ある少女の泡沫の記憶
私が目覚めたのは、培養器の中でした。
不思議と苦しくないのは、耳や目、口元、顔を覆うようにつけられていた機械のおかげ、だったのでしょうね。
それは冷たくもなく、温かくもない、滲んだ水の中から見る朧げな視界で
私は生かされていると理解出来た初めての記憶でした。
私は、死から蘇った、らしいのです。
一日目。
培養器の中・・さらに言うと機械越しの視界からは、はっきりと見えなかったのですが、人影が引っ切り無しに動いていたと思います。機械を通して、私は記憶の確認をされていた、と思います。
【声】に目を閉じるようにと言われ、閉じたふりをして薄目で見ようとしたら、体の中に電流を流されました。
この機械をつけている間、【声】の言うことを守らなければ痛い思いをするのだと学習しました。
指示の通りに目を閉じると、色々な情報を知ることが出来ました。
私は、セシリア、というそうです。
ふーん・・という感情しか持てませんでした。
二日目。
相変わらず、培養器の中でした。何もできないのは退屈でした。
暇なので【声】にかまってもらおうと思い、私は【声】の真似をしようとしました。
ですが、【声】の様に音を出せませんでした。
私は、まだ叫ぶことしか出来ず、それは【声】には届いていなかったようです。
もがく私を、ここじゃないのに【声】は見ているのを知っていましたので、コミュニケーション出来ると思いましたが、私のもがきは一撃の電流のもと、無かったことになりました。
すごく、悲しかった。
私は、確かにいるのに・・どこにもいないのと同じでした。
三日目。
もう、何もすることが出来ないので、目を閉じて知識を流してもらう
基本的に、その繰り返しだったのですが・・・
急に、世界が変わりました。培養器の水が抜かれ、重力を体感したのです。
私は、機械の重みに耐えきれず、足元から崩れ落ち、私の体は盛大にガラスに当たりました。
学習によると、私の体は強化されていて、人間の為に戦う道具になるらしいので
外傷は感じにくくなっているそうです。
機械は外され、優しく抱き起され、私は初めて、培養器ではない、世界を体感しました。
暗くて、地味で、美しいとは言えない世界でしたが
わたしは、嬉しくて、叫びました。
そして、私は・・世界に、生まれたんです。