25話 母の直観(2)
「いや、魔法ではないがこれを使えば楽にできるなと思ってな」
おれはポケットから古びた袋を取り出した。
すると、レイシアの視線はこの小袋に引き付けられた。
「それは一体何ですか?」
レイシアはおれの予想外の行動に戸惑いながらそう尋ねるのであった。
「ああ、これはな——」
そして、おれはレイシアにこのアイテムの説明をするのだった。
ちなみに、この古びた小袋についての話はレオンハルトたちと出会った昨日に遡る——。
◇◇◇
「それではこの火竜はおれが倒したことにさせてもらうぞ」
「ええ、私たちも今回の件は公にしたくはありませんからね。有効活用していただけたらと思います」
おれはヴァンパイアであるレオンハルトたちとの戦闘の痕跡を誤魔化すために、火竜の死体を譲り受けることにした。
これはお互いの利害が一致した結果である。
だが、ここで一つ問題が発生する。
この巨大な火竜をどうやって集落まで運ぼうかということだ。
「うむ、大きくて運べんな。よし……」
ここに火竜を置いていくという選択肢もあったが、おれはスペンサーの魔法を思い出して行動に移して見る。
目の前の空間を歪ませて、亜空間を開いたのだ。
そして、そこに火竜の死体を吸い込ませる。
「なっ!? ヴェルデバラン殿は次元魔法まで扱えるのですか……」
スペンサーはおれの魔法を見て驚愕する。
「ん……? ああ、これはさっきお前がやっていたのを見よう見まねでやってみただけだ。上手くいってよかったよ」
「ハハッ……。なんですか、それは……。まったく、貴方という人は……」
スペンサーは呆れた顔をし、渇いた声で笑っていた。
そして、彼は鼠色の袋を取り出すのだった。
「これを渡そうとしましたが不要でございますね……」
「何だ? その小袋は……?」
「こちらは魔道具の一種でございます。これさえあれば、次元魔法を使えない者でも荷物などの収納をすることができます」
「ほお、そんな便利なものがあるか」
なるほどな。
つまり、次元魔法が使えないものでもこの魔道具さえあれば、様々なものの収納ができるというのか。
何と便利なのだろうか。
魔道具については知らないことばかりで驚かされることも多い。
なんせ、前世では関わることはなかったからな。
「次元魔法が使えるのであれば、こちらの魔道具は不要ですからね。ヴェルデバランの力をまだ侮っていたようです。失礼いたしました」
スペンサーはそう言って魔道具をしまおうとする。
おれはそれをすかさず止めるのだった。
「待ってくれ! よければ、それを貰えないだろうか」
おれが次元魔法を使ったとなれば、いずれ問題が出てくるときもあるだろう。
その時に、この魔法の収納袋は役に立つはすだ。
こうして、おれはスペンサーから魔道具をもらうのだった。
◇◇◇
「火竜を倒したときに、これを拾ってな。初めはただの薄汚い小袋だと思ったが、どうやら魔道具だったようでな」
おれはレイシアに魔道具である魔法の収納袋を見せて説明した。
「そう……。それは偶然の幸運ですね……」
彼女は何か言いたそうではあったが、グッと言葉を呑み込んだようであった。
何とかこの場を乗り切ることはできただろう。
だが、レイシアとの信頼関係は多少崩れてしまったかもしれない。
おれはそんな悩みの種を抱えたまま、日々を送ることになるのだった。




