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202 第15話01:トレジャーハンター




 トゥケイオスの街は神代の昔から栄えてきたなどと言われる程に歴史深い街だ。

 古都ソーディアンに戦神が巨大な剣を大地に突き刺して都市を形成する前から、都市と都市を繋ぐ交通の要所、宿場町として栄えてきた。なんと数千年前に滅びた古王国の首都だったとする説もある。


 それ故、街の各所、周辺には多くの遺跡が無数に存在し、中には未発見、手つかずの状態のものも少なからずある。多すぎて、研究者の手が回らないからだ。

 そもそもそういった過去の遺物、遺産、遺跡の中にあってもモンスターは出現する。しかも骨の化け物スケルトン系などに代表される、所謂アンデッドモンスターだ。

 なので、遺跡を調査するにもある程度強さは必須なのである。さもなければ襲い掛かる魔物の仲間入りとなってしまう。


 しかも、このアンデッド系モンスターは非常に厄介で、且つ実入りが少ない。素材が人骨などの人間種系統の遺体から構成されているため、取引の対象とはならないからだ。依って、トロールなどと同じく魔石ぐらいしか価値が無い上に、それを奪わなければずっと蠢き続ける。おまけに光に集まる習性があり、大抵の遺跡は暗闇に包まれていて、少なくともヒト族の眼では見通せない為、法器やカンテラなど光源がどうしても必要であるのだが、そうなればその遺跡内全てのアンデッドモンスターを相手にせねばならない。


 以上のように、遺跡探査は非常に費用対効果が低いのだ。無論、太古の貴重な宝を発見する可能性もあるだろうが、現在は優れた法器がエルフの里により巷に出回っている。その性能を凌駕し、尚且つ再現不可能な代物など、おいそれと発見できるものではない。それこそ天文学的確率を超えた強運が必要だ。


 なので、マトモな冒険者はまず遺跡に踏み入らないし、護衛の任務も簡単には首を縦には振らない。

 請けるとしても相当な金品と引き換えだ。

 遺跡調査が遅々として進まないのはこういった理由があった。


 しかし、それでも尚、歴史の謎と浪漫に心惹かれ、夢に挑み続け人生を捧げる人物はどの時代、どの世界にもいるものなのだ。



 デュランはこの街の歴史ガイド、並びに遺跡調査探索人。所謂『トレジャーハンター』だ。


 トレジャーハンターは儲からない職種筆頭である。夢追い人などと呼ばれ、時に蔑まれることすらある。

 それは比較的他の街に比べて同業者の多いトゥケイオスの街であっても何ら変わりはない。


 デュランは元々歴史学者として、そして研究者としても若くして名を馳せた人物であった。幾つかの学校、学園から講師として誘いを受け、実際に数年間働いたこともある。

 だが、彼は他者を教えることにそれほど興味を持てなかった。無論、意義は分かる。正しく歴史を知ることは大切だし、将来、自分のように歴史浪漫というものに情熱を傾ける人物を醸成出来るかもしれない。

 教職を続けながら研究を行うことも多少は出来た。しかし、それはあくまでも机の上で紙に向かっての作業がメインだ。

 彼は考察で新たな理論を導き出したいのではない。自分の手で、そして目で、歴史の謎に挑み、浪漫を浪漫で終わらせること無く解明したかったのだ。


 茨の道であることは元々承知の上だった。だが、ここまでの険しき道とは、正直想定を上回っていた。

 講師時代に稼いだ資金は早々に底をついてしまった。

 デュランは元来、荒事の得意な性分ではない。冒険者ギルドの学校にも通い、その真似事などもしてみたが、上がったレベルは18までしかなかった。

 この程度のレベルで、未探索の遺跡を調査するなど自殺行為でしかない。人を雇おうにも金がかかる。善意で協力してくれる人間も現れない。日雇いの仕事では稼げる額にも限度があった。


 このままでは、デュランは無為に日々を重ね、夢破れた人間として老齢に達するか、どこかで自暴自棄を起こして遺跡内で野垂れ死ぬか、その二択しかないように思えた。


 彼女と出会うまでは。

 名前はメグライア。


 この国は、大抵の街であれば国や領主が設立した教育機関、学校や学園が存在する。初代国王ハルフォード1世の時代から、この国は教育を第一の柱としてきた背景がある。その一環だ。

