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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第四章 王都動乱
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第50話 そして両者は対峙する

(罠がある可能性もある。注意して行かねえとな)


 そう思い、八瀬はノブをゆっくりと回し、細心の注意を払ってドアを開けた。

 そして、周囲に意識を集中させながら部屋に一歩踏み込んだ。


(よし。罠は無い。あとは室内にだけ注意をーー)


「ほう。先程この階で騒ぎがあったようじゃが、貴様の仕業だったか」

「っ!? 」


 唐突に声を掛けられて、気を引き締める。


 ふと前を向くと、部屋の奥の方にある立派な座にいつの間にかなかなかに年を食った男が座っていた。

 突然の出来事に戸惑う八瀬だったが、その男が王であると認識するのには一瞬の時間も必要としなかった。


「お前が……」

「いかにも。ワシがこの国の王、ヴァイシュだ。して、ワシの前に立つ若僧よ。名を何という? 」

「八瀬。八瀬巧だ」

「ふむ……」


 と、八瀬の名を聞いたヴァイシュは顎にたくわえた髭をさすって考える様子を見せる。


「聞かない語感の名だな。ここらでという範囲ではなく、世界中でという範囲でだ。貴様、どこから来た? 」

「さてな。そんな事、お前に話す必要があるのか? 」


(いきなり“どこから来た”と来やがった。どんな頭のキレしてんだ? 流石に腐っても一代で国をここまでデカくした頭脳は伊達じゃねえって事か)


 しかし、その裏で起こっていた事もまた事実。八瀬は、そんな人間があのような事を許しているのかと、心底勿体無いと感じた。


「それで、そんな貴様がワシに何の用だ? 」

「単刀直入に言う。お前の首を獲りに来た」

「ほほう、そうか。では、出来るものならやってみるといい」

「何?」


 八瀬は思った。


 なめているのか、と。


 あのような挑発的な言動を取っておきながら、自分は座に深く腰掛けて肘掛けに頬杖を付いている。何か仕掛けられても対応出来る余裕があるのかと思える程の態度を見せている。


(何か考えがあんのか? それとも、ハッタリか……。どっちにしろ、俺がこいつを殺らねえと事は進まねえんだ。何があってもこいつをーー)


 その時、八瀬は気付く。ヴァイシュの瞳が、よくよく見れば自分に向けられていない事に。

 その瞳の見つめる方向は、八瀬のさらに奥。開け放たれたドアの向こう。


(しまっ、ーー!? )


 次の瞬間、八瀬の腹部を一本の刀剣が貫いた。


「か、がはッ……!? 」


 ヴァイシュは、堪らず口から血を吐く八