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鬼になるよ

作者: 甘盛かふぇいん

「髪を切らないと鬼になってしまう」

僕はそう言われ続け毎週一回カミソリを頭に滑らせる。僕にとってそれは普通だった。

僕が物心つく頃、村には動物の毛皮を纏った仲間が三十人程度いて、魚を釣ったり布を加工して売りに行って生活していた。村人はみんな髪をツルツルに剃りあげており、髪は剃りあげるものだと認識していた。何度も頭を切ったが髪がある方が目立つので辞めようとは思わなかった。

「髪が無いとね、角が恥ずかしがって出てこないのよ」

母は大変美しい女性で、髪が無い分耳飾りを多くあしらっており、母が顔を傾けるだけで色とりどりの装飾品に負けず劣らず髪が無い分まつ毛のしなやかさや、潤んだ瞳が瞬いた。僕は母の剃髪頭が大好きで、剃りたての頭に頬を押し当て匂いを嗅いだ。母は照れながら白い指先で僕の頭に優しく触れた。

僕はいつしか成人の儀を迎える年齢になった。僕は成人の儀に使用する薬草を採りに川辺までやってきた。そこで初めて髪の生えた人間を目にした。

彼女は黒い長い髪を川で洗っていた。濡鴉のような光沢に目が眩む。髪は川に溶けて踊るようで、とても美しい光景だった。僕は気がついたらその髪に触れる距離に近付いていた。

女は焦り身構える。髪を川から巻き上げて右の肩の上にまとめる。まとまった髪から滴り落ちる水は他の水とは違い宝石が落ちているように見えた。

「綺麗な髪」

「え・・・」

「僕に触らせてくれないか」

「自分の髪を触りなさい」

彼女は服を着ぬまま走り去っていった。僕の髪は何色なのかすら知らない。

僕は成人の儀の準備中に抜け出し一人で暮らし始めた。僕と川で出会った彼女、彼女に角は生えていなかった。僕に生えるとは思えない。

一人で急に暮らし始めたのでカミソリや刃物は持ち合わせておらず、髪は徐々に伸び始めた。

僕の髪は水面に映る姿を見る限り川の彼女とだいぶかけ離れたものだった。チリチリの茶髪でなかなか下に降りてこない。頭皮が見えなくなった頃から定期的に頭頂部から頭痛がするようになった。

僕の髪が太い編み込み状態で肩の下に降りてくる頃、頭痛は止んだが人の前に出られなくなった。太く白い角が二本眉の上から生えてきた。僕は野菜を食べれなくなり血の流れた生き物の死骸からしか栄養が取れなくなった。冬の時期生き物が少なく食べるのに困り、自分が鬼になった姿で村に戻った。

村人は激怒して僕を縛り上げた。鬼の状態になると食欲から周りの生き物を食い散らす性質があり自分達が周りを傷付けないための剃髪だったと知る。

僕の髪は焼かれ二度と生えないようになった。角は切り落とされ野菜を以前よりは戻さなくなった。僕は成人の儀を再度行うために薬草を取りに川に向かった。

川には美しい髪をした男女の姿があった。見覚えのある顔立ちの女性と見知らぬ男性。二人は川で髪を洗っていた。黒くしなやかな真っ直ぐな髪。僕はわざと物音をたてながら近付いた。

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