32話 旅立ちの朝に
おれが魔王学園に入学したいと両親に話してから数日が経った頃、2人が突如としておれの受験を認めてくれた。
最初は2人ともあれだけ反対していたこともあって、裏に何かあるのではないかと疑ったおれであったが、どうやら素直におれの夢を応援したいと思ってくれたらしい。
もちろん、彼らに危険が及んでしまう可能性があるのはおれもわかっている。
スペンサーに確認したところ、ヴァンパイアの中には過激な思想を持っている反魔人主義者たちもいるそうだ。
つまり、そいつらに目をつけられれば家族に危険が迫るかもしれないと言うのだ。
一応、レオンハルトとスペンサーが裏で根回しはしてくれるそうだが、それでも魔人であるおれがヴァンパイアたちの学園に乗り込む以上、多少なりの危険は想定されるらしい。
もちろん、おれは命に変えても2人のことは守るつもりだ。
だが、そんな危険を冒してでも魔王学園で魔法を学びたいという思いは変わらないのであった。
そして、遂に入学試験を受けるために王都へと出発する日がやってきた。
◇◇◇
荷造りを終えたおれは玄関の外で待つエドのもとへと向かう。
既にダグラスとレイシアは外に出ており、エドと何かを話していた。
王都までは早馬のジョーに乗って行くのだが、道中の案内は魔人集落の長であるエドがしてくれることになった。
エドはエドで集落から早馬を連れてきているので王都までは二頭の早馬で行く予定だ。
「それではエド、よろしく頼むな」
おれは待たせていたエドにそう告げる。
あご髭が特徴のエドは見た目からもわかる通り、ダグラスやレイシアよりも圧倒的に歳上であった。
しかし、おれは集落の危機を火竜から護ったことになっているし、集落の魔人であるフリンに魔法を教えていることもあり、エドとおれは互いに親しみを持っていた。
だからこそ、歳の差はあれどおれは砕けた口調で彼に話しかけるのであった。
「ハッハッハッ。ワシに任せておきなさい。火竜殺しの英雄様をしっかり王都まで届けるからな」
エドは愉快な表情でそう語る。
王都に行くということは彼にとっても危険なことらしい。
だが、それでもおれを送り届けるという仕事を快く引き受けてくれた。
彼には感謝してもしきれないだろう。
「エドさん、ヴェルデバランのこと任せます。お願いします」
レイシアが改めてエドに頭を下げてお願いをする。
彼女の声と表情からはひしひしと不安が伝わってくる。
おれが夢に向かって突き進むのを応援してくれるわけだが、それでも心配は尽きないのだろう。
母親というのはこういうものなのかもしれないな。
一方、ダグラスはというとおれに一歩ずつ近づいてきた。
そして、おれをまっすぐと真剣な眼差しで見つめて告げるのだった。
「ヴェル、父親であるおれから一つだけ言っておくぞ」
「何だ?」
今さら反対するなんてことはないだろう。
おれは彼の言葉を待つことにした。
「我儘を通すには責任が生じる。自由に自分勝手に生きることはできない」
「あぁ、おれもそう思うよ」
おれはダグラスの意見に同意する。
「お前は今回、無理矢理に我儘を通した。その是非を今さら問うようなことはしない。だが、その我儘によって発生した責任は自分の手で背負う義務がある。もう子どもじゃないんだ、わかるな」
「もちろんだ」
そうだ。
おれの行動によって、迷惑をかけてしまう者たちがいるかもしれない。
その責任はこの手でどうにかするしかないのだ。
「お前が王都へ行けば、多くのヴァンパイアに目をつけられることになるだろう。それも選抜試験が始まれば尚更だ。中にはお前をよく思わないやつも出てくるだろう」
「そして、タチの悪いやつに目をつけられれば、そこにいるエドさんはもちろん、お前の家族である俺とレイシアにもその牙は向けられるだろう」
おれは初めてレオンハルトたちと出会った日を思い出す。
今でこそ対等な関係を気付けている彼らとだって、最初は険悪なもので対立していたのだ。
入学試験を通して出会う初対面のヴァンパイアたちがおれを快く思わないのは容易に想像できる。
「俺は別に構わない。ありがたいことにエドさんもそう言ってくれている」
「ワシだって、それくらいの覚悟があってお前さんを届けるんだ。気にするな」
ダグラスの意見にエドも同意する。
「だがな、レイシアは別だ。お前のせいでレイシアの身に何かあったら、俺はお前を送り出したことを一生後悔するだろう……」
ダグラスは眉間にシワをよせて静かにそう告げる。
「だから2つ約束しろ! 絶対に生きて帰ってくること。そして、何があっても俺と共にレイシアを護ることだ」
ダグラスの言葉からは彼の強い意志を感じた。
おれはその言葉を聞き、心に誓うのだった。
「あぁ、もちろんだとも! ここで死んだら夢は叶えられない。それに、おれにとっても母さんは大事な存在なんだからな」
そして、おれたちは拳を合わせて約束を交わす。
おれの言葉を聞いたダグラスは覚悟を決めたようで、もう顔に不安は一切感じられなかった。
「それじゃ、行ってこい。お前ならできるはずだ。その手で大きな夢を掴んでこい!」
「いってらっしゃい。無事で帰ってきてくださいね、約束ですよ」
ダグラスはおれの背中を叩き、ジョーに乗せてくれる。
そして、レイシアは名残惜しそうにしながらも手を振ってくれた。
「ありがとうな、ダグラス。それに母さん」
おれは2人に一時の別れを告げて旅立ちの準備を終える。
「それでは英雄様、出発するとしましょうか」
おれはエドの言葉に頷くと2人に手を振って駆け出す。
音速で走り出したジョーの背中に乗るおれからは、2人の姿が一瞬にして小さくなっていった。
本当にこれが正しかった選択だったのか、今でもおれはわからない。
ただ、こうすることでしかおれの人生は目的を見失ってしまうことだけは理解していた。
さぁ、待っていろ魔王学園!
ここまでしたんだ、精々おれを満足させてくれよな。
こうして、おれとエドは2人に見送られながら王都を目指すのであった。




