表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/554

115 第10話04:交ざり合う友と書いて




 古都での日々が始まって一週間、ロンの学園生活は順風満帆と言えるものだった。


 初日こそいきなり道理を全く無視した人物が引き起こしたトラブルに巻き込まれる、いや、我から進んで関わることにはなってしまったが、お蔭でとある人物と知己になる機会を得た。


 トラブルを引き起こした人物、シュバルはギルド寄宿学校入学初日にしてギルド長の拳骨を貰い、保護者の呼び出しを受けるという同寄宿学校の長き歴史の中に於いてもとびきりの不名誉極まりない伝説を作ることとなった。

 因みに呼び出しを受けた保護者たるシュバルの両親、つまりはこの街の前領主たる夫妻は同市内に在住にもかかわらず多忙を理由に呼び出しを拒否。代わりに教育係の執事を寄越したという。

 更には問題を引き起こした元凶たるシュバル自身も、配下の者達が勝手に引き起こした事件だなどと当初全く反省する様子を見せず、前述の行為と相まって怒り心頭に達したギルド長に、再度の問題をシュバルが引き起こしたならば問答無用で彼を退学にすることを決定されたらしい。

 これにはシュバルも泡を食ってそれまでずっと平謝りであった教育係の中年の執事と共に反省の弁を述べ出したのだが、時すでに遅く、彼は最早極薄の首の皮が一枚残されたのみということになった。


 おかげで今は実に大人しくしている。彼の言う『亜人なる卑賎な身』にも『木端貴族の、当主や長男ではない』ロンに対しても因縁を吹っ掛けることなく、授業では『愚か』となじった非常勤講師の言葉にも、たまに反抗的な眼差しを向けることもあるらしいが、表面上は唯々諾々と従っているという。


「何がそれ程までにかの馬鹿貴族息子を恐れさすのであろうか?」


 そしてロンはというと、トラブルの大元であるシュバルに絡まれていた相手と魔法科一つだけとはいえ同じクラスとなり、こうしてよく話をし、遂には昼食も共にさせて貰う仲になった。今も悪友で同郷のシェイダンと共に魔法科の授業で一緒だった流れで昼食をご一緒させていただいている。


 彼の名はハーキュリース=ヴァン=アルトリーリア=クルーガー。

 レベル19という新人としては頭抜けた実力を持つエルフの『魔獣使い(ビーストテイマー)』だ。

 『魔獣使い(ビーストテイマー)』よろしく、今も白い虎型の魔獣を横に(はべ)らせている。見るからに強力な魔獣なのだが、普段は大人しく、授業中はまるで、というか本当に置物かのように微動だにせず丸くなっている。

 シェイダンが、「もしかしたら人の言葉を理解するっていうお伽噺に出てきた超希少な魔獣なんじゃね?」とか言っていたが、流石にそれは無いだろう。

 とはいえ、恐ろしい程の実力を秘めた魔獣であることは視れば判る。それを完全に制御出来ている、とはやはり流石と言っていいだろう。最初、2人分のサンドイッチを頼んだのを見た時は、見かけによらず大食漢なのだなと思ったが、その白き魔獣に与える為であった。


「ハークはエルフだもんな、知らねぇか。冒険者ギルド寄宿学校を強制退学になるっていうのは、期間の途中で資金が無くなって、とかの自主退学とかとは事情が違うのさ」


 シェイダンが気負った様子も無く、隣に座る彼の質問に答える。ロンと同じく愛称で呼ぶのにも躊躇を見せることはもう無かった。


 入学当初こそシェイダンは、ロンの懸念通りに余所余所しいというか嫌々だとかに感じられる程の態度までではないが、あくまでも友人であるロンに付き合ってという態で、ハーク達に対して一歩引いたような応対を見せていたのだが、これまたロンの予想通り、持ち前の器用さを発揮して僅か一週間で偏見に近い垣根を取り払い、同じ寄宿学校に所属する同志としても、友人としてみても過不足の無い適応を見せていた。


「冒険者ギルド寄宿学校は我が国に全部で7校あって、それぞれに特色がありますが、『凶悪犯でない限り受け入れ、余程のことが無い限り強制退学にはしない』という共通した特色があるのですよ」


