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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第1章 異世界の洗礼
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第7話《フリーター》、目覚める

(ドラゴン、だって……? 普通、こんな序盤で出てくるようなモンスターじゃないだろ!? )


 と、番野つがのはこれまでプレイしてきた数々のRPGの演出のどれにも当てはまらない今の状況に困惑していた。


 すると、美咲みさきが番野の隣に来て言う。


「ねえ、どうするの!? 」

「どうするって言われても……。戦うしかないんじゃないか? 主にお前が」

「私だけ!? 」

「そりゃそうだろう。お前はこんな無力な《フリーター》を矢面に立たせるのかよ?」

「どうしてそんなに胸を張って言えるのかなぁ……。はぁ。分かったわよ。私がやれば良いんでしょ? 」

「さっすが《勇者》様!! 」


 そう言って美咲の背中を叩いた番野は、走ってその場から距離を取った。


 その行動に、美咲は表情にこそ出さなかったものの、握りしめた手がぷるぷると震えていた。


(まあ、任されちゃったものは仕方ないけど、後でたっぷりとお仕置きしないといけないわね)


 美咲がお仕置きと称してかなり物騒な事を考えているというのに、当の番野は後方から美咲にエールを送っている。


(番野君へのお仕置きは一旦置いといて、とりあえずあのドラゴンをなんとかしないと)


 気持ちを入れ替えた美咲は、まるで武士が腰に差している刀に手を掛ける時のような体勢をとる。すると、構えた両手の位置に合わせるようにして、1振りの剣が現れた。


 美咲は剣を抜き、漆黒しっこくの竜にその切っ先を向ける。


 そして、


「行くわ!! 」


 発声と共に、全力で地面を蹴った。

 《勇者》の身体能力補正を受けた美咲は、竜との距離約二十メートルを一瞬で縮める。


「ふっ!! 」


 竜の目の前まで移動した美咲は、そのままの勢いで竜の顎を下から切り上げる。


 が、竜のうろこは硬く、派手な衝突音と共に竜は仰け反ったものの肝心の刃は鱗に阻まれて竜の体を傷付けるまでには至らない。


(やっぱり、鱗は硬いか……。なら! )


 すると、美咲は仰け反っている竜の体の下に滑り込み、鱗の無い部位である腹を斬りつけた。


「グガァァァアアアアア!!? 」


 柔らかく、無防備な腹を斬られた竜は、赤黒い血液を噴き出しながら苦しげな咆哮を上げた。


(よしっ! 狙い通り! )


 しかし、喜ぶのも束の間。竜はその大木の様に太い尾で、自分の体の下を滑り抜けた美咲を横にぐ。


「きゃっ!! 」


 美咲はその攻撃を剣を盾にして防ぐが、体重の軽い彼女は軽々と吹き飛ばされてしまう。

 予想外の攻撃力に一瞬、不安がよぎる美咲だったが、空中で体勢を整えてなんとか地面に着地する。


(危ない危ない。あんなのをまともに受けたらひとたまりもないわね……。手も痺れてるし……)


 ビリビリと痺れる手で剣を握り直した美咲は、漆黒の竜へと再び剣を構える。



 一方その頃、後方で美咲と竜との戦闘を見ていた番野は、《勇者》の力を発揮した美咲の戦闘力に驚きを隠せないでいた。


(あれが、《勇者》の力か……。あんなのとまともにやり合うなんて、どんだけハイスペックなんだよ……! )


 そして同時に、少女1人に戦闘を任せて、何もできない自分に腹を立てていた。


(《フリーター》なんていう職業なのか職業じゃないのかもはっきり分からないような職業ジョブにできる事はないのか? 美咲の職業ジョブが《勇者》だからって、無敵な訳じゃない。それなのに、そんな事が分かっているのに、俺は何もできないのか? )


「クソッ……!! 」


 番野は、少女1人に戦闘を任せ、安全な場所で応援する事しかできない今の自分の不甲斐ふがいなさに手を血がにじむ程握りしめた。


 今もなお、戦闘は続いている。


 はたから見れば互角のように見えるが、美咲の体力は限界に近付きつつある。それは見るだけで分かった。


 今はまだ竜の攻撃を捌き、反撃する事ができているが、それがいつまで続けられるか分からない。


 番野は、自分にもできる事を見つけるため、思考を“《フリーター》に何ができるか”ではなく、“《フリーター》だからできる事は何か”へと変えた。


(《フリーター》だからこそできる。《フリーター》にできて、他の職業にはできない事……。考えろ。余計な事は考えるな。答えを出す事に集中しろ……)


 目を閉じて深呼吸をし、心を落ち着ける。

 時間にして二十秒、番野は考えた。


 そして、行き着く。


(《フリーター》にできて、他の職業にはできない事。…………、ああ。分かったぞ)


 番野が《フリーター》の能力に気付いたと同時、彼の腰には美咲の物と同じ剣が現れていた。

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