どうでもいいから勝手にやってくれ
お読み下さりありがとうございます。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
※2017/6/8 誤字修正をしました。
※もしよろしければ、本短編を連載しましたので、そちらも見て頂けると幸いです。
【どうでもいいからシリーズ連載版】 どうでもいいから帰らせてくれ
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(なんというかまぁ、茶番よね。)
きゃんきゃんと甲高い声を上げているのは、我が国の王太子殿下であらせられる、クリストフ・ルメール様だ。
なんでも、婚約者であるアイリーン・ディラヴェル公爵令嬢が、殿下の横にいるマリア・ルージュ男爵令嬢へ危害を加えたとのこと。
そこまで思い返して、不意にこみ上げる笑いを扇で隠す。
(公爵令嬢 対 男爵令嬢ってwwぷぷwww)
周囲には扇で隠しているご令嬢が大多数、お仲間のようだ。
どう見ても相手にならない勝負だ。殿下は何をあんなにムキになられているのだろうか。
(でも、殿下もお可哀そうよね。)
氷のような視線で殿下を見るアイリーン様と、必死になって抗弁している殿下を見、私は殿下へ同情を寄せる。
確かに、殿下はアイリーン様に不貞行為なじられて然るべきほど、マリアさんへべったりだった。
本来婚約者を連れて行くパーティでもマリアさんを連れて行く、校内ではマリアさんの影に殿下あり(悲しいかな逆ではない)、の状態であった。
アイリーン様の「婚約者のいる殿方へ」云々の指摘は、なるほどごもっともであるのだ。
(でもねぇ、その婚約者が、あれでは、ねぇ・・・・・。)
アイリーン様を見ると、その後ろでは麗しい殿方たちが、殿下を絞め殺すと言わんばかりの眼光で睨んでいる。
有名な話である。
殿下は最近であるが、アイリーン様は幼少の頃より、数々の殿方と、それも皆高位の方々と、非常に、非常に懇意にされているのだ。
加えて、光り輝くほど美しく、賢いアイリーン様であるが、殿下への態度は冷たく、常々「婚約破棄してくれ」という始末。
周りには、優秀で美しい殿方。自分を嫌う婚約者。これでは、殿下でなくても他に走りたくなるもの。
(というか、これは内々でやってくれないかしら。あーー、早く帰りたい。)
「更にだっ!!貴様は、あろうことか、マリアを階段から突き落としたのだっ!!」
一際大きく叫んだ殿下のその言葉に、静観していた人々が、どよめく。
(おーー、まじか。それ証明できたら、如何に公爵令嬢でも終わるわね。)
貴族など所詮評判で持っているようなところがある。
評判が落ちれば爪弾きにされ、領地持ちであれば反乱を起こされでもすれば、ハイおしまい。領地没収、爵位返上、こんにちわ平民だ。
世知辛いものだ。
(まぁ、『証明できれば』なんだけどね。)
王弟殿下やら隣国の皇子、若き辺境伯、王国騎士団長・・・数え上げればきりがないが、とにかく切れ者と名高い方々が背後にいるアイリーン様が、そんなヘマをするわけがない。
我が王国の貴族法は『疑わしきは罰せず』であるのだ。
廃嫡かなぁ、と殿下への同情を更に深める。
「ルルリーア・タルボット伯爵令嬢っ!!」
「へっ、はいぃぃっ!??」
え?なになに??いきなり呼ばれたから変な声出ちゃったよ。
どうも、ルルリーア・タルボットでございますが、何か????
呼ばれた上に、何故か殿下が手招きをするものだから、仕方なくぽっかり開いた舞台へ進み出る。
「ルルリーア嬢っ!さぁ、すべてを正直に話すが良いっ!!」
こ、これは、何も聞いてなかったとか言えない空気ですわ・・・。
とりあえず曖昧に濁そう!
「は、はぁ・・・」
「アイリーンが公爵令嬢であるからと言って、遠慮することはない。私が保証しよう」
え、何保証してくれるの??廃嫡寸前なのに????
ていうか何を言えばいいの???
