表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/26

7話

 

「あーあ、なんで避けちゃうかなあ」

「!?」

「まあいいや、この状況に持ち込めただけで!」


 佐藤は心底憎たらしそうに言うと、片手剣を振りかぶりながら俺へとその刃を当然のように振り下ろす。

 やばいと思った時には既に体が回避行動をとろうとしていたが、脇腹が痛みいつものように動けない。


 加えて背後には狼モドキが控えている。

 混乱に乗じて何処かへ逃げてくれないかという淡い希望を抱いていたが、狼モドキはしっかりと武器を手に取り、その目は相互理解が不可能な事を意味していた。


 挟み撃ちの形になっていた事に気づく。

 佐藤の狙いは、これなのか……?

 本当に、俺を殺そうとして––––


「グルアアアアッ!」


 思考はそこで中断される。

 狼モドキが手斧を振り回し始めたからだ。

 俺は咄嗟に大きく横へ飛ぶ。


 狼モドキの攻撃は空振りに終わるが、佐藤はそれを先読みしていたのか、スムーズに剣の軌道を変える。

 そして剣技の構えをとった。


「佐藤っ、やめろ!」

「はあ? この状況で何言ってんだ、お前」


 彼はつまらなそうに言うと、片手剣を前へと突き出しそのまま突きの剣技を使用した。

 片手剣技『ロックオンストライク』。


 矢のように放たれた剣の切っ先を、俺は同じようにロックオンストライクを使い相殺した。

 剣技は同じ剣技で相殺できる。


 ……が、俺のロックオンストライクは不安的な形で使った為か、思うように力が入らず弾かれてしまう。

 そもそも『剣技が相殺できる』こと自体、ケイオス・シーカーのゲームシステムの話だった。

 現実で同じ事をしたところで、力の強い方が勝つ。


「死ね! 高橋!」

「ぐっ……!」


 佐藤の剣が俺の左肩を突き刺す。

 かろうじて貫通する事は避けたが、激しい痛みが左肩を起点に全身を駆け巡る。

 もう剣を両手で持つ事は難しそうだ。


「あ、ぐ……さ、とう……!」

「グルアアアアッ!」

「ほらほら、ボサッとしてるとモンスターに食われるぞ? 牛山みたいになあっ!」


 狼モドキは何故か俺ばかりを狙う。

 ああ、俺の方が弱っているからか。

 納得してから迎撃する。


「……おおっ!」


 気合い一戦。

 狼モドキの腹の傷口へ向けて『クイックスラッシュ』を放ち、腹部を水平に斬りつけた。

 血液が舞い、続けて『ビクトリー』を使う。

 Vの字に斬られた狼モドキは、遂に倒れた。


「はあっ、はあっ……!」

「あそこから逆転なんて、流石アクセルナイトだ」

「佐藤……!」


 彼を睨む。

 当の本人は薄ら笑いを浮かべていた。


「どうしてこんな事……何が目的だ!」

「そりゃお前、俺はお前を殺したいんだよ」

「だから、なんで!」


 俺を殺す?

 そこに一体なんのメリットがある。

 それに元の世界でも恨みを買った記憶もない。


 ロクに会話した事も無いのだから。

 だが佐藤は顔を忌々しそうに歪める。

 そこには本物の憎悪と、殺意が宿っていた。


「俺さ、ダブル主人公ものって、嫌いなんだよね」

「……は?」

「主人公は俺一人でいい……邪魔なんだよ、お前」


 佐藤は『クロスラッシュ』を放った。

 左斜め上から凶刃が迫り来る。

 俺は『クイックスラッシュ』で迎え撃つ。


 剣技の速度はクイックスラッシュの方が上。

 クロスラッシュの初撃を弾き飛ばし、そのまま佐藤へ近づいて胸ぐらを掴み、近くの木へ投げ飛ばした。


「がはっ!? な、何すんだテメエッ!」

「こっちのセリフだ! 何を考えてるんだ……いや、本当はもう殆ど分かってる」


 けど、認めたくない。

 震える右手を押さえつける。

 佐藤との戦いは、もう殺し合いに発展していた。


「へえ? じゃあ言ってみろよ」


 佐藤はすっかり態度を豹変させている。

 そうでなくとも、俺に剣を向けてきた。

 重い口を開けながら、絞るように言う。


「……お前は、俺がケイオス・シーカーの剣技を使って戦ったのを見て、自分にも出来るんじゃないかと考え、そしてそれは事実だった。次にお前はこうも考えた––––俺を消せば、クラスの中で唯一まともに戦える存在として、ヒーローになれる、って」

