24話 母の直観(1)
「ヴェルデバラン、ちょっといいかしら」
火竜殺しの英雄なんていう恥ずかしい二つ名を付けられた次の日の朝、おれはレイシアに呼び止められる。
「どうかしたか?」
これから地下に行って魔法の訓練をしようと思っていたのに、一体どうしたのだろうな。
すると、彼女は少し心配した様子で語り出す。
「ダグラスが体調を悪くしてしまったようで寝込んでいるのです。ですので、今日は私と一緒にジョーの餌やりをしましょう」
なるほどな。
そういうことかと、おれはレイシアの用件に納得する。
早馬のジョーの餌やりはダグラスとおれの日課である。
しかし、ダグラスは体調を崩して寝込んでしまっているらしい。
そこで代わりにレイシアがやろうという流れなのだろう。
だが、馬の餌やりくらいおれ一人で十分だ。
おれはそれを彼女に伝えることにする。
「そういうことか、ならば今日はおれが一人でやろう。母さんは家でゆっくりしてていいぞ。ダグラスの看病でもしてやっててくれ」
ダグラスもレイシアに付いててもらえば安心だろう。
しかし、レイシアは予想外の返答をする。
「気持ちはありがたいですが、たまには外に出ようと思いましてね。ですので、私にも働かせてください」
レイシアが家の外に出るというのは本当に珍しいことだ。
それこそ、数回しか記憶にないほどにレイシアは家から出たがらない。
そんな彼女が庭に出ようと言うのだ。
おれは驚きつつもレイシアの主張を否定しないようするのだった。
「わかった。でも、無茶はするなよ」
こうして、おれたちは庭の馬小屋へと向かい、ジョーに干し草を与えるのであった——。
◇◇◇
そして、おれはレイシアと干し草を専用の倉庫から馬小屋へと運び、ジョーに与える。
途中、非力なレイシアは干し草を持ちながらグラグラとして倒れてしまいそうになる場面もあったが、おれが支えてあげることで事なきを得た。
そして、二人でジョーの食事の様子を眺めるのだった——。
「こうして見ると、結構な量を食べるんですね」
レイシアはモシャモシャと干し草を口に入れ込むジョーの様子を見てそうつぶやく。
確かに、量にすればジョーは自分の体と同じくらいの体積の干し草を食べている気がする。
本当にこの世界の動物は無茶苦茶なやつが多いぜ。
「だから、馬小屋まで毎日これを運ぶ必要があるんだな」
これはドンドンと口に吸い込まれていく干し草を眺めてそうつぶやいた。
刈った干し草はダグラスが作ったエサ専用の倉庫に閉まってある。
ダグラスの話では野生の動物に食べられないようにこうしているそうだ。
すると、ひと仕事を終えたレイシアがぼそっとつぶやく。
「本当、大変ですね……。収納できる魔法なんかがあればいいんですけどね」
レイシアは倒れそうになりながら働いてたからな。
思わずそんな願望を持ったのだろう。
おや、待てよ……。
魔法ならあるじゃないか。
火竜を亜空間にしまったあれが——。
「ああ、それなら……」
おれはここまで口に出しかけて止める。
いや、あの魔法をレイシアに伝えるのはどうなのだろうか。
レオンハルトたちと出会ったことを説明するハメになるんじゃ……。
そんなことを悩んでいると、レイシアはおれに声をかけてくる。
「おや、ヴェルデバラン。もしかして、そんな便利な魔法が使えたりするんですか……?」
レイシアは今、何気ない疑問を尋ねているかのように思えるがおれにはわかる。
彼女は見透かしているのだろう。
おれが亜空間を生成する次元魔法を使えるということを……。
さて、それでは大人しく例のアレを使うとするか。
おれは右手をそっとズボンのポケットに忍ばせるのであった。




