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魔王伝 - 不滅の魔人 -  作者: 竹取GG
第一章
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23話 感謝の気持ち(2)

  英雄として崇められる形になってしまったおれだが、ダグラスの働きかけでなんとか騒ぎを抑えて実家に帰ってくることができた。

  二人で早馬のジョーを馬小屋に連れて行き、食糧を下ろして家に入る。


  「ただいま戻ったぞ! 麗しきレイシア姫よ」


  「ふふっ、ダグラスったら。いつもありがとう」


  ダグラスは家に入るなり、レイシアに愛の言葉をささやく。

  初めは聞いているこちらの方が恥ずかしくなっていたが、今ではおれも慣れてきて普通に聞き流すようになっていた。


  「無事に戻ったぞ、母さん」


  おれはダグラスのように言葉で愛情を表現することはなかったが、それでもしっかりとレイシアの瞳を見つめて語りかける。

  まだ10歳になったばかりのおれを外の世界に連れ出すということについて、レイシアはかなり心配していたようだからな。


  すると、彼女は帰ってきたおれを見るなりそっと近寄ってきて、おれの肩や胸の周りを触り出す。

  そして、嬉しそうにしながらいつものように優しく語りかけてくるのだった。


  「あら、何だかちょっとたくましくなった気がしますよ。きっと、親バカの思い違いなのでしょうけどね……」


  筋肉が付いたとか、背が伸びたとか、そんなことを彼女は考えているのだろうか。

  この様子を見ていたダグラスはこの展開を待っていましたと言わんばかりに声をかける。


  「そんなことないぞ、レイシア! 今のヴェルは朝とひと味違うからな」


  「やめてくれよ、恥ずかしいじゃないか」


  自信満々に語り出すダグラス。

  この後の展開を容易に予測できたおれは必死に彼を止めようとする。

  しかし、レイシアの好奇心に火がついたようで、彼女の関心はおれに向けられるのだった。


  「あら、何かあったんですか……?」


  「ヴェルのやつ、英雄になっちまたんだぜ!」


  「おい、ダグラス! やめてくれよ」


  おれは心底そう思う。

  だが、今のダグラスは止まることを知らない。

  今の彼は悪巧みをしているやつの顔をしているのだった。


  「ふっ、いつもの仕返しだ」


  「色々あったのですね。よければ、私にも話を聞かせてくれませんか?」


  おれの顔をまじまじと見つめて興味津々に尋ねてくるレイシア。

  こうされてしまっては断りづらいではないか……。


  「ああ、わかったよ」


  仕方なく、おれはレイシアの頼みを聞き入れることにする。

  やってもいない火竜の討伐劇について話すのは今日これで何回目だろうか……。


  まあ、そもそも語り継がれる伝説なんていうのはどれだけが真実なのかなんてわからないものが多い。

  嘘をつくのは気が引けるが今回の件はそういうモノなのだと割り切ることにしよう。


  だが、それでもレイシアが安心したり、喜んだりしてくれるというのなら我慢しようではないか。

  こうして、おれは火竜殺しの英雄伝説をレイシアに語るのだった——。




  ◇◇◇




  「そういうわけで、火竜を持って帰ってきたら村で英雄扱いされてしまったというわけだ」


  おれは順を追って英雄と呼ばれるハメになった経緯をレイシアに説明する。

  話の間、彼女は静かに頷きながら耳を傾けてくれた。

  そして、話が終わるとおれのエピソードに対して笑ってくれた。


  「あらあら、まさかそんなことがあったなんてね……。でもまあ、あなたならやりかねないわね」


  レイシアはクスクスと笑ってそう話す。


  「でもね、私はあなたが火竜を倒して魔人の英雄となったことよりも、無事に生きて帰ってきてくれたことが何よりも嬉しいです」


  聖母のような温かい微笑みで彼女はそう語る。

  その姿を見たおれは、改めてこの人の子どもとして生まれることができてよかったと思うのだった。


  「それもこれも、母さんがおれに魔法を教えてくれたおかげだ。魔法が使えなければ火竜は倒せなかったからな」


  おれは照れながらレイシアに対してそう話す。


  これに関してはあながち嘘ではなく、本当のことだろう。

  もしも、レイシアがおれに魔法を教えてくれなかったら無事に帰ってくることはできなかっただろうからな。


  すると、彼女はおれの言葉を受けて嬉しそうにするのだった。

  おそらく、自分が教えた魔法のおかげで息子が命を落とさずに済んだというのは、彼女に取っても大変喜ばしいことなのだろう。


  「お母さんの言った通りになったでしょう。魔法は便利なモノですし、あなたの身を護ってくれる武器になるんですから」


  「ああ、本当にそうだな。母さんの言う通りだったよ」


  そして、レイシアに報告を終えたおれは一人になるために自室へと戻ることにする。


  「だいぶ疲れたからおれは自分の部屋で休んでいるよ……」


  「ええ、ゆっくり休んでください。食事の時になったら呼びに行きますからね」


  特に呼び止められることもなかったため、おれは机から立ち上がり自室へと歩き出す。

  まあ、火竜の討伐して疲れていると言う10歳の息子を呼び止めるような親たちではないからな。


  こうして、おれはダグラスとレイシアを置いて自分の部屋へと向かうのだった——。




  ◇◇◇




  《レイシア視点》


  ヴェルデバランがいなくなったリビングでは、その後もレイシアとダグラスで今日のことを話し合っていた。

  そして、レイシアはヴェルデバランの話に疑問を持つのであった。


  「あの子……何か隠しているわ。もしかすると、ヴァンパイアに会ったんじゃないかしら……」


  「何だって……?」


  レイシアの発言にダグラスは思わず大声を漏らしてしまう。

  そんな彼に対して、レイシアは人差し指を口元に当てて、静かにするように促す。


  そして、ダグラスはそんな彼女の意図に気づいて静かに頷いた。

  それを確認した彼女は再び話を始める。


  「だって、私は次元魔法なんて教えていないのよ……。じゃあ、あの子は一体誰から亜空間を創る魔法を教わったの……?」


  ヴェルデバランは詳しく話していなかったが、ダグラスが村長のエドから聞いた話では、火竜を何もない空間から取り出したと言っていたそうだ。

  レイシアにはそれを可能とする次元魔法は使えないため、ヴェルデバランに教えるということはしていない。

  だとすれば、ヴェルデバランは一体誰から次元魔法を教わったというのだろうか……。


  「次元魔法を使える魔人なんてあの集落にはいないのよ。だとすれば、あの子は次元魔法が使えるほどの人物と出会って、魔法を真似して覚えたということになるのよ」


  レイシアはよく知っている。

  自分たちの息子がどれだけすごい魔法使いなのかということを——。

  それこそ、未知の魔法でも一度目にするだけで完全再現できるという超人離れした能力があるということを——。


  レイシアは確信しているのだ。

  ヴェルデバランは何かを隠していると。

  そして、それは次元魔法を使える魔人を超越した存在と出会ったのではないかということを——。


  「この辺りで次元魔法が使える優等種族なんて、ヴァンパイア以外に考えられない……。ダグラス、ヴェルデバランのことをよく見ておかないと大変なことになるわよ……」


  レイシアはヴェルデバランが無事に帰ってきて安心するとともに、先の見えない未知の恐怖に襲われることになるのであった——。

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