。


「フィリップ様!どうか、どうか正気に返ってくださいませ。そのような女神達の言葉に乗せられないでください!!」

「黙れ!貴様は醜悪な囚人だ!女神様に逆らう反逆者め!私が犯した後はこの場にいる全員にその権利をやろう。男だろうが女だろうが、エリザベスを好きにするがいい!!」


 壇上からゆっくりとフィリップが降りてくる。いつの間にか双子の女神は豪奢なイスに座りその様子をにこにこと眺めていた。姉女神の傍らには例のリリア嬢が、こちらもにこにこしながら立っている。


「……何てこと…」


 近づいてくるフィリップに絶望に駆られたエリザベスは、その場に座り込んで涙を流し始めた。だが、それさえもフィリップの欲情を煽るだけで、今まで見たことがないくらいのギラ付いた目でエリザベスを見るだけだった。


「どうか、どうか、神様。このような事はわたくし限りにしてくださいませ。今まで犠牲になった女性たちの為にも、あの双子の女神を止めてください」


 エリザベスは座り込み涙を流しながら胸の前で手を組んで天に祈った。もう、自分は助からないだろう。このまま婚約者であった男に陵辱されて殺されるしかない運命しか待っていない。だが、犠牲はもう自分までで十分だ。歴史を習ったエリザベスは過去にこうやって殺された女性たちが各国合せて200人以上いることを知っていた。いや、恐らくそれさえも女神たちが面白がってエリザベスに伝えたのだ。エリザベスも所詮、その数字の中の1人になるだけだ、というように。

 ゆっくりと近づいてきたフィリップがエリザベスの髪の毛を掴んで無理矢理自分の方を向かせた。


「さぁ、エリザベス。貴様はどんな声で鳴いてくれるのかな」


 気持ち悪い醜悪な笑顔のフィリップを見てエリザベスは、自らの最後を予感した。


 「見てお姉様、あの絶望しきった目。あぁ、いいわぁ、ぞくぞくする。いつ見ても綺麗な子が絶望に染まっていくのを見るのはいいわねぇ」

「本当に。あの絶望与えたのが私たちだと思うと、心の底から喜べるわ」


 双子の女神は自分たちの行為によってエリザベスが絶望したのがよほど気に入ったのか、自らの体を両手でかき抱いて歓喜の表情を浮かべて震えていた。

 エリザベスの方は恐怖で血の気が引き、青白い顔をしている。それさえも被虐趣味の2人からしたら興奮する材料の1つでしかない。


「…どうか…神様、どうかわたくしで最後に…」


 捕まれたエリザベスが最後の祈りになるであろう言葉を紡いだその瞬間に先ほど姉女神が降りてきた時の小さな光とは全く違う、その場を支配する圧倒的な光が降ってきた。


「「ぎゃあぁぁぁ!」」


 誰とも知れぬ悲鳴だけがその場で響いている。


「何!なんなのよ!!」


 双子の女神のうちのどちらかの声が聞こえたのだが、エリザベスも眩しくて目が開けられなかった。

 ようやく目が開けられた時、エリザベスは男性の腕の中にいた。

 その腕はまだ細く、けれど、力強い感じがした。


「何者よ!!」


 壇上で豪奢なイスに座ってにこにこ笑顔だったはずの双子の女神が顔をゆがめてこちらを、正確にはエリザベスを抱きしめている男性を見ていた。


「やぁ、大丈夫?君の祈りはちゃんと神々に届いたよ。って言ってもボクはこの世界の神様じゃなくて、ちょっとこの世界の大神様に派遣されてきた異世界の神様ってやつなんだけど。でも、そこの双子よりも上位の神だから安心してね?」


 黒い髪と黒い瞳を持つ男性、というよりも自分とそう年齢がかわらないであろう学生のような神様がエリザベスに優しく微笑みかけていた。

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