「そうですよぅ!アイリーン様が私を突き落としたのを、見てたでしょう?」
うるうるとした目を上目遣いで向けてくるマリアさん。いや私女だから。じゃなくてぇぇ!!
ナ、ナーーーイス!!マリアさんっ!!!
なるほどなるほど、私は目撃証言をするように言われているわけねっ!
え?でもそんなの見てないよ??いつの話よ??
「先月、東の塔で見てたでしょう?」
えぇ!!マリアさんはもしや心が読めるのっ!!??
恐ろしい子っ!!
しかし記憶にない・・・。なんて言えないよねーーー。
だってマリアさんの後ろからものすごい目で見てるもん殿下。
腐ってもドラゴン・・・、廃嫡の危機であっても王族だもんなーー。
これ、はいって長いものに巻かれちゃった方が良いかなー。
なんて日和見なことを考えていたら。
ぞわわわわわわっ
生まれて来て、これ程の殺気に包まれたことはなかった。
怖いぃぃぃ!!こ、これ騎士のはずの騎士団長からだぁぁ!私淑女のはずなのにぃぃ!殺気ぶつけられてるぅぅ!
どうやら騎士といっても男、愛する女性の前には他の女など女ではないようだ。くすん。
悲鳴を上げそうな喉を気合で飲み込み、殿下へ一礼する。
「申し訳ございませんが、私見ておりませんわ。殿下」
はい、長いものに巻かれましたーー。ごめんね殿下。だってあの人怖いんだもん。
「なっ、嘘を申すでないっ!!」
「殿下。そのような一大事、もし私が目撃しておりましたら、学園へ報告しております」
淡々と返す。お、殺気が弱まった。怖かったよーーー!父様母様兄様帰りたいーー!
「そ、そんなの嘘よっ!!もしかしてアイリーンに脅されてるんじゃないのっ!!」
マリアさん、猫落ちてる落ちてる。呼び捨ては悪手ですよー。
「そう言われましても・・・」
「だって!あの時、心配して保健室へ一緒に行ってくれたじゃないっ!」
ん??保健室?マリアさん?東の塔・・・・。
「あーーーー!!!」
思い出したぁ!すごいすっきりした!
いきなり叫びだした私に、なぜかアイリーン様がびくりと身をすくませ青い顔をする。
なぜに???
アイリーン様とは対照的に、思い出した様子の私に、満面の笑顔で頷くマリアさん。
「マリアさんが転んでしまったときですわねっ!」
「え?」
「は?」
「あぁ??」
アイリーン様、殿下、マリアさんの順です。マリアさん猫が(以下略)
「思い出しましたわー。嫌ですわマリアさん。アイリーン様が突き落としたなんておっしゃるから、全然思い出せませんでしたわ」
ニコニコする私に、マリアさんが詰め寄る。
「だ、だからっ!そのとき、私アイリーンに突き落とされたのよっ!」
「え?あのときアイリーン様いらっしゃったの??気づきませんでしたわ」
キョトンとすると、マリアさんが何故か我が意を得たりと言わんばかりに頷く。
「見えてなかったかもしれないけど、アイリーンが居て私を突き落としたのよ」
「それはありえませんわよ」
淡々と返すと、マリアさんがオーガのような顔で睨む・・って乙女がそれでいいの??
「だって、私の位置からアイリーン様が見えなかったということは、マリアさんの後ろに居なかったということです。突き落とすのは不可能ですわ」
どう頑張っても。とダメ押しすると、殿下とマリアさんは魂が口から出たかのように、勢いをなくした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
結局のところ、殿下の申し立ては虚偽であったと、王弟殿下が判決を下し、その場は解散となった。
せっかくの卒業パーティーが台無しであるが、それよりも早くおうちへ帰りたい。
「ルルリーア・タルボット様、アイリーンお嬢様が、是非一言お礼を、と。こちらへ来て頂けますでしょうか」
優雅に礼をする無駄に美形なアイリーン様の従者が目の前にぃぃぃ。
おうち、とおい。ぐすん。
「これはご丁寧に痛み入ります。私などにお礼などと・・。只真実を申し上げたに過ぎませんわ」
帰りたい気持ちを押し隠してにっこり微笑む。公爵令嬢に誘われちゃ帰れないじゃないかーー!
