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第五話 初めて回復魔法を褒められた。

ディルも仕事を理解してきたところですが、

次回は「勇者」サイドを挟もうと思います~

 おお、というマロウさんの歓声。

 気がつけば瞬く間に光は失せていて、どっと魔力を消耗した感覚だけが残った。


 成功……したのだろうか?


「えっと、今のが『浄化』……のはずです。あはは、一瞬でわからなかったかもですが」


 俺の言葉に、マロウさんはゆっくりと首を横に振った。


「いや、確かに見させてもらった。お主のスキル……いや、何よりもお主の死者たちへの気持ちを。

 ほれ、涙をふきなさい。まったくお主はすぐに泣くのぅ」


 また指で涙を拭われる。こればかりはどうにも慣れない。さすがにちょっと恥ずかしい。


「それで、どうでしょうか。やっぱり、ポーションの代わりにはならないですかね……?」


「とんでもない。ありがとうよ、ディル。

 お主がその優しい心を失わない限り、儂の代わりに彼らを清めてやっておくれ。

 それにポーション代も節約になるしのぅ。ふぇっふぇっふぇっ!」


 どうも認めてもらえたらしい。

 「ありがとう」と言われるのは慣れてなかった。ますます気恥ずかしくなりつつも顔を上げる。


「マロウさん、次の仕事を教えてください。

 俺、この人達が他人だとは思えないんです。未熟な仕事で悪い思いをさせるわけにはいきません」


「よかろう。ではそこのスコップを持て」


 次の仕事は、埋葬用の墓穴を掘ることだった。

 まだ使われていない土地を選び、等間隔で印をつけていく。それぞれがこれから掘る穴を示しているらしい。


「なるべく曲がらぬようまっすぐ印をつけていくのだぞ。

 後で見栄えが悪いのは死者も嫌がるだろう。それに限られた敷地を最大限使うには、盤の目のように墓を建てねばならん」


 言われた通りにしていくと、個々の墓同士の間隔はかなり狭くなった。

 いくら広い墓地とは言え死人は毎日増えていく。本来ならここの人たちは、一つの穴にまとめて葬られていてもおかしくないのだろう。


(狭くてすみません……でも我慢してくださいね……)


 心の中で死者たちに謝りつつ、俺は人数分の印をつけ終えた。あとは実際に墓穴を掘るだけだ。


「かなり重労働ではあるが、ここが踏ん張りどころだ。期待しておるぞ」


「はい! 頑張ります!」


 誰かに期待されるのもなんだか久しぶりだ。俄然身が引き締まる。


 俺とマロウさんは手に手にスコップの長柄を取り、土を掘り始めた。


 が、これが思っていたよりずっと難しい。

 土の硬さもそうだが、度々植物の根や石に突き当たる。その度に身をかがめ、手作業で除いていかねばならなかった。

 そして、やっと一つ掘り終える頃にはもうクタクタになっていた。


 一方でマロウさんは凄い。俺よりも小柄な体なのにみるみる作業を進めていく。根や石の除去も手早い。

 流れるような手際に惚れ惚れしそうだった。


「おっとさんのためならエンヤコラ~」


 が、一つだけ問題というか、気になる点。


「おっかさんのためならエンヤコラ~」


 マロウさんは作業中、ずっと歌のようなものを歌っている。

 ようなもの、というのはつまり……あまりにも音痴なのだ。聞いているだけで手元が狂いそうになる。


「もひとつおまけにエンヤコラ~」


 まあ、見方によってはかわいい……のか?

