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転生するのが遅すぎた!  作者: 大村 豆腐
4/4

人の心は高い空〜先にある宇宙を誰も知らない〜

遅くなってすみません。

精進します。

車両から降りると茜色の光が目に入ってきた。さっき居た山の方角へと日が傾いていた。


僕が転生したこの異世界は複数の国に別れているらしい。

らしいと言うのは、まだこの国『()の国』から一歩も出たことがない。


まぁ日本にいた時ですら、海外に出たことないけどね。


そんなカの国の首都カソーノ。こっちの昔の言葉で『花の庭』という意味だそうだ。その南西の端に僕らはいる。


そこには僕らの学校、陸軍の軍高等学校の校舎があり、隣接した寄宿舎に車両は止められていた。


「ユー君、まだ慣れないね」


「そうだね、エリー。僕らは山間部の村出身だからまだ見慣れないよね」


僕とエリーナが見つめる先には都市の中心、そこから生える『鉄の大樹(てつのたいじゅ)』と呼ばれる巨大な鋼鉄製の建造物。夕日に照らされ鈍い赤銅色の陰影が付いている。


「これだから田舎者は。ボクなんてあそこの下に住んでいるんだ。慣れるなんて感覚がわからないな」


「ソラ、お前、小さい頃はあの木が怖くて、おばさんと一緒によく村に遊びに来ていたじゃないか」


「うぅ」


「本当の貴族は誰かと比べないものですわ。品格が知れますわよ」


「うぅぅ……」


「ミウサ、あんまりいじめてやるなよ。ソラ、が……。」


ほら、もう涙目じゃないか。こいつ外側はあか抜けて大人だけど、中身は子供なんだよな。


子供がチヤホヤされたくて自慢してるのと一緒なんだよ。正論パンチは泣くに決まってるじゃないか。


「お前たち、装備の片付けと整備! とっとやれ!」


「「「はい、レイ教官!」」」


「整備終了後、女性陣は食堂で食材交渉。男性陣はテーブル等会場設営だ。解散!」


僕らは装備庫に走って向かう。


今期の学生用の装備庫。一年生全員分の棚があり、その中ほどに僕らの班の棚がある。


装備を装備庫の棚に降ろすと中身を出し、不足品がないか確認する。と言っても今回は水筒とオモリ代わりの水が入ったタンクだけだ。


皆、銃は持ってきているが銃弾は入っていない。


魔法と魔術。この世界に満ちる魔力を基にあらゆる現象を引き起こす。その技術の名前だ。


魔術は魔力を魔法陣に注ぐことで、引き起こす現象や規模を限定できる代物だ。今日のカの国の発展はこの魔法陣によるものだろう。魔力さえ有れば誰でも同じ現象が起こせる。


この性質で魔力を小さな魔力を増幅し、打ち出す魔力の銃を作りだした。弾倉を背負わないでいいのは大きいよな。


そして魔法。魔法陣を介さないで現象を起こせる技術の総称だ。

高い自由度を持つが、それはつまり威力は自身魔力が残っているかぎり際限なく上がり、最悪暴発する可能性も含んでいる。

扱うのに高い技術力が必要なんだ。


そして僕は自分の剣に目を向ける。


剣に比べて、大き過ぎる鞘と鞘についたパイプやチューブ。魔力のコントロールができなくて、何本も銃を壊す僕に与えられた武器だ。


鞘から剣を引き抜くと傷一つない滑らかな金属製の刃があった。

しかし、訓練の時の刃の形から戻っている。


「『属性付与(エンチャント)』終了確認と」


普段、気体のように漂う魔力を液体にした『液体魔力』に属性を付ける。それを流体金属と共に新しい刃を作り出す人造魔剣。それがこの剣の正体だ。鞘には『地』、『水』、『火』、『風』の液体魔力のボトルを装填できる。スイッチを押すと属性付与された刃が完成するって仕組みだ。


「点検完了。素の剣はあまり使わないからな、傷はないや。あと風属性のボトルの補填を申請しとかなきゃ」


最新の注意を払って棚に刻まれた魔法陣に魔力を流す。入学当初、何度壊しかけたことか。今もまだ怖いや。


一枚の紙が宙に現れる。僕はその紙を手に取り……、とり……、と……、あ、横から伸びてきた手に取られた。


「なんだよ、カイル」


「どこぞの坊やが困っているようだからな。チビッ子だからって理由で準備をサボられたら、こっちが大変なわけよ」


カイルは紙を差し出してきた。僕はその紙を受け取った。


「成長期なめるなよ。すぐ追い抜くからな」


「伸びしろがあればいいな」


僕は急いで項目にチェックを入れると魔法陣に紙を叩きつけた。紙は溶けるように魔法陣に消えていった。


「次の体術訓練でボコボコに……、いや、必要ないか。小指で十分だね」


「はん! 俺なんて足の小指で充分だ」


「じゃあ、前哨戦やっておくかい?」


「じゃ、どれだけ準備に貢献できるか。勝負!」


僕とカイルは息があったように駆け出す。僕は一、二、三歩と早いテンポで加速する。カイルに半足分リードした。すかさず身体ををカイルの進路に差し込む。僕はカイルに競り勝ち、身体ひとつ分にリードを広げた。


