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第十話 奇襲。

 俺の「鑑定師」スキルを使うまでもなく、パスカヴィルの機嫌は目に見えて最悪だった。


「おいヘンリー! さっさと奴隷クズ共を歩かせろ!」


 頭ごなしの罵声。いつもは他の連中の役目なのに、何で俺まで……。

 クソ、それもこれも脱走した連中のせいだ。


「へいへい。

 おらクズ共! 休んでんじゃねえ! 俺がパスカヴィルさんにぶん殴られるだろうが!」


 奴隷たちの顔は、本当に人生どん底って感じの顔だった。そりゃそうか。


「す、すみません……もう足が限界で……」


 奴隷の一人が声を上げる。ちっ。手間取らせるんじゃねえよ。


「ならこの森の中に置いてってやろうか!? あぁ!? それでも俺はいいんだぜ!?」


「ひぃい! すみません! 歩きます歩きます!」


 ま、ちょっと怒鳴ってやればこんなもんだ。


 そもそも俺がパスカヴィルの下で働いてる理由、その半分はこのみじめな連中を見下せるからだった。

 けっきょく、世の中には二種類の人間しかいないのさ。つまり、見下すか、見下されるか。

 どっちかと言われたら、誰がどう考えたって見下す方がいい。


「パスカヴィルさん、今日はどこまで進む予定なんすか? いろいろあってかなり遅れちまいましたが」


「もちろん予定通り進むさ。つまり、今日中に目的地につくぞ」


「なぁ!? そしたら一晩歩きっぱなしじゃないっすか」


「文句あんのか?」


「い、いえいえ!」


「いいか、一人でも奴隷を失うんじゃねえぞ。必要な人数に満たないと先方にゴネられるからな」


 相変わらずムチャクチャだな。奴隷の中には老人もいるし、山道を一晩中歩くなんてできんのか?

 ま、できなくてもやらせるしかねえな。どんな理由にしろ、一度奴隷の立場になった方が悪いんだ。


 俺は行軍を再開させる。が、その時。


「……!?」


 背後の森の中から嫌な気配を感じた。俺の「鑑定師」のスキル、「危機鑑定」になにか引っかかったか。

 パスカヴィルのグズはまだ気がついてない。ま、「勇者」なんて所詮は脳筋ジョブだしな。


 問題は、この気配を報告するかどうかだ。報告したらパスカヴィルが代わりに敵を排除してくれるだろうか?

 答えはノー。「てめえがどうにかしろ!」と怒鳴られるに決まっている。


 かといって無視するわけにもいかないな。何かあればやっぱり俺が怒られるだけだ。


「……あーあ、中間管理職のつらいところね、これ」


 結局はいつもと同じだな。俺がさっさと倒して、パスカヴィルには特に何も言わない。涙ぐましいぜ、俺。





 ○





 ベリルの「再起リターン」によって、俺達はまばたき一つする間に深い森の中にいた。

 空はもう夕暮れだ。日が暮れる前にパスカヴィルたちに追いつかないと。


「ベリル、もう一度作戦を確認しよう。まずは『鑑定師』ヘンリーを見つけるんだ。そして奴を倒し、俺のスキルを『鑑定』させる」


 ベリルはこくりとうなずく。

 単純な作戦だ。単純だということは、その時々に柔軟な対応を必要とするってことでもある。


 俺はあらためて気を引き締める。


 まさかこんなことになるとは。パスカヴィルを討つ。それはミラノ司教をはじめとする死者たちを慰めるため、「墓守」としていずれやらなければいけないことだった。

 しかし昨日の今日とは、人生何が起こるかわからない。


「行こう」


 夕方の森っていうのはかなり暗い。俺たちは闇に紛れてパスカヴィルを追った。

 どちらに向かえばいいかはすぐにわかった。大量の足跡が残っていたから。


「パスカヴィルは大量の奴隷を連れている。きっと素早くは動けないはず。すぐに追いつけるわ」


 ベリルの言ったとおりになった。

 空が暗くなりきる前に、俺達はパスカヴィルたちを見つけた。

 バレないように道を外れ、森の中を素早く進む。


「ディル、こんな時に言うのも何だけど……」


 ふと、ベリルが呟いた。


「私、まだ不安なの。本当にパスカヴィルを倒せるのかって。私は一度あいつに負けたから……」


「ベリル……」


 不安なのは無理もない。普通は不安になる。ていうか俺だって不安だ。

 でも、それ以上に「やらなきゃ」っていう気持ちが強かった。そのことをベリルに伝えるのもいい。が、それよりも人を落ち着かせるにはいい方法がある。


 俺はベリルの手をそっと握った。落ち着くには人肌に触れるのが一番だ。


「……ん」


 ひょっとして嫌がられるかも、と思った。でもベリルは振りほどくどころか、遠慮がちに手を握り返してきた。

 日没の気温で冷えかけた俺の体に、ベリルの優しい体温が伝わってくる。


「ありがとう……。

 そうね、こんな時に弱音はいてちゃだめよね。どうかしてたわ、私」


「気にしなくていいよ。落ち着いたようでよかった」


「……本当に不思議ね。悪い意味で言うんじゃないのよ。でも、今までのディルじゃないみたい。

 パスカヴィルのパーティにいたころは、本当のあなたじゃなかったのね」


「そうかもしれない。パスカヴィルはなんていうか、人の能力を奪う力を持っていると思うよ。

 相手をどなったり殴ったり、そんなことしたら、誰でも本当の力を発揮できるわけない」


 ベリルはまたうなずいた。俺たちはそれからは黙って進んだ。


 重要なのは不意打ちを成功させることだ。本格的な戦闘になれば、もうどうなるかわからない。

 そう、思っていたのだが……。


「っ!?」


 背後でがさりと茂みをこする音がした。

 俺は咄嗟に振り向くと、ベリルの背後に誰かいる。


「どうしたの?」


 きょとんとしたベリル。間に合わない、そう思った。


 彼女の背後にいたのは「鑑定師」ヘンリーだった。俺たちのことがバレていた!?

 ヘンリーは茂みから飛び出し、そのムキムキの腕を思い切りベリルに振るう。


「いただきぃいいい!」


 咄嗟に俺は駆け出した。だが間に合わない。

 直ぐ側の木に叩きつけられるベリル。


「がっ!?」


 不意打ちするどころか不意を取られてしまった。

 だが嘆いても仕方ない。


 俺はヘンリーに対して構える。ベリルはしばらく動けないだろう。

 ここは、俺がやるしかない。

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