 一方のロンも、一般庶民と亜人への偏見等は最初から全く持って無かったのだが、入学当初はハークに対して正面向いて話すことが出来なかった。

 原因は極度の緊張のせいである。

 自らの理想そのままを具現化したようなハークの美貌に視線が引き付けられるものの、見つめ返されると耳まで赤面してしまって上手く話せなくなってしまったのだ。

 とはいえ、シェイダンがからかいつつもフォローを何度かしてくれている内に、今では何とか普通に対応することが出来るようになっていた。気を抜くと今でもハークの美顔に視線を吸い寄せられてしまうのは相変わらずだったが。


「ほうほう」


「つまりさ、冒険者ギルド寄宿学校には言わば社会の受け皿みたいなとこがあるワケよ。冒険者ってのは、確かに死ぬ可能性も高い危険な職業だけど、ヤル気さえあればどんな人間でも大成できるって言われてる職業だからな。だから、冒険者ギルド寄宿学校に入学拒否される、とか、強制的に退学されるほどの人間ってのはどれだけヤバイ奴なんだよ、ってことになるワケさ」


 ロンの言葉をシェイダンが彼なりの台詞回しで補足する。


「ヤバい……、つまりは危険ということか?」


 ハークの言葉に、彼の正面に座るロンが頷いた。


「その通りです。年に一人出るか出ないかって程ですからね。全校だけでなく、国中の全ギルドに知れ渡ってしまうんです。冒険者にとって、情報収集能力ってのは重要な要素と言われています。実力者は勿論、そこを目指す者達の間にも自ずと広まることでしょう。そうなると、もうマトモな人とは組めなくなってしまうのです。依頼を普通に受けることさえ難しくなるかもしれません」


「ふーむ、それでは冒険者として致命傷であるな」


 言いながらハークはサンドイッチを口に運ぶ。咀嚼する彼に向かってまたシェイダンが話を引き継いだ。


「だな。しかもあいつの場合、5年前にも、あいつの親父がこの街の領主だった頃に領主の息子っていう権威をカサに着てかなりの悪事を重ねたらしい。それで当時もギルド長がキレてあいつの入学を認めなかったって話があるぜ」


「何? 本当か? それは僕も初耳だぞ」


「入学拒否されるのを恐れてバレソン家の者が申込みを見合わせたって話があるらしい。そのせいで噂レベルだけど、貴族の子息、しかも長男で20歳になってからやっと寄宿学校入学なんてどう考えても有り得ねえよ。何か問題があったと考えてしかるべきだろう?」


 シェイダンの言葉でハークは一瞬微妙な表情になる。恐らく、シュバルの実年齢を聞いて少し驚いたのだろう。ヤツは小太りの所為か童顔、というか年齢不詳に視えるところがある。知らぬ人から視ればロンやシェイダンと同じ年頃と視えてもおかしくはない。


「ほとぼりが冷めるのを待っていたから、ということか。それにしたってギルド長の印象最悪だというのに、その状態であんな事件を起こしたのか。何と言うか……、本当にアレ、だな」


「素直に言ってやれよ。馬鹿野郎だってさ」


「それは直接的に過ぎるであろうよ」


 シェイダンの忌憚ない意見にハークのツッコミが入ったところで3人の間に軽く笑いが起きた。3人が腹の底では全くの同じ印象を抱いていたことの証明のようなモノだった。


「ま、儂としては今後も奴に無用な因縁を吹っ掛けられることさえなければ良いのだがな。折角の学びの機会だ。最大限大切にしたい」


「ハークは真面目だねえ。ロン、エルフってのは、(みいンな)こんなにも真面目なモンかね?」


「さぁな、少なくとも職務には非常に真面目だったぞ」


「あの新入生総代も、相当に真面目だったな」


 シェイダンが突然話題を変えた。それと同時にロンの脳裏にも新入生総代の姿が浮かぶ。


「総代殿か。確かに彼も真面目だな」


「おう。真面目も真面目。まあ、勝ったがな」


「誰に勝ったって?」


 シェイダンが自慢気に語った直後、そう質問したのはハークではなかった。

 発言元は彼よりもやや高い位置、そして後方から発せられていた。

 皆の視線が自然とそちらへ移動すると、新入生総代たるシンの姿がそこにはあった。午前の授業が終わったのであろう、昼食の乗ったトレイを手に、後ろには先程までの授業で一緒だったのかテルセウスとアルテオの姿もあった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