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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第五章 譲れないもの
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第69話 救出へ

(因縁、ねえ。因縁があるという事は、多少なりともあいつらと関わった事があるって事だ。これはかなり大きな一歩になるかもしれない)

 件の盗賊団との間に因縁があると打ち明けた石川に、番野は眉をひそめて尋ねる。

「因縁があると言ったな」

「まあな」

「そいつは、どういう因縁だ?」

 その問いに、石川は「う、うん。まあ……」と回答を渋る素振りを見せる。

 その様子に番野はそのままの口調で言う。

「そうやって回答を渋ってると、お前は何かやましい事を隠していると俺は判断するが」

「…………ッ」

 すると、番野の言葉に合わせるようにして夏目が無言のまま視線を鋭くする。

 それは『もしも関係者なのなら問答無用ですぞ』という互いの意思表示であり、その意思を石川はしっかりと心体で感じ取っていた。

 石川の頬をツーッと冷たい汗が伝う。

(まさか、こいつらこの場でおっ始めるつもりじゃないよな? いくらなんでもそんな事はないだろうけど……って、私は関係者じゃねえんだからこんな事考える必要ねえじゃんっ。なにビビってんだ私!)

 だが、そうは言ってもこのままこちらの沈黙が続けば向こうはすぐさま自分を関係者と断定するだろう。そうなってはこちらの命が危ない。

 震えるより否定が先だ。

「や、やましい事なんてねえ! やつらの関係者でもねえよ!」

「わかったわかった。わかったからそんなに声を荒げるな。声が高いから耳に響くんだよ」

「う、うるせーな!」

「……んで、因縁ってのは何なんだ? 俺はそれが気になるんだが」

「わかったよ話すよ……」

 そして、はあ、とため息を吐いてブツブツと小さく呟いた後、スープを一口すすって話し始めた。

「私がこの世界に来たばっかりの頃の話だ。

 私は自分の《怪盗》の力がすごく気に入ってて、そして過信していた。

 今でこそ私は《怪盗》としての矜持を崩さないように活動しているが、その頃の私はそこらへんの盗賊となんら変わらねえ生活をしてた。適当に、無差別に物を盗んで、そうやって盗んだ物でその日暮らしをしてた」

(そういや昨日の夜、食料を盗みに来てなかったか、こいつ?)

 と、話の途中でそんな考えに至った番野だが、話の腰を折るのも何だと思い胸に秘めた。

 当の本人である石川は番野がそんな事を考えているなど知らずに昔語りを続ける。

「そうやって変な自信を付けていった私はある日、この近くで活動している盗賊団の噂を聞いた。そして私はすぐにアジト探しを始め、ついにやつらのアジトを見つけた。

 だが私もバカじゃない。その日は隠れ家に帰った」

 雰囲気付けに節々に抑揚を付けて語る石川の横で、話が長いと結論を急かそうとする夏目を番野が宥める。

「そして次の日、私は万全の準備を整えてアジトに忍び込んだ! 込んだんだが……私はあえなく撤退を余儀なくされた」

「そうですか。で、結論は? 結局なにが言いたいんですか?」

 石川がまるで舞台を演じているかのような大仰な語り口調で言っている中、横から痺れを切らした夏目が冷たい目を向けながら割り込んだ。ちなみに、番野は夏目の拘束魔法で床に転がされている。

 語りを邪魔された石川は、ノリのわからねえ奴だなーとつまらなそうに言った。

 そして、やれやれとこれまた大袈裟に呆れてみせて石川は続ける。

「ま、結局何が言いたかったかって言うと、私はにいちゃんたちが追ってる奴らのアジトの場所が分かるって事だ」

「要旨だけだと一〇秒もかかりませんね。とんだ蛇足だらけの説明、ありがとうございました」

「ずっと言おうと思ってたんだけど、お前私に対して当たり強くないか!? 年上だぞ敬えよ!」

「でしたら敬える要素を見せてください。今のところあなたへの尊敬値はマイナス三七六六ポイントです」

「富士山じゃん! てか私そんなに敬う要素無いのか……」

 驚異の数値を叩き出し、絶望に暮れる石川。

 そうしていると、拘束魔法を解いて立ち上がった番野が夏目に問いかける。

「夏目。ちなみに俺の尊敬値いくら?」

「番野さんのは、二五ポイントくらいですかね。一〇〇点満点中で」

「それ確実に赤点……」

 番野も告白された数値に思わず嘆息する。

 すると、明後日の方を向いて長い息を吐いている番野に夏目がふと尋ねる。

「そういえば番野さん。拘束はどうしたのですか? 緩めにしてはいましたが、物理的には脱出は困難なはずなのですが」

「あー何でかは分からないんだが、何でか解けた」

「そうなんですか。では、次はもう少し……」

「えっ、次!? 次もあるのか!?」

 まさかの予告に驚きを隠せない番野だったが、石川に聞かなければならない事柄があったのを思い出して一度気持ちを落ち着ける。

 そして、落ち着いたと判断したところで石川に問う。

「石川。お前に聞きたい事がある」

「……え? なんだよ、にいちゃん?」

「その、奴らのアジトはここから大体どれくらいで行ける?」

 石川は、そうだなーと考え、答える。

「んー。全力で行って一時間掛かんないぐらいだな、こっからだと」

「ふーん。なるほど、な……」

 番野は顎に手を当て思案する。

 だが、最早石川の発言を聞いた瞬間に番野の腹積りは既に決まっていた。

 だから、そうして十数秒と待たずに番野は宣言した。

「今日の昼、ここを出発する。突然で悪いが、大丈夫か夏目?」

「はい。もちろんです」

 続いて番野はパンを頬張る石川に目を向けた。

「それと、石川。アジトの場所を知ってるお前には、道案内を頼みたい。道案内が終わったらお前を自由にしてやるから、その代わりきちんと案内するんだ」

「あはひにまはへろ!」

「物を飲み込んでから喋れよ……」

 パンを口に詰めたまま元気に答える石川に番野は思わず苦笑する。

 すると、その様子を見ていたシーラが肩を震わせて笑い出した。

「……クスクス。あっはっはっはっ! ほんと面白いね、アンタ達! 若さは素晴らしいってつくづく思わされるよ。それじゃあと言っちゃなんだけど、昼はちょっとばかし腕によりをかけさせてもらおうかね」

「ああ、本当ですか? それはありがたいです! ありがとうございます!」

 そう言って、番野はシーラに真摯に頭を下げた。

「良いの良いの。さ、ほら。まずはこれを食べとかないと。朝を抜くと元気が出ないからね!」

「はい」

 番野は返事をしてスープをひとすくい口に運んだ。

 それは少し温くなっていたが、心はとても温かくなったのだった。

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