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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第四章 王都動乱
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第51話 集結

 目を覚ます。すると、番野の視界に見知らぬ天井が映った。

 まだ僅かに混濁している意識を番野は覚醒させた。

 そして、上を向いたまま考える。


(あれ、俺今まで何やってたんだっけ? )


 どうしてこんな場所で寝ていたのか。寝るなら普通は布団かベッドではないのか。といった考えが次々と番野の頭に浮かぶ。


(だがまあ、目が覚めたんだからとりあえず起き上がろう。床も冷たいし)


 そして、起き上がろうと身動ぎしたところ。


「うぐっ!!? いってええ!! 」


 番野の全身を鋭利な刃物で切り裂くような激痛が走った。

 その痛みにつられてか、番野の脳裏にシュヴェルトに身体を斬られた時の映像がフラッシュバックした。

 幸か不幸か、そのおかげで番野は倒れる直前までの記憶を取り戻す事に成功した。


(そう、そうだった! 俺はシュヴェルトに滅多斬りにされて出血で気絶してたんだった。てか、なんで俺あんなショッキングな体験を忘れたりなんかしてるんだよ)


 その時の事を思い出すだけで番野の全身から冷や汗が浮き出てくる。

 生々しい場面を思い出して気分が悪くなったのか、番野は痛みを堪えながらも体を起こした。


「いっつつ……」

「あ、目覚めたんだ。体大丈夫?」


 すると、横合から声をかけられた番野は声のした方向に向いた。

 番野は、不安の中に安堵の混じった表情を見せる少女に言った。


「美咲か。ああ、激しく動かない限り傷は大丈夫だと思う。まだ結構痛むけどな」

「無理もないわよ。あともうちょっとで失血死しちゃうぐらい血が出てたのよ? て言うか、どうやってそんなボロボロの状態で勝てたのか不思議よ」

「ま、日々の積み重ねってやつかな」

「あーはいはい」

「む。なんだその反応は。それじゃあ俺が普段何もしてないみたいじゃないか、っと」


 と、膝に手を付いて番野はなんとか立ち上がり、隣に立つ美咲に問いかける。


「一つ聞きたいんだが、ここはどこだ? どっかの建物の中だっていうのは分かるんだが」

「ここは城の一階の大広間よ。ほら、そこにある扉が玄関よ」

「なるほどな。で、ここに来たのには何か理由があるのか?」

「まあ理由というか、呼ばれたのよ。お姫様に」

「お姫様だって? それってまさかーー」


「あらあら。王女を『それ』扱いとは。他の国だと即刻牢屋送りか酷くて死罪ですわよ? 」


「うわお!? 」


 突然背後から声をかけられ飛び上がるような勢いで振り向く番野。そこにいる少女は、ドレスを摘み上げて挨拶をする。


「どうも初めまして。わたくしはこの国の王女のプランセス=フローレと申しますわ。この度はご協力ありがとうございます。貴方が我が国の憲兵団長を打倒された、番野護様で間違いありませんね? 」

「は、はははい! 俺が番野護ですっ! 」


 いつになく背筋を伸ばして緊張した様子で答える番野に、美咲が呆れたように言う。


「緊張し過ぎでしょ」

「いやだってよ、お姫様だぜ!? お前は緊張しなさ過ぎなんだよ!」

「そうは言っても、普通に良い人よ?」

「だから? お姫様だぞお姫様! 緊張しない方がおかしいだろ! 」


 そうしていると、二人の様子を興味深そうに眺めていたプランセスが微笑んで言った。


「お二人共、仲が良いんですのね」

「「普通です!」」

「あらそうですか。ああそうそう。番野様、少し顔を前に出してくださる? 」

「あ、はい。これで良いですか? 」

「ええ、十分ですわ。それでは」


 と言って、プランセスは番野の頬に唐突に唇を当てた。


「…………ぁ」

「あ、あれ……? 」


 その行為に番野は思考を停止させ、美咲は目が点になっていた。


「クスクス。頑張ったご褒美ですわ。ああそれと、敬語はいらないですわよ。もう友人と同じような感じなので」

「あ、あーなるほど。わかりましたぁ〜」

「ちょ、番野君しっかり! 」

「あらあら。少し刺激が強かったのかしら」


 やっちゃったとばかりに舌をペロッと出すプランセス。


「王女。あまり番野さんをいじめてあげないでください」


 すると、どこからか現れた夏目がプランセスに言った。


「別にいじめてはいませんわ。少しご褒美をと」

「この人にとってそれが十分過ぎる刺激なのですよ。察してあげてください」

「なんで、俺が小学生如きに察されないといけないんだ……」

「大丈夫ですか番野さん? 傷は浅いです」

「浅かねえよ。ばっちり深いわ」

「はいストップ。一度時間をくださる? 」


 プランセスはパンパンと手を叩いて注目させる。その表情はふざけていた時と違い、至って真剣だ。


「まだ八瀬様が来ておりませんが、報告しますわ。夏目ちゃんが同盟の連合軍の魔術師達の転移魔術を防いでいたんですが、つい先程夏目ちゃんが限界に達してしまいました。もう間も無く王都周辺に連合軍が転移してきますわ」

「そ、そうなのか? 」

「はい。ですが心配なさらず。ここにはとても優秀な《魔法使い》がいます。八瀬様が来たら、同盟の影響下の外に転移すれば何も問題ありませんわ」

「でも、アンタは……」

「私は心配いりませんわ。なにせ王女ですもの」

「それなら、良いんだが」


 胸を張って言うプランセスに、番野は少し不安そうに言った。

 プランセスは、それを特に気にする様子もなく夏目に指示を飛ばす。


「夏目ちゃん。貴女はいつでも転移できるように術式を展開しておいてくださいな」

「はい。それと、夏目『ちゃん』は止めてください」


 と、頬を膨らませて言うと、夏目は跳躍魔法の準備を始めた。



 ーー城内。二階廊下ーー


(あと、少し。あと、少しだ……。もう少しであいつらに……)


 ドサリと八瀬はその場に膝をついた。


「かはっ……」


 そして、まるで塊のような血を吐いた。

 それだけで、一体何ccの血を吐いたのだろうか。

 失血の為に、八瀬の意識は既に遠のきつつある。


 しかし、『それら』は、そんな八瀬を強く突き動かす。


 自分の事を、何故だか『師匠』と呼び慕ってくる少女。

 成り行きの結果ではあるものの、自分の計画に沿ってきちんと動いてくれている少女。

 頭はキレる方だが、時折突拍子も無い事を言い出す、どこか抜けた少年。


「行か、ねえと……。あいつらが、待って、る……」


 八瀬は壁にもたれかかりながら立ち上がり、ヨロヨロとした足取りでまた歩き始めた。


 ーー終わりが、近付く。

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