 マロウさんはなんというか、あまりにも立派な人で少し畏まってしまう。

 が、こうして抜けたところを見ていると、同じ人間なのだと思うことができた。


「……む。なにをニヤニヤしておる? 休んでいる暇はないぞ」


「あ、いやその、少し疲れちゃって……」


 まだ穴を一つ掘っただけだが。なんだか情けない。

 ベテランのマロウさんに敵うわけはないのだが……男のプライドなのだろうか。


「ふむ。まあ無理もなかろう。まだ朝食もとっておらんしな。ここらで休憩を取ろうか」


「い、いえ! 大丈夫です! まだ頑張れます!」


 そう言ってスコップを振るうが、体に嘘はつけない。あっという間に体が動かなくなる。


「無理は禁物、腰を壊すぞ。うまくできないのは気にするな。初めてなのだからできなくて当然だ」


「そんな、せっかく期待してもらっておいて……これでも一応冒険者なんです……! 元だけど……」


「冒険者といってもお主は『僧侶』だったのだろう……ん、いや待て、それなら回復魔法が使えるのではないか?」


「ええ、使えますけど……それが何か……」


「自分を癒すことはできんのか。ポーションとは違い、回復魔法は傷だけでなく疲れも取り除くはずだが」


「……あ」


 パスカヴィルのパーティにいた頃、俺は自分に回復魔法を使うのを禁止されていた。他のメンバーに使える回数が減るからだ。

 もし自分を回復しようとすれば回復する以上のダメージを負うまで痛めつけてやる、と脅された。


 だから、自分を癒すという発想を完全に失くしていた。


「……どーもお主、なかなか過酷な環境にいたらしいのぅ」


 なんとなく俺の事情を察したらしいマロウさんの、同情めいた瞳。


 考えてみればそうだ。なんで俺はあんな酷いところにいたんだろう。

 冒険者になるのが夢ではあったけど、あんなのもはや冒険者じゃない。ただの奴隷だ。


 パスカヴィルの下卑た笑いを頭から追い払う。嘲笑も、罵倒も、もうここにはない。


「……ヒール!」


 俺は回復魔法を唱える。対象は自分。思えば回復魔法をまともに自分に使ったのは初めてだ。全身が柔らかな緑の光に包まれる。


「……すごい! 疲れが一気に消えた!」


 まるで冒険初心者だが、本当に驚いた。さっきまであんなにしんどかった疲労感が一瞬のうちに消える。

 傷を治すだけのポーションとは全然違った。パスカヴィルたちは、いつもこんなにいい思いをしてたのか。その割にはちっとも喜んでもらえなかったけど。


「うむ、それはよかった。紛れもなくお主の力だ、これからは忘れたりせず大切にするといい」


「はい! マロウさんにも使っていいですか?」


「もちろん。むしろ儂の方から頼もうと思ってたところだ」


「では……ヒール!」


 緑の光が、今度はマロウさんを包む。


「……おお! お主の魔法、なかなかに凄いではないか!

 昔うけたヒールに比べても格段に癒されるぞ! 若い頃の体力が戻ったようだ!」


「そ、そうですか? よく『おまえのヒールは質が悪い』って怒鳴られてたんですけど」


「なに? それは不思議だのぅ。質が悪いどころか、上位魔法のヒールモアくらいの効果に感じたが。

 まあよい。ジョブというものは未解明な部分も多いと聞く。いずれ分かる時が来るだろう。

 それより回復したなら仕事を続けるぞ。お主のおかげで正午までには終わりそうだ! 終わったら何か食べに行くとしよう!」


「はい!」


 マロウさんの嬉しそうな顔を見ると、今まで苦しんで来た分も無駄じゃなかったと思えた。

 そういえば追放される前も、時折もらえる感謝の言葉が嬉しくて続けていたような気がする。


 ああ、そうだ。

 パスカヴィルなんて一度も感謝してくれなかったけど、一人だけいつもお礼を言ってくれる人がいた。

 「魔術師」のベリル。彼女は元気だろうか。


「……考え込んでないで仕事しなきゃな」


 ベリルのことは気になる。けど、時々言葉を交わしたくらいの関係でしかない。

 それに俺と違って「魔術師」は、器用万能の「勇者」、剣の達人である「剣聖」と並び三強とも呼ばれる上位ジョブの一角。心配せずともうまくやっていくだろう。


 なにより俺には俺のやるべきことが山積みだ。他人の心配をしている暇はない。


本小説を読んでいただきありがとうございます!


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