「とんでもございません。あの場で、王太子殿下に請われるなか、堂々と真実を話すなど中々できることではございません」
案内にエスコートしてくれようとしたのを断り、従者どのの先導に従って歩く。だってこの従者ファンクラブあるんだもん。手なんて乗せたらっ!!ガクブルっ!!
ていうか、笑顔がなんか薄ら寒い。もしや日和ろうとしたのこやつにもバレていたかっ!
背中に冷や汗をかきながら、ひたすら歩く。オウチカエリタイ。
ホント、アイリーン様は見事に色々な殿方に好かれてるわー。
べ、べつに羨ましくなんて無いんだからねっ!家に帰れば、イケメン・・・に見えなくもない兄様にかまってもらうんだからねっ!
と、現実逃避してる間に到着したようだ。
従者殿が軽くノックをすると、これまた美人で有能そうな侍女が顔を出す。
「ルルリーア・タルボット様をお連れ致しました」
「どうぞこちらへ」
案内されて静々と中へ入る。もうかえりたい。
「お嬢様、ルルリーア・タルボット様がいらっしゃいました」
「どうぞお入りになって」
そう言われて入った室内を見て一言。
もうかえっていいかなぁぁぁぁぁ!!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
魂を一瞬他所へ飛ばしてから、カーテシー。なるべく優雅に見えるよう努力努力。
「お呼びいただきありがとうございます。タルボット伯爵家が娘、ルルリーアでございます」
はいはい、丁寧過ぎじゃないって???アイリーン様だけだったらこうしないですよそうですよ。
「うむ。我らのことは気にせず、そう固くなるでない」
無理に決まってるだろうがぁぁぁぁ!
・・・・あぁ、こういう時か弱いご令嬢であったのならば即気絶、後日改めて・・・だったのにぃ!
無駄に太い我が神経が憎い・・・。
「ご配慮頂き光栄に存じます。陛下」
はいそうですよ、陛下ですよ。顔上げらんないですよ、上げたくないですよ。
部屋にいる方々をご紹介しよう。上からね。
国王陛下。
王弟殿下。
隣国の第二皇子。
騎士団長(殺気野郎)。
学園長(侯爵閣下)。
アイリーン様(公爵家)。
従者どの。
言っていいかなぁぁ。人口密度高っ!
この部屋に権力が集まりすぎてて辛い。なんで従者どのは平然としてるの・・。
「まぁ、顔を上げて。ちょっと集まりすぎちゃったかもしれないけど気楽にね」
そうのたまうのは王弟殿下だ。その麗しい金髪を引きちぎってやりたい。
「そちらに掛けられよ。ルルリーア嬢」
その前に(卒業したけど)生徒をここから出してくれませんかね、学園長。
「失礼致します」
指定された席が、なんと、騎士団長(殺気野郎)、の隣だとっ!???
出来る限り遠くに座ります。
「いやぁ、あそこで真実を語ってくれて助かったよ。ルルリーア嬢」
「貴族として、当然のことをしたまでにございます。王弟殿下」
柔らかな雰囲気の美丈夫であらせられる王弟殿下が、なぜか親しげにこちらに話しかけてくる。
社交界では不動の地位を誇る王弟殿下は、女性とは距離を取りにっこり拒絶することで有名だ。解せぬ。
「謙遜をするな、ルルリーア嬢。あの場にあって中々堂々としていたぞ」
「お褒めに預かり、恐縮でございます。学園長」
誰かを褒めたことなど噂にすら登らない学園長が、なぜかその厳格だが麗しいご尊顔を緩めてこちらを褒めてくる。
その美しさのあまり、求婚者が後を絶たず、それを嫌って学園長となった経緯は学園の常識だ。解せぬ。
「私ではあの場で発言することも出来ませんでした。本当にありがとうございます」
「お心遣いありがたく頂戴させていただきます。ハロルド皇子様」
毒舌で有名な、隣国アルファイド皇国第二皇子が、なぜか嫌味を一言も入れず感謝の言葉を述べてくる。
皇子に相応しく涼やかなその美貌を持つが、女は軽薄だから嫌いだと公言しているのは皇国でも我が国でも広まっている。解せぬ。
「・・・・・・・」
なんか言えよっ!騎士団長(殺気野郎)!空気読めよ!
