表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第四章 王都動乱
54/135

第53話 五〇〇人の包囲網

 ーー王都外周ーー

 そこでは、サヘラン公国から次々と空間転移で送られて来る連合討伐軍の兵士が外周を囲むように展開を続けていた。

 彼らの作戦は、外周を囲むように全兵士を配置して穴を潰し、徐々に徐々に円を狭めていく事で王都から脱出して来るクーデター犯を確実に制圧するというものだ。

 そして、向こうから送られてくる兵士は残り一〇〇と余人。総数五〇〇。その上、その全てがこれまで重要な遠征や任務の数々を遂行してきた、各国でも選りすぐりの精鋭達だ。全隊が送られ、展開を終えるまであと何時間だろうか。いや、半刻とかからないかもしれない。

 それに大変幸運な事に城の方では自分達が到着してから未だ大きな動きは無い。

(こちらの空間転移の魔術が妨害されていた分時間を浪費してしまったが、あの人数の魔術を妨害するとなると例え超一流の者だとしても解術ディスペルに専念しなければやっていられん筈だ。そして、それが止んでから我々が到着するまで約五分。これだけの時間ではいくら鍛錬を積んでいる者でも門の通過は不可能)

 と、いう事は、

彼奴きゃつらはまだ城内にいると考えて良い。既に脱出しているなどという可能性は万に一つ、いや、億千万に一つもありはせん)

 もはや事もなし。彼らには、これまで通り掌の上で面白おかしく動き回ってもらうとしよう。

 剣の柄を撫でる。賊の首を、国家に仇なす賊の深紅の血液を宙に舞わせるのを今か今かと待ち望んでいる自分の手をいさめるように撫でる。

 そして、既に頭の中で沸き立っている民衆の賛美の声を振り払うように頭を掻く。

 賛美されるのはまだ早い。結果は見えているが、まだ終わっていない目前の物事を見ろ、と自分に言い聞かせる。

(分かっている。分かっているとも。焦りは禁物だ。慢心は時に人を滅ぼす。だがそれでも、そうだと分かっていても、人というものは悦びを疼きを抑えきれんのだよ。何と業の深き命よ)

 軍を率いる男は、丹田に渾身の力を込めて声を張り上げた。

「よく聞け同士達諸君!! サヘランより送られる全兵士が展開し終えた後、合図の狼煙と共に作戦を実行する!!」

(そう。そしてその時こそ、我が願望の成就する時!!)



 ーー城内一階。大広間ーー

 そこには、空間転移魔法の準備を進める夏目の周囲を囲むようにして番野他三人が座っていた。

「おい、聞いたか今の。やっこさんら、そろそろ始めるみたいだぜ」

 城の内部に反響して聞こえてきた男の大声に、その場に座り込んでいた八瀬が声を上げた。

「どうやらそうらしいな。夏目、あとどれくらいだ?」

「あと少なくとも一〇分程度は……。何でも同盟の影響下の外は行った事がないので、座標の設定が……」

「そうか。せめて、敵の数と展開完了までのおおよその時間が分かれば良いんだけどなぁ……」

 番野が困ったように言うと、それまでどこか虚空を眺めて何か考え事をしていたプランセスが視線を番野に向けて言った。

「それなら、わたくしがお答えしましょう」

「え?」

「な、なんで?」

 その言葉に驚いたのは会話をしていた番野だけでなく、美咲も同じような反応を示した。既にプランセスの体質と能力を知っている八瀬、夏目は特に反応を示すことはない。

 プランセスは、とぼけたような口調で言う。

「『なんで』とは、私がどうして敵方の重要な情報をお教えできるのかという事でしょうか?」

「ま、正にその通りなんですけど……」

「まあ、あなた方にこの事を話すのはやぶさかではありませんが、その代わり、聞くと後戻りはできなくなると考えた方がよろしいですわよ?」

「え……」

「まあ、冗談ですけれど」

「ですよねー……」

 何故か遊ばれているように感じた美咲はトホホと肩を落とした。

「色々と言いましたが、安心してくださいな。私は必ず味方ですので」

「ま、そうじゃないと困るけどな。それで、お姫様は敵の情報を教えられるって言ってたが、それは本当か?」

「ええ勿論。詳細、大まか、破片、どの度合いにされます?」

「はい?」

 一瞬プランセスが何を言っているのか分からなくなった番野は、彼女と一応の知り合いである筈の八瀬に目で助けを求めた。

 すると、八瀬は無言で首を振った。

『付き合ってやれ』との事らしい。

 番野は小さくため息を吐くと、ずいと顔を前に出して言った。

「詳細で頼む」

「かしこまりましたわ」

 ここで、「嫌ですわ」とふざけて言ってこなかった事に番野は少し安心した。

 きちんと弁えてはいるようだ。

 そして、プランセスは敵方の情報について話し始めた。

「そうですわね〜。まず、敵の総数からお教えしましょうか」

「ああ」

「敵の総数は、約五〇〇人ですわ」

「おう。ーーへ?」

「敵の総数は、約五〇〇人ですわ」

「お、多くね?」

 俺達四人しかいないんだぜ? という言葉も暗に含まれた言葉だった。

「そうは言いますが、王都の周囲を取り囲んで脱出経路の穴を塞ぐにはこれくらいは必要ですわ」

「ああ、そうか。そんなのに正面から突っ込んだら即死ぬな」

「そうですわね。では、次。転移及び展開完了までの時間ですがーー」

 そこで、プランセスは一度考えるように俯く。

 そして、数秒後に顔を上げて言った。

「約三分後ですわね」

「夏目さん」

「はい。なんですか、番野さん? 急にわたしをさん付けなんかして。キャラが狂ってますよ」

「魔法の準備完了まで、あとどれくらい?」

「あと八分後ですが。ーーハッ!?」

「「ーーんなっ!?」」

「五分、向こうの方が早いですわね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