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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第五章 譲れないもの
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第66話 闇夜の逮捕劇

「せ、説教……だって……?」

 番野の口走った『説教』という単語に少女は何か思うところがあるのかその小さな身を強張らせた。

 番野は闇夜のせいで大体の背格好しか分からない少女に向けて若干の笑みを漏らしながら言う。

「ああそうだ。

 世の中には子供のやる事は笑って見過ごせなんて素晴らしく良い言葉があるが、それは全部に適用される程万能じゃないんだよな。

 子供が明らかな犯罪行為を働いた時、親や周りの大人はどうすると思う?」

 その問い掛けに少女はチッと舌打ちをして、そんなの知ってるとでも言いたげに答える。

「みんなでこぞってその子供を叱り付ける、だろ?」

「ふむ。まあ、多少語弊がある部分があるが……。よく分かってるじゃないか」

「っ!?」

 瞬間、言葉が切れるのと同時に番野が消えたのを少女は闇の中でなんとか視認した。

 それは、闇夜に溶け消えるといったそんな達人技ではない。

 《勇者》の能力で強化した脚を用いた単純な移動。

 だが、番野が如何にしてこのような移動を行えるのかのメカニズムを知らない少女にとって、それを行った番野は人外にすら感じられた。

 元々少女は目が良い方である。しかし、真夜中という事もあって高速で動く番野の姿を捉えられないと判断するや、目で追うのを止めてその場に屈み込んだ。

 速く動いている物体は急に止まったり軌道を変えたりする事はできない。

 少女は、先程番野の身に起こった出来事を実行した。

(なっ、こいつッーー!!)

『説教してやる』と言った以上、こちらが死ぬ危険のある行動を番野がしてくる筈はないと少女は理解していた。

 この速度のまま番野が少女を蹴飛ばせば、少女はまず無事では済まない。

 だから結果として、番野は自らの身を宙に投げる事になった。

 瞬間の速度では人間の動体視力を上回るスピードで動いていた番野の体は、前方へ掛かる凄まじいエネルギーを受けて砲弾と見紛う速度で飛んで行く。

(クソッ。正直なめてた。こいつ、頭の回転が速い!)

 内心で悔やんだ番野は、高速で移動する視界の中に一本の樹木を見た。

 幹の太さは少なくとも三メートル。一目で分かる立派な樹木である。

(アレしかない!)

 思うや、番野は空中で体を無理矢理回転させる。

(耐えてくれよ!?)

 直後、番野の足裏にズシリと重く鈍い衝撃が走り、それに伴って足場となった樹木が軋みを上げる。

「いっつぅ〜〜」

 何とも言えない鈍痛を歯を食いしばって耐えながらも体勢を立て直した番野は、背を向け逃げ出そうとする少女を視界に捉えた。

「逃がさねえよ……」

 呟き、限界まで曲がった脚をスプリングのようにして一気に蹴り出す。

 瞬間、番野の体はまたも高速の世界へと突入する。

 が、

(流石に同じ失敗は三回も繰り返さねえよ!)

 手元に顕現させた剣を地面に突き刺し、減速を図った。

 ガリガリガリと地面を抉る音がけたたましく鳴り響く。

 これにより、番野は減速に成功した。

 それでも速度が遅いという訳ではないが、ここまで来れば《勇者》の膂力で急制動が可能だ。

 少女の真横に並んだ番野は足を突き刺すようにして急制動を掛け、少女がそれに気付く余裕も与えず、少女の襟首を掴んだ。

 ついでに余計な抵抗をされないようにとそのまま持ち上げておく事も番野は忘れない。

 かくして《怪盗》少女は番野によって捕らえられたーーかに思えた。

 どこからか、少女の高らかな声が聞こえてくるまでは。

「あーはっはっはー! 闇夜に響く笑い声。どこだと思って天を仰げば、そこには謎の人物あり。世紀の《怪盗》石川つぐめとは、私の事だああああ!! ちなみにお前の持ってるそれは偽物だああああ!!」

「ふんっ!!」

「あああああ!! 止めろよ乱暴に扱うなってそれ作るの大変なんだぞー!!」

 スカされた事に腹を立てた番野が少女ーー石川の人形を地面に何度も叩きつけるのを、民家の屋根の上に立っている本物の石川が大声を上げながら注意する。

「そいっ」

 一頻り叩き終えた後、番野はぽいっと人形を他所に投げ捨てた。

「あ、この野郎ーー!!」

 と、それを見た石川が更に大きな声で叫び、番野に襲い掛かろうと屋根から飛び降りようとする。

 すると、

「ぎゃんっ!?」

 勢い良く飛び出した石川が空中で何か見えない壁のようなモノに衝突した。

 そして、そのままずるずると重力に引かれて落ちそうになるが、まるでそこに床でもあるかのように空中で横たわった。

(何だ? 何が起こってる?)

 番野は目の前の現象に目を丸くする。

 そうしていると、番野の背後からもう一つの小さな影が歩み出て来て言う。

「空間を固定化する結界を張りました。これでわたしが魔法を解除するまで彼女は自由に動けません」

「夏目、か……。何しに来たんだ?」

 問われた夏目は、むっと顔を少ししかめて答える。

「何しに来たかと言われますと、ぐっすりと気持ち良く眠っていたところを凄まじい轟音で無理矢理叩き起こされ、なかなか戦況が芳しくない様子の《フリーター》さんがわたしと同年代の女の子にまんまと騙し撃ちを受けて大人気なく怒り出していたので大事に至る前に事態を収拾しに来ましたと答えます」

「夜中に大きな音を立ててごめんなさい」

 番野は素直に頭を下げた。

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