氷の騎士と名高い騎士団長(殺気野郎)は、その名の通り冴え渡る美貌をピクリとも動かさない。
いやいい、むしろ有名な女嫌い達にここまでの態度をされると、もしかして・・・なんて勘違いするよりも薄気味悪いので、騎士団長(殺気野郎)の態度のほうがまだましである。
ていうか、この女嫌い率なんなの????
「ルルリーアさん。私からもお礼を。・・・・あのように言っていただけると思いませんでしたので・・・」
座ったままではあるが、アイリーン様が優雅に一礼する。
最後の一言と共に憂いを浮かべた笑みを浮かべると、周りの男ども(不敬だがしょうがない)が一斉に慰め始める。
(茶番第二弾だわ。)
ありがとうございます、と周りの声に紛れさせて返答する。はやく(以下省略)
アイリーン様がちやほやされているのを横目に、陛下が私に声をかける。そういえばなんで陛下此処にいるんだ?
「というわけでな。正式にはむりであるが、内々にそちに褒美を取らせようと思うてな。欲しいものはあるか?」
はいきたーーーーー!なんかきたーーーーー!
いらないよ、ほんといらないよ。うち弱小貴族なんだよ、父様母様兄様全員胃腸が弱いんだよ、勘弁してください。
といっても断れないし、ほしいものとか無いし、兄様!今です降臨したまえぇぇ!
幻影の兄様に『無理だから』と素気無く断られつつ、無難なものを必死で思い浮かべる。
(そうであるっ!私まだ伯爵令嬢であるっ!家になんかもらおっ!)
「では陛下。ご温情に縋りましてひとつよろしいでしょうか」
「うむ、よいぞ。申せ申せ」
若干周囲の空気が冷たくなったような気もしたが、気にしない気にしたら負けです。
「我がタルボット家家長である父に、賜りたく存じます」
「ほうほう。もちろんよいぞ」
「ありがたき幸せに存じます。つきましては、後日父がご尊顔を拝しますゆえ、平にご容赦下さいませ」
はいはい、カーテシー、カーテシー。よしよし、父様に丸投げ完了。後で胃薬買ってから帰ろう。
おお、神よ、父様の胃を守り給え。
「欲のない娘よの。此処には結婚相手が選り取り見取りであるに」
「陛下」
楽しげにのたまう陛下を睨む王弟殿下。いやいやこっちも嫌ですから、此処にいる方々。
胃薬がいくつ在っても足りなくなるだろう、我が家の。
陛下の言葉は申し訳ないがスルー。笑顔って便利だよね!
「あ、あの。もしよろしければ、来週我が家のお茶会にご参加いただけませんこと」
お、ここで誘うってことは、私と友だちになりたいのかアイリーン様。
そういえば、マリアさんもそうだったけど、女友達すくないよねアイリーン様。
期待に満ちた顔でこちらを伺うアイリーン様は、とても可愛らしい。
だがしかし。
「お招きありがとうございます。よろしければ、サラ・ウェール伯爵令嬢もご一緒させて頂けませんか」
はい、お友達お断りの文句です。誘われた茶会に親しい友人を一緒に行かせてくれということは、茶会に行っても貴方と仲良くならんよ、という意味合いになるのだ。すまんな、アイリーン様。
だってね、アイリーン様と友達になんてなったら、もれなくこの部屋の全員がついてくるよいやだよ。
それにアイリーン様みたいに、押しに弱そうな、無自覚に殿方を侍らせている人って苦手なんだよねぇ。
ああ、ごめんよ、我が友サラ。巻き込んじゃった、てへ。
私からの実質お断りの返事に、顔を曇らせるアイリーン様を見て、またしても殺気立つ野郎ども(もうこれでいいや)。
「公爵家のご令嬢の心に答えないとは、随分思い上がったものですね」
お、毒舌が復活したよ皇子様。さっきまでの薄ら寒い態度よりこっちのがいいわ。別に私はマゾじゃないぞ。
おいお前ら、睨みつければ女なんて萎縮するとか思ってないだろうな。
売られた喧嘩は買うのが上等。
『お前の図太さが俺に少しでもあれば出世するのに!』と兄様が嘆くほど、肝が座ってる私でございます。
「まぁ、それは申し訳ございませんでした、アイリーン様!・・・来週サラとお茶の約束をしておりましたので、つい・・・」
真っ赤な嘘だが、ふらっと行くこともあるからいいよね?サラ。
白々しく演技をする私を、機嫌悪そうにみる野郎ども。もうビクついたりしませんよ。
それより、むしろ残念な気持ちになってきたよ。
良い年した(私から見たら)おじさん共が、16歳の少女にあからさまに入れあげててほんと見苦しいわ。
おっといかんいかん。陛下の御前で冷たい目で王弟殿下共々を見ちゃったよ。
それにしてもこの場って私にお礼を言いたいとかじゃなかったか?もうどうでもいいからおうちに返してくれよ。
どう頑張っても死んだ目にしかならない私を見かねたのか、先程よりももっと面白そうな様子の陛下が、素晴らしいお言葉を下さった。
「よいよい、面白い娘じゃの。今日はつかれたであろう、下がるが良い」
「ありがとうございます!!!失礼致します!!」
うっかり全力でお礼言っちゃったよ。まあいいか。
これでやっとお家帰れる!!!!!
喜びのあまり、帰りに胃薬を買い忘れたのは内緒だ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「というわけでね。結局、アイリーン様のお友達を確保しようと、いい大人が幼気な少女を脅そうとしたのよ。酷い話よねー兄様?
」
「今の話から結論がそうなるお前の頭は、一体どうなっているんだ、リーア」
ああ胃が痛い、と呟くのは私の兄様。事実だもの、仕方がないじゃない?
「そんなことよりも、陛下からの褒美を父上に丸投げするなんて・・・。寝込んでしまったではないか」
そうなんです。帰ってからすぐに家族会議を開いて今日のあらましを報告すると、父様と母様は仲良く揃って倒れた。
なぜだ・・・なぜなんだ・・・とうわ言をつぶやきながら、爺やに運ばれていく父様。母様は兄様が運んでくれました。
陛下のあの様子ならよっぽどのものを欲しがらない限り、お咎めはないと思うけど。
首をすくめる私を見て、兄様が胃の腑の当たりを握りしめる。ああどうすれば・・・なんて言って兄様、適当でいいと思うけど。
「ふつーに報奨金とかでいいのでは?」
「金額が見えると不敬だろう・・」
まあそうだよね、私も思いつかなかったから父様に丸投げしたのだよ。
「それよりも、どう思います?兄様。あの困った方々」
そう言って思い出すのは、アイリーン様の取り巻きの殿方(笑)。
どう考えてもマリアさんの時より問題だと思われる。
「あぁ、そうだな・・・。アイリーン嬢の婚約が、もはや形骸化した今となっては、各々アプローチされるだろうな・・・・」
唸るようにいう兄様。眉間の皺が癖になってしまいますよ?
やはりそこよねー。地位も権力もある方々が一人の麗しき少女(笑)を得るために争う・・・。洒落じゃなく内乱の可能性もあるのでは。
まあそこはやはり。
「兄様、頑張って!!」
「お前も少しは考えろ!!うぅ、胃がぁ!!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
どうもごきげんよう。
何故、私が一人(我が家の侍女付き)で、王宮にいるのだろうか。
それを説明するには、少し前に遡る必要がある。
夫婦仲良く倒れた後、どうにか復活した父様が、禿げる勢いで悩みながら執務室に篭って3日後。
本当はもっと、いや永遠に悩んでいたかったようだが、それはそれで不敬であるので断念。
そこで出した結論は、『そうだ、我が家ではなくて領民へ与えよう』とのこと。血の繋がりを感じます。
名目は、先々月兄様が部署異動された祝いの、領主からの有り難い振る舞い、ということになった。
部署異動と言っても、所属の名称が変わっただけで実質異動なんてしていないのだが、領民から見れば貰えればなんでもいいだろうからよしとする。
そう晴れ晴れとした顔で語った父様から、一枚の書状を受け取る。
「これは???」
「陛下がな、私ではなくお前に直接褒美を渡したいと仰せでな。ということで、王宮行って来い」
ええええええええええ!!!せっかく父様に丸投げしたのにぃ!!
