21話 火竜殺しの英雄
だいぶ服が汚れてしまったな。
いつも整えて綺麗にしてくれているレイシアに申し訳ない。
おれは歩いて集落に戻る中、そんなことを考えていた。
帰ってから話すストーリーについてはバッチリだ。
おれは次のような流れで話すつもりでいる。
まず初めに、おれは鋭い魔力感知で危険を感じた。
それから魔力の発生源に向かうと巨大な火竜がおり、襲ってきたので魔法を使って戦うことにした。
そして、死闘を繰り広げた末におれは火竜を討伐することに成功したのだった——。
うむ。
自分でも思うが悪くない流れだと思う。
この話を疑う者もいまい。
そして、自信に満ち溢れたおれは堂々とした振る舞いで集落へと戻ってきた。
すると、数百メートルほど先に人だかりができており、ひとまずおれはそこを目指して突き進むのだった。
魔人の群衆に近づくと、皆帰ってきたおれに気づいたようで騒ぎが起きる。
その中には、おれにも見覚えのある人物もいたのだった。
「ヴェルくん……!? よかった、戻ってきた〜」
アルバート夫妻の息子フリンがおれのもとへ駆け寄ってくる。
フリンの顔は涙でグチャグチャになっていた。
出会ったばかりの関係ではあるが相当心配をかけしまったようだ。
そう言えば、フリンとの会話中におれはいなくなったんだったな。
それは心配にもなるか。
すると、フリンの他にも魔人の大人たちが寄ってきておれの安否を確認する。
「おぉ、小僧! 無事だったか」
「まったく、どこをほっつき歩いてたんだよ。こんな時に危ねえったらありゃしないのによ」
それ言えば、レオンハルトたちの所に向かう途中に何人もの魔人とすれ違った気がするな。
彼らにも心配をかけてしまったようだ。
だが、見たところ会ったこともない魔人たちもまたおれを気にかけてくれている。
おそらく、フリンたちが呼びかけてくれたのだろう。
おれは今日出会ったばかりのよそ者にも関わらず、同じ魔人というだけでここまで心配してくれているのか。
何だか温かい人たちだな……。
そんなことを嬉しく思いながら、おれはフリンたちに心配をかけてしまったことを謝罪する。
「悪い、心配をかけたな」
「ほんとだよ……! もしなにかあったら、ダグラスさんになんて言っていいのか……」
フリンは瞳のうるうるとさせながら、おれを袖を強く握りしめていた。
おれはそんなフリンの手を優しく握りしめてやるのだった。
「それより小僧、どこに行ってたのさ?」
一人のおっさんがおれに尋ねてくる。
少しあご髭が伸びていてダラシないところもあるが、身につけている服装や装飾が他の魔人たちよりも良い材質のものを身に纏っていた。
もしかすると、彼がこの集落の長なのかもしれない。
おれは事前に考えていたストーリーを話すことにする。
「ああ、ちょっと火竜が出たんで倒してきた」
おれはあたかもそれが当然であるかような口調で語る。
「えっ……?」
「なんだって……?」
この発言に周囲の者たちは理解が追いつかず問い返してくるのだった。
そこでおれはスペンサーがやっていたように目の前の空間を歪ませ、収納しておいた亜空間から火竜を取り出した。
ドスンッ!!
——と音を立てて、おれたちの目の前に火竜が横たわる。
これには集まった群衆たちは驚きの叫び声をあげるのだった。
「「「ええぇぇぇぇーーーー!?!?!?」」」
実物の火竜を見て腰を抜かす者、驚きの声をあげて顎が外れる者、小さい子どもの中には恐怖で泣き出してしまう者までいた。
まさに混沌な状況が生まれていたのだった——。
そして、震えた声でようやく質問してくる者が現れた。
「おっ、お前! かっ、火竜を倒したって……」
脳の思考回路に口が追いついていないのだろうか。
籠ったような話し方で彼は尋ねてきた。
それに対して、おれは冷静に答える。
「ああ、魔法を使ってな。少しばかり苦戦してしまったがな」
おれは両手に真っ赤な炎を出して見せる。
特に何の変哲もない火球だ。
だが、この魔法を披露した途端、今度は歓声があがるのだった。
「「おぉーー!!」」
まるで手品でも見せられているかのような反応をする者たちにおれの方が驚かされてしまう。
「小僧! お前、魔法が使えるのかっ!?」
「ヴェルくん、すごいよ!!」
おれは村人たちとの熱量のギャップに置いていかれてしまっていた。
こんなの魔法の中でも基礎の基礎だぞ?