先手は取れたと油断した瞬間だった。肩に残っていたカイルの手に力が入るのが分かった。後ろに引っ張られる。身体が少し減速する。カイルのストライドに加速が乗るのが、足音の間隔が広がるので分かった。次第に目の端にカイルの長い腕が見え始める。


「クソ、フィジカルお化けめ!」


僕が稼ぐ二歩をカイルは一歩で追いついてくる。お互いに腕で妨害する余裕がない。下手な妨害は自身のスピードを殺すだけなのを知っているからだ。僅か50メートル強、時間にして5秒か6秒の攻防戦。


開いている装備庫の扉から二人で押し合うように飛び出した。


しかし校庭を見ると、そこにはテーブルや椅子、肉を焼くための火を起こしたグリルまで用意されていた。埃を払うように手を叩く音が聞こえる。


「面白そうな勝負をしているじゃないか。ボクも混ぜておくれよ」


「げ、ソラ……」


そこには自慢げな、そして不満げなソラがいた。


「これはソラがやったの?」


「そうさ、ボクの魔法の本質は移動の能力だからね。このぐらいは朝飯前さ」


ソラの素は真面目でコマメだからなぁ。一人でも黙々とやっちゃうんだよな。俺に突っかかってくると途端にポンコツになるけど。自分のペースがそのまま強みなタイプだろう。


「で、ボクが勝者みたいだけど君たちは何をくれるんだい?」


坊ちゃんはお怒りのご様子です。


そういえばソラは小さい頃から仲間はずれにされると泣いて怒ったよな。


僕とカイルは二人で顔を見合わせると二人並んで、地面に膝をつき頭を下げる。


「「お肉で勘弁してください!」」


我ながら見事な土下座である。一分の隙もない。


ソラがため息を一つ吐く。


「仕方な――」


「ユー君、ソラ、食材もらってきたよ」


僕が顔を上げるとエリーナが両手いっぱいの袋を持って寄宿舎の方からこちらに走ってくるのが見えた。

レイ教官とミウサは氷水を張った桶を押してきていた。飲み物類が入っているのだろう。


気づいたら辺りは日が落ちる寸前、西の山際は夕日を煮詰めたような朱色と、夜の入り口の暗い紺色が溶け合う瞬間だった。

マジックアワーと俗に言われる時間帯。


夜と昼との境目に都市カソーノの花は咲く。

次第にカソーノを包むように地面から緑色の光が見え始める。夜になり、魔力の淡い光が見えやすいようになったのだ。


そしてちらほらと桃色、紫色、紅色(べにいろ)、水色と大小様々な柔らかい光が灯る。


カソーノの建物は全て木でできている。木も生物だ。魔力の中、生きていると魔力に順応する。そうやって帯びた魔力の光が今、見えているんだ。


街の中の人工の白い光がつき、キャンパスに色をのせるように淡い魔力の光の色が冴える。外から見るカソーノはまるで花園のような美しさだった。


「キレイ……。だけどまだ慣れないね。ユー君」


「うん、そうだね」


僕に歩みつつ、エリーナはそう言った。


光はキレイで明るい。しかし、その明るさは全てをやさしい闇から引きずり出してしまう。嘘も、過去も、曖昧にしていた真実も全て。


きっとエリーナは都市の田舎との差に慣れないのではなく。全てを明らかにしないと人と関われない。その残酷な光に不安を感じている。


その内、僕らのいるところまで都市開発が進み、光に覆われ、僕とエリーナが隠す真実が暴かれるのだろう。


けど今はまだこのやさしい闇のなかで、普通じゃないけど楽しいみんなと過ごす、この一瞬に微睡(まどろ)んでしまっていいだろう。


そうして、カソーノ郊外のこの日の夜は更けていった。

今回遅くなりすみません。

そして読んで頂いてありがとうございます。大村豆腐です。


言い訳をさせてもらうと暑さと厚さでやられてました。湯豆腐です。


今回、期待してましたよぉという方は感想を下さると次回への励みになります。ぜひお願いします。


へ?4話ぽっちで期待なんてあるかって。

そ、そんなこと言わずにね。ちょ……ちょっ

to be continued

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