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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第五章 譲れないもの
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第65話《怪盗》少女

 番野は高揚していた。

 よもや自分が目を覚ましたその日に、突破口が見えず八方ふさがりだった時に活路への鍵が飛び込んで来たのだから。

 バン! と蹴破るような勢いで玄関のドアを開けた番野は、先程声のした方向へと足を向ける。

「さて、そんじゃ行きますかね。転職(チェンジ)、《勇者》!」

 直後、番野の体が一瞬発光し、収まる。

 体の底から力が湧いてくるような感覚を番野は感受して笑った。

 そして、何度かその場で跳んで体の調子を確認する。

(何だかいつもより体が軽い気がする。調子は良好って事だな)

「よし」

 番野はダッシュの構えを取ると、今現在も暴れているであろう盗賊に向けて内心で待ってろよと呟くと、地面が爆発したのかと錯覚するような勢いで蹴り出した。


 ○ ○ ○


 先程の男は私を盗賊と呼んだ。

 私はそれに憤りを覚えた。

 何故なら、私は盗賊のような野蛮な存在ではなく、華麗に盗みをこなして人々を翻弄し、或いは魅了して立ち去る《怪盗》だからだ。

 一応私は今日この三日分くらいの食糧を調達しに来ただけだったのだが、腹が立ったのであの男の家からは他にも何か盗ってやろう。憂さ晴らしと言う奴だ。

「ふう」

 とりあえず、この家からはこれくらいで十分だろう。

 盗り過ぎてもこの家の人が困るだろうし、何より発見されてしまっているのに長居する程私はバカじゃない。

 失礼しました。

 心の中で言って、静かに礼をして家を出る。

 《怪盗》たる者、これくらいの優雅さは必要なのである。

 さて、最後はあの男の家だ。

 先程、長居する程私はバカじゃないと言ったが、それとこれとは話が別だ。こればかりは例外なのである。

 幸い、この村には何度か“世話”になっている為、大抵誰がどの家に住んでいるのかの見当はついている。

 あとはその家から盗み出すだけーー

 と、その時私はどこからか爆発音のような大音を聞いた。

 まさか、私を捕まえる為の武器かと思って思わず身震いする。

 だとしたら、やはりここはとっとと退散した方が賢いのではないだろうか?

「あ」

 しかし、私はそう思い立っても一歩を踏み出す事ができなかった。

 私は見てしまったのだ。

 どこからか現れた見知らぬ男が、何を思ってかとびきりの笑顔で、それも常識では考えられないスピードでこちらに走って来ているのを。

「そこのお前止まれコラアアアァァァアアーー!!」

「ひっーー!?」

 私は革新した。

 アレは、色々とヤバイ奴だと。


 ○ ○ ○


「ふんっ!」

 番野は速度を殺す為、足を地面に差し込んで急停止を試みる。

 無論、これは《勇者》の肉体あってこそのものなので、通常の体で行うと足の複雑骨折はおろか、他の部位も間違いなく多大な損害を被る事になる。

(だー、クソッ! 嬉しくなってついスピード出し過ぎた! 中々止まらねえええ!!)

 ガリガリと地面が削れ、抉れる。

「止まれええええ!!」

 もう神頼みだった。

 しかし、どうやらそんなヤケクソな神頼みでも聞き届けた神はいたようで、番野の体は目標の人物を少し通り過ぎて止まった。

「よし。なんとか止まった……。さてーー」

 と、番野は振り返る。

 そして、その人物を前にして言った。

「子供、か? でも、お前が盗賊で間違いなさそうだな」

 すると、その少女はピクリと眉を動かして言う。

「盗賊? それは違うね。私は《怪盗》だ」

「そうか」

「あっ、何だその反応! 普通ここ驚くとこだぞっ!」

 番野のあまりにドライな反応に地団駄を踏んで怒り出す自らを《怪盗》と名乗った少女。

 しかし、当の番野はそれを全く意に介す事なく言う。

「まあお前が盗賊だろうが怪盗だろうがそれは俺にとっちゃどうでもいい話だ。俺が求めてるのはそういう事じゃない」

「なんだって?」

「まあ、いくら子供のやる事って言っても盗みはダメだからなあ〜。ここは一つ、目的に説教も組み込むとするか」

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