これがそんなにすごいのか……?
「これくらい普通じゃないのか? ヴァンパイアの魔法はもっと……」
「えっ!? ヴァンパイアが魔法を使うところを見たことあるの?」
おっと、口が滑ってしまったか。
おれは慌てて誤魔化すことにする。
「いや、ヴァンパイアの魔法はもっとすごいと聞いているからな。魔人のおれがこれくらいできても普通かと思ってな」
必死に弁明して訂正するおれを見て、先程のあご髭のおっさんが周りの者たちに説明し始める。
「確かに、ヴァンパイアと比べてしまえば小僧の魔法なんて大したことない。それこそ、猫と獅子ほど違うだろう」
ほら、おっさんの言う通りだ。
ここの連中はみんな騒ぎ過ぎではないか……?
おれはそんなことを思ってしまう。
しかし、おっさんは説明はここで終わらずもう少し続くのであった。
「ただ、その年で魔法が使えるっていうのは魔人の中では優秀過ぎることだ。それは小僧も自覚しておいた方がいい」
おれを真っ直ぐに見つめ、偉そうにおっさんはそう言ってくる。
そういえば、レイシアもおれのことをすこぐ優秀だと何度も説明してくれていたな。
自覚はないが、こうして世間の常識を教えてくれる者の存在はありがたいものだ。
おれはそう再確認するのだった。
「そうか、覚えておこう。ありがとうな」
おれの言葉におっさんも嬉しそうに頷く。
「あぁ、いいって事よ! それより、どうやって火竜を倒したんだ? そんなちっこい炎を当てただけじゃ火竜には勝てないだろう。どんな運がお前の見方をしてくれたんだよ」
おっさんは興味津々でそうおれに尋ねてきた。
そうだよな……。
このおっさんが言う通りだ。
先ほどおれが見せた程度の火球で火竜を倒したと言ってしまえば説得力に欠けることだろう。
何とか、このバカでかい火竜を倒したとみんなが納得してくれるだけの威力の魔法を見せないとだよな……。
「ああ、今から説明するよ。少し離れてくれ」
おれは近くの者たちにそう呼びかけて距離を取る。
この場にいる者たちに話を信じてもらうため、とある魔法を披露することにしたのだった。
そうして、おれは火砲を発動する——。
おれの頭上には巨大な炎の球体が出現する。
直径10メートルを優に超える火の玉は真っ赤に燃え上がり、猛熱を発するのだった——。
そして、おれはこの火砲をコントロールして人気のない山に向かって解き放つ。
ドォォォォーーーーッッンンンン!!!!!
すると、大きな音と衝撃波が伝わってきたかと思うと、着弾した場所には大きな火柱が真っ直ぐに立ち勢いよく燃え上がるのだった——。
「「「……」」」
先程まで騒いでいた者たちは、火砲を目の当たりにすると一斉に固まり、黙り込んでしまった。
もしかして、まだこれでは火竜は倒せないと思われているのか……?
そこでおれは慌てながら続けて説明する。
「今のをぶつけて倒したんだ。一度じゃ仕留められなかったから、何度も撃ち込んだ。そしたら、動かなくなったんだ」
これくらい説明すれば十分だろう。
いくら火竜とはいえ、火砲を何発も喰らえばくたばることだろう。
ちなみに、火砲を使ったのは今が初めてだったが、特に問題なく発動させることができた。
まあ、レオンハルトが使うのを二度も間近で見たからな。
あれだけ分析する時間と材料があれば、おれには十分模倣できるのだ。
そして、しばらく沈黙が続いたがようやく静寂が破られる。
「すごい……」
初めに言葉を発したのはあご髭のおっさんだった。
そして——。
「ダグラスの息子が我々の村を救ってくれたぞーー!! 今宵は宴だぁぁああああ」
「「「オオォォォォォォーーーー!!!!!」」」
周りの者たちもあご髭のおっさんに続く。
「火竜殺しの英雄の誕生だぁぁああ!!」
「「「バンザァァーーーーッッイ!!!!!」」」
「「「バンザァァーーーーッッイ!!!!!」」」
んんっ……!?
なんだか、おれの想像とは別の方へと話は進んでいくのだった。