 しかもトゥケイオスの街は小さいながらも領都である。

 こういう場所には周辺の貴族の息女たちが通う女学校が領主によって用意されるものだが、デュランはそこの特別講義を依頼されたことがあった。


 糊口を凌げればと一度だけ引き受けたデュランだったが、そこで思わぬ幸運に恵まれる。

 メグライアとの出会いだった。


 彼女は稀有な女性であった。

 デュランの歴史話を、飽きもせず何時間でも聴いてくれるのである。それだけではない。歴史深いトゥケイオスの街で生まれ育った所為か、歴史に対する造詣も深く、なんとデュランと歴史的談義に花を咲かす程の博識だったのだ。


 デュランはこんな女性に出会ったことが無かった。

 彼がメグライアとの関係にのめり込むのは当然の流れであったのかもしれない。


 一方のメグライアもそんなデュランを当初から憎からず想っていた。

 同じタイプの人間として二人が男女の関係へと発展したのは必然と言えた。

 デュランから交際を申し込まれたその日、彼女はある提案をする。


 それは、この宿場町トゥケイオスを歴史深い街として更に発展させたいというものだった。

 長き時を積み重ねた都市はこのモーデル王国にはいくらでもある。特に古都ソーディアンは有名だ。

 しかしながら、積み重ねた歴史の重みであれば、このトゥケイオスは負けてはいない。

 それどころか勝っているかもしれないのだ。トゥケイオスには、伝え聞く遥か昔に存在したという古王国の首都であったという逸話が幾つも残っている。証明が出来ていないだけなのだ。


 メグライアは、それを証明して欲しいと言った。


 デュランにとっては望むところであった。

 愛しい想い人の願いでもあるし、何よりデュランの夢への第一歩になる。

 証明することが出来て名声を得れば、沢山の出資者を募ることも可能なのだ。そうして潤沢な資金を得て、更なる歴史が綴りし刻の中に埋没した謎に挑めるようになる。


 デュランが二つ返事でメグライアの提案を受け入れたことで、二人は恋人同士という関係だけでなく、同じ目的を共有し合う同志という間柄にもなった。

 言わば、公私ともに支え合う関係となったのである。


 メグライアの家は貴族なのはデュランも知っていたが、それだってピンキリだ。中には庶民と変わらぬ慎ましい暮らしを送る家も少なくない。

 デュランは、メグライアの質素で素朴な服装と飾らない言動、時折逞しささえ垣間見える性格から、実はそういった手合いの貴族だと想像していたのだが、どうやら彼女の家は資産家というか、非常に裕福な家柄だったらしい。

 デュランの活動に、結構な額の資金援助をして貰えることになったのだ。


 こうしてデュランは夢への第一歩へと踏み出すことに成功したのだ。1年ほど前から、既にいくつか実績も挙げ始めてきていた。


 彼女は幸運の女神。


 デュランは本気でそう思っていた。

 だが、いつまでも彼女の好意の上に胡坐をかいたままでは、男も廃るというものだ。せめて経済的にぐらいは、彼女に心配をかけないほどに自立しなければならない。


 それには実績が必要だった。周囲を納得させるぐらいに大きなモノが。


 平民出身であるデュランがメグライアと添い遂げるにはそれしかない。


 そんな時だ。デュランの元に第一王子の使いを名乗る来客の知らせが舞い込んできたのは。

 馴染みの酒場の店主からその話を聞いた時、デュランは、自分にも漸く運が向いてきたと悟った。


 季節は、夏の暑さをそろそろ身体が忘れかけるであろう秋の最中。

 ハーク達一行がトゥケイオスの街に入る、前日のことであった。


 彼らは名を其々、クロウ=フジメイキとグレイヴン=ブッホと名乗った。





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― 新着の感想 ―
[良い点] うわ~、これアカンやつやw [一言] 200話越えおめでとう御座います 思えば遠くに来ていたね
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