「はは! その通りだ!」

「っ……」


 そんな返事、聞きたくなかった。

 友達になれるかもと思っていたのに。

 佐藤は最初から俺を殺すつもりだった。


 自分の欲望を満たす為だけに。


「俺はヒーローになろうとなんて思ってない! そんな事をしなくても、お前が皆んなを引っ張りたいって思うなら、俺は」

「ああ? そんなの信用できるワケねえだろが!」


 佐藤が上段から剣を振り下ろす。

 合わせて俺も剣を横に振るう。

 二本の片手剣がぶつかり、金属音が鳴った。


異世界ここに来るまで殆ど話した事もねえくせに、なに友達面してんだお前? そんな奴を信用する? はっ、寝言は寝て言え、今すぐ永眠させてやるからよお!」


 佐藤の猛攻は続く。

 右、上、斜め、横。

 立て続けに繰り出される剣技を、俺は避けたり剣で弾いたりしながら受け流す。


 その度に傷がズキリと痛む。

 ポタポタと流れた血が、地面を濡らした。

 だが肉体の痛みよりも心の傷の方が……痛い。


 そうだ、俺は今までずっと自分の殻に閉じこもり、クラスメイトの誰ともロクなコミュニケーションを取ろうとさえしなかった。


 だからこそ佐藤とは友達になれるかもと思ったのに、彼は言った……殆ど接点のなかった俺を信用する事など出来ない、と。


 異世界だから変われる。

 そんな都合の良いシナリオは用意されてなかった。

 結局は続いている、元の世界も異世界も。

 俺という個人が変わらなければ、周りの環境がどんなに変化しても意味は無い。


 認めたくなかった現実に、打ち負かされた。

 そんな事を考えている間にも、佐藤は俺の命を奪おうと本気で襲って来る。


 何もかもがぐちゃぐちゃだ。

 あやふやで目眩がする。

 今すぐ泣き叫んで、全てを忘れたい。


 或いは佐藤の刃を受け入れれば、楽になれる。

 生きる事がひどく辛い事のように思えてきた。


 ––––いつの間にか、体のあらゆる箇所に擦り傷をつけられ満身創痍にさせられている。

 荒い呼吸をしながら立つ。


 もう、体を動かすのも億劫だ。

 そんな体力も残っていない。

 結末は直ぐそこまで迫っていた。


 佐藤は剣を両手で持ち、真上に構える。


「は、あのアクセルナイトが相手だからって色々タイミングを見計らったが、この程度かよ。何がプロだ、俺の方が百倍上手いぜ」


 そのまま垂直に振り下ろした。

 両手剣技『パワースラッシュ』。

 純粋な破壊力だけを求めた技。


 負傷した左肩もあり、今の俺では受け切れない。


「これで終わりだ! じゃあな高橋!」





 

 ああ……俺は死ぬのか。

 なんて呆気ない最期だ。

 それとも人生の終わりなんて、こんなものなのか?


 じいちゃんは何を考えて逝ったんだろう。

 そうか、じいちゃんに会えるかもしれない。

 それは少し嬉しいな。


 何せ話すことが沢山ある。

 じいちゃんが死んでから、何度も迷ったけどゲームを続けて……世界で一番になった時のことは勿論、他の大会でも優勝した事を話して、それから、それから––––


 今までの出来事が雨となって降り、雫一つ一つに俺の人生の一幕が映し出されていた。

 それをぼんやりと眺めている。


 諦めた筈なのに。

 不思議と体は熱を帯びていた。

 まるで、まだ死に切れないとばかりに。


「……」


 現実世界の俺は、そろそろ死んだか?

 もしまだなら。

 まだ、生きる道が残っているなら。


 ––––抗え。


 敵に、理不尽に、弱い自分自身に……抗え!






「死ねえええええええっ!」

「っ!」


 カッと目を見開く。

 弱気な自分は既に消えた。

 佐藤の剣に対し俺は避けないし受け止めもしない。


 これまでの経験と勘を総動員し、佐藤の剣の切っ先が体に触れるより前に……こちらの剣を当て、滑らすように受け流してそのまま攻撃に転じる。


 俺はギリギリで刃には当たらず、逆に佐藤が胸のあたりを斬られ大きく仰け反った。

 カウンターを受けた佐藤は驚愕に顔色を染めたが、数秒後には苦悶の表情へと変わった。


「ぎいいあああああああっ! あ、ああああっ!? き、斬られた斬られた斬られたああああ! ああ、血が、血が……! あ、ああああああっ!?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