というわけで、清々しい笑顔で家族全員に送られた私。あぁ、これも楽をしようとした報いなのかしら・・・。
私だって、アイリーン様からの招待状はやっぱり来るわ、サラから文句を言われるわで、心休まらない3日間だったと言うのに!
・・・・・すみません嘘です。サラとお菓子食べて刺繍して本読んで、楽しくいつも通り過ごしてましたが何か!?
「マーニャ、どうしてこうなったのかしらね」
「それはお嬢様がお嬢様であったからですね、あと運」
なんて酷い侍女でしょう!もう恋愛相談なんて受けてあげませんからね!
「なんだか悪い予感がするのでとりあえず謝ります。申し訳ございません、お嬢様」
マーニャは可もなく不可もない侍女であったが、感の良さだけはピカイチなのである。自分に関すること限定ではあるが。
はぁ、とため息をつく。
「そうよね、陛下はお忙しい身。型通り褒美を頂いてすぐに帰れるはずよ」
「お嬢様自身、信じておられないでしょうに。とても空々しく聞こえます」
そうよねぇ・・・。わざわざ父様じゃなくて娘を呼び出すのだもの・・・。何かあるわよね、夢くらい見たって良いじゃない、マーニャ。
そう遠い目をしていると、近衛詰所に到着。マーニャが手続きをしてくれている。
控室にて待つように言われて大人しく紅茶を楽しむ。
「待たせたな、ルルリーア嬢」
ぶっほぉおお!淑女にあるまじきことに、紅茶を吹き出してしまった。
それを面白そうにジロジロ見てくる目の前のお方。感じが悪いことこの上ない。
「・・・・失礼致しました、騎士団長閣下」
そうだよ!殺気野郎(騎士団長)だよ!!なんでここにいるんだぁ!
「陛下よりルルリーア嬢のエスコートを命ぜられた。・・・ぶっ・・・、こちらに」
優雅に手を差し伸べているが、顔が笑ってるぞコラァ!
心のなかで青筋を立てまくりつつ、エスコートを受ける。落ち着け私、笑顔を作らねば!
「ありがとうございます」
そっけなくなってしまったのは仕方ないだろう、大目に見てくれ。こちとら10代の繊細な心の持ち主なのだよ。
そんな考えなどお見通しなのか、まだ笑いが収まらない様子。ご機嫌麗しいようでようございましたねぇ!
ジト目で見ていたのに気づいて、殺気野郎、もとい失礼野郎(騎士団長)はこちらに軽く頭を下げた。
「これは失礼した。見事な・・・ふっ・・・吹きっぷりだった・・。くくっ」
氷の騎士(笑)の珍しい光景に、すれ違う人が目を丸くして注目が集まるぅぅぅ!
「お褒めに預かり恐縮でございます」
努めて平静に返そうとしたが、顔は完璧な淑女の笑顔、声は不満たらたらというアンバランスな出来になってしまった。
ら、更にツボに入ったのか、声を上げて笑い始めたよ、氷どこ行ったのさ!失礼野郎(騎士団長)!!
いいから、とりあえず、わらうの、やめてくれないかなぁぁぁ!!
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「これはこれは珍しいものを見たものだ」
結局、隣の失礼野郎(騎士団長)は、陛下の応接室まで、笑い止むことはなかった。なんということだ。
陛下の前で笑うなよ不敬な奴め。
「遅くなり申し訳ございません・・・ぶふっ・・」
笑いながらも、エスコートは完璧だったイケメン爆ぜろ。
そうやって乙女たちを弄んでは、「勘違いするな」とか冷たくあしらうんだな!!
