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Ep.01 今に見ておれ、領事館の『イケズ後家』ども!

短大の卒業を一年後にひかえたオカンは留学に向けての具体的な準備に取り

かかりました。なにせ当時はインターネットのない時代、Eメールも携帯も

FBもツイッターもなく、日米間の主な通信手段は航空郵便と国際電話だけ。

その国際電話もKDDが独占していて通話料金もかなり高額だったとか。

それで、受け入れ先の学校探しから入学案内や資料請求にも時間がかかり、

留学ビザに必要な書類取得・申請なども神戸にあるアメリカ領事館まで何度も

足を運ばなければならなかったようです。


「ホンマええ時代になったよね。ポッチンするだけで大学のパンフも即ゲット

できるし、領事館のホームページにアクセスして留学に関する詳細なんかも

すぐ分かるし、申請書もダウンロードできるし… 

今はもうネットのない生活なんて考えられへんよね」


確かに、ネットや携帯のない日常は想像できません。


「…セックスレスは平気やけどネットが繋がらないと欲求不満でカリカリする--

これって、ホンマ言い得て妙やわ。な、Kちゃんもそう思うやろ?」


いや、そんな生々しいこと息子の俺に同意を求められても・・・


「しっかし今思い出してもムカつくわ! なにが『スージィ』や、なにが

『ハンナ』や!? どー見ても『鈴子と花子』やろっ!!」


異性には厳しく同性に対しては寛容なオカンが、かなり怒っております。 


「まあ、確かに英語は出来たと思うよ。けど、なにも日本人同士やのに英語の

名前で呼び合って、日本人の前で巻き舌の英語で会話することないやん!」


領事館の窓口の、当時アラフォーの日本人(日系米人ではない)職員さんたちの

ことらしいです。なんでも同性、特に若い女子には冷たく上から目線なのに対し

異性、特に若いイケメンには破顔で対応していたとか。

まっ、これはあくまでオカンの独断と偏見によるものかもしれませんが・・・


「あの時、心の中で誓ったわ。ゼッタイこんな残念な『行けず後家』だけには

なったらアカン、ゼッタイ英語ペラペラになって見返してやろーと!」


多少オカンの妬っかみもあるでしょうけど、自分たちは一般の事務職とは違う、

領事館勤務なんだという選民意識がミエミエで横柄な態度だったそうです。


「えっ、その昭和の死語『行けず』とちごて『行かず』とちゃうの?」

「行かず後家は、あたかも自分の意思で独身通しているみたいに聞こえるやろ。

『行けず』には、行けないとイケズ(いじわる)のダブルの意味があるの」


なるほど、死語にも地域によっての地方色があったと言うことですね。


「あの日の窓口が鈴子とちごて隣の温和そうなおっちゃんやったらゼッタイ

あんな事にはならへんかったのに…」


オカン、悔しそうに天井を仰ぎました。

ビザ発行の最終段階のインタビューの日に必要書類を提出すると、それを

チェックしたスージィさんによってダメ出しされたそうです。

ホストファミリーによる保証人の手紙の内容が必要事項を全て満たしていない

とか、なんとか・・・

その日のうちに留学ビザがゲットできると100%信じて疑わなかったオカン、

涙目で一応上司の意見も聞いてくれないかと掛け合ったそうですが、同僚の

ハンナさんにちらっと相談しただけで見事却下されました。


「んでも、その人は自分の仕事をきっちりこなしたまでやんか…」

「まあ、確かに後になって冷静に考えるとそうやけど。


問題はその言い方なんよ。取り付く島もないと言うかケンモホロロと言うか、

相手に対する思いやりとかやさしさが微塵もないんよ。そう感じたのお母さん

だけやなかったみたい。A子もおんなじこと言うてたわ…」


オカンの留学時代からの親友、現在はアメリカ住みのA子オバちゃんです。


「…A子の知り合いで旅行代理店に務める人の話では、当時あの二人は結構

有名でツアー客のビザ申請業務はゼッタイ若い女の子はNG。イケメン男子

限定やったとか」


80年代は観光でも渡米にはまだビザが必要だったようです。

そのお二人もご存命ならすでに70代半ばですね・・・

てか、オカン、どんだけ大昔の話やねん!



という訳で、卒業式の翌日に渡米する当初の予定が『鈴子と花子』のせい

(byオカン)で一か月半延期なってしまいました・・・





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