33話 真の狩人(1)
王都へと旅立ったおれたちは風を切って目的地をひたすらに目指す。
王都までの道中は魔法で舗装されているため、道に迷うことはなさそうだ。
おれとエドに並列になった早馬を走らせるのだった。
「このペースだと王都まではどれくらいかかりそうだ?」
移り変わる景色にも新鮮さを感じなくなった頃、おれはエドにそう尋ねた。
すると、彼は服のポケットから巻き物のような小さめの地図を出し、広げて考える。
「そうですね。この子たちの調子も良さそうなので、数時間もあれば到着しますよ」
エドは早馬のジョーたちを見てそう答えた。
天候も馬たちの調子も良いようで、どうやら今日は予定より早めに到着できるようだ。
「そうか。案外、王都も早く着くものだな」
「はい。ですので、まわり道をして魔王の大樹を見てから王都に向かうなんてこともできますよ。興味はございますか?」
エドはそんな提案をおれにしてくる。
魔王の大樹だと……?
どこかで聞いたことがあると思ったおれは記憶を辿って思い起こす。
それはおれがまだ魔法を習得する前に、魔剣を振るって傷を付けたあの大木のことだった。
「いいや、それは大丈夫だ。最短で王都へ向かうぞ」
今も尚、おれたちの進行方向の斜め右の視界に映るその大樹を見ておれは即答する。
「承知しました。ヴァンパイアの前では口が裂けても言えませんが、あれは我々魔人からしたらそれほど思い入れもないものですからね」
そうだ、エドが言う通り立ち寄る理由がない。
今は王都へと急ぐ方が大事なのだ。
そして、おれたちは変わらず目的地を目指して走り続ける。
すると、今度はエドの方から話題を振ってきた。
「このまま魔物の襲撃などがなければ良いのですが……」
「魔物にはよく遭遇するのか?」
「はい……。運が悪ければ襲われますね。なんでも、魔王国の兵士たちが国内の魔物は見つけ次第討伐しているそうですが、やはり魔人たちの生活圏を繋ぐ道は後回しだそうで……」
エドは暗い表情でそう語るのだった。
確かに、この魔王国には前世とは異なり魔物が存在する。
魔物とは高い魔力を持ち、魔法を使う危険な生物だ。
だが、それでもおれたちの生活圏は護られている。
それは魔物の生息数が少ない上に、魔物除けの魔道具が用いられているからだ。
これにより、おれの家や魔人の集落での魔物被害の話は聞かない。
しかし、生活圏を一歩でも出てしまえば話は別だ。
例えば、今現在おれたちが駆けているこの王都へと繋がっている道中には魔物除けの魔道具は使われていない。
なぜならば、そんな広大な範囲に渡る魔物除けの結界をヴァンパイアたちは魔人のために用意しないからだ。
単純にコストパフォーマンスが悪いのだろう。
あくまでも、魔道具にしても魔物の討伐にしても、ヴァンパイアたちにとって重要なエリアから優先して行われる。
そして、残念なことに魔人の集落と王都を結ぶ道は彼らにとって全くといっていいほど重要ではないのだ。
だからこそ、おれたちは旅の道中で運が悪ければ魔物に襲われてしまうとエドは話しているのだった。
「なるほどな。それで、もしも遭遇したらどうするんだ?」
「魔物に遭遇ですか? いつもなら魔物を避けて遠回りすることで目的地に向かいますね。魔物よりもこの子たちの方が速いですから」
エドは彼の乗る早馬を愛しそうに撫でながらそう語る。
そうだ、おれたちにはジョーたち相棒がいる。
つまり、逃げることは容易であり、いくら魔物に襲われようと命に危険はないのだ。
ただ、遠回りをすることになってしまうため、目的地への到着は遅くなってしまうだろう。
「でも、今日は英雄様が一緒ですからね。もしも運悪く魔物に出会うことがあれば退治してもらいましょうかね」
そう話すエドは軽く笑っていた。
おそらく、冗談のつもりなのだろう。
それか、魔物に出会うことなどかなりのレアケースであり想定していないか……。
そこでおれは宣言する。
「そうか、ならば倒すとしよう」
おれはジョーに合図を送りスピードを緩める。
異変に気づいたエドもおれに合わせてブレーキをかける。
「どうかされましたか、英雄様?」
エドは不思議そうにおれに問いかける。
「そうか、エドは気づかないのか」
おれは一人でボソッとつぶやく。
そういえば、初めてレオンハルトたちと出会った日も彼らは急遽出現した魔力の存在に気づかなかったからな。
おれはお得意の魔力感知で前方からものすごい勢いで接近してくる存在に構えることにする。
そして、奴が近づいてきたことで流石のエドもその巨大な魔力とシルエットに気づいたようだ。
「まさか、火竜ですか……?」
エドは息を呑んでそうつぶやく。
「みたいだな。それもかなりのサイズと見える」
かつて、スペンサーからいただいたメスの火竜の遺体とは比べものにならないほどの巨体におれは感服する。
あの時の3倍はあろうかという生きて動く火竜の存在におれは心を震わせていた。
前世ではこんな怪物みたことがない。
そんな生命の神秘とも呼べる魔物界の頂点と今おれは対峙しているのだった。
「それじゃ、危ないからエドは大人しくしていてくれよな」
おれはエドの周囲に防御魔法を展開して安全を確保する。
これで火竜からの攻撃はもちろん、おれが彼を巻き込んでしまうこともないだろう。
だが、このおれの行動に対してエドは慌てふためいていた。
「そんな! 流石にアレは英雄様でもムリです!! 逃げましょう!!」
「あのサイズの火竜はヴァンパイアロードのクラスでないと相手にできませんよ!!」
エドはそう必死におれへと呼びかけるが、当事者であるおれはそれらを全て無視する。
そして、おれはジョーから降りて戦闘体制に入るのだった。
ヴァンパイアロードならば相手にできるのか。
では、今のおれが苦戦することもないだろう。
エドの言葉を聞いたおれの自信は確信へと変わっていった。
「さて、さっさと火竜を倒して王都へ向かうとするか」
おれは右手に魔力を集め、魔法を一発解き放つのだった——。