まぁ、私の場合、いらぬ注目を浴びて別の意味で弄ばれてた気分だがなっ!
「お呼びに与り参上仕りました。陛下」
失礼野郎(騎士団長)はとりあえず無視して、陛下へ挨拶とカーテシー。
「よく来た。さ、座るが良い」
にこにこと上機嫌な陛下に警戒しつつ、座る前にとりあえず一応エスコートしてもらったような気がする失礼野郎(騎士団長)へお礼を言わないといけないと思い、向き直る。
・・・・・なぜ、貴方も座ってるんですかァァァァ!!!!
思わず怪訝な顔を一瞬してしまった、のを見逃さず(そこは紳士として見逃せよ)ばっちり見た失礼野郎(騎士団長)が、またもや吹き出した。
今日は沸点が低いんですね氷の騎士(笑)様・・・・。
顔を背けて笑いを堪える彼奴を放置して、不本意ながらも隣りに座る。そこしか座るとこないからね!
「この珍しい光景が気になるところではあるが。まずは用事を片付けてしまおうかの」
陛下、私にはひとつの用事しか心当たりがありません。
なになになんなの、他に何があるのぉ!!
控えていた従者が捧げ持ってきた封書を、ひょいと軽々しくこちらに渡す陛下。
出来るだけ恭しく見えるように受け取る私エラい。
父宛だから私見なくていいよねっ!
「褒美は領民へ、ということじゃからの。王家秘蔵のワイン10樽と護岸工事の補助申請受理書じゃ」
よっしゃぁぁぁ!意外といいもんもらえたぜ、やるな父上!!
うち弱小だから補助申請とかものすっごく後回しにされるんだよねー。みんな喜ぶよーー。
「有難く頂戴させていただきます」
満面の笑顔でお礼を言うと、陛下に微妙な顔をされた。なぜ????
「あやつらも大概な態度であったが、顔だけはよいはずであるのに。うら若き乙女が、あやつらよりも書類の方に満面の笑顔を・・・。よもやその年でもう枯れてしまったのか?」
失礼だな陛下。直接聞きすぎだろ。
「はぁ・・・。特にそういうわけではございませんが。ただ」
あーー、正直に言うとこれ不敬にならんかね???
と思って陛下を見ると、「よいよい」という感じで促されたので、非公式だしまあいいかな、と本音をぽろり。
「どう考えてもあの方々は百害あって一利なし、に比べて、補助金は領民も喜んで家族も喜んで良いことづくし。比べるまでもないかと」
なんか『やめてくれぇぇぇ』と叫ぶ兄様が見えたような見えないような。幻覚だなうん。
「ほうほうほう!百害とな!」
なんで目を輝かせるのさ陛下。いや手を離してくれ、いたっいだだっ!
「わかるか!わしの目に狂いはなかった!」
なんか感極まってるのは良いから早く手を、ってなぜ貴方まで肩に手を置いてくるんだぁぁ!もう心のなかで『失礼野郎』とか思わないから、離れてくれ騎士団長閣下ぁぁ!
「陛下、これはもう間違いございませんね。本題に入れるかと」
いやいや本題はもう終わったよ何言ってるんだワタシオウチカエリタイ。
「うむ!そうじゃな!」
そう力強く頷くと、陛下はそのご尊顔にキラキラした笑顔を浮かべて、宣言された。
「ルルリーア・タルボット!そなたを国王専属愚痴聞き係に任命いたす!」
え、それ辞退しちゃだめですかぁぁぁ????
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※裏設定
・ヒロイン(マリア嬢):
前世記憶ありヒロイン。逆ハーレムルートになぜかはいれなかったので、ちょろい王子ルートに・・・がどうしてこうなった!??←イマココ
・悪役令嬢(アイリーン様):
前世記憶あり悪役令嬢。死亡フラグが恐ろしくて色々な人のトラウマを回避したり、訳あり従者を拾ったりと奔走したため、無自覚人誑しとなった。とりあえず冤罪免れてホッとしてる。←イマココ
・主人公(ルルリーア嬢):
何も知らない完全に巻き込まれたオウチカエリタイ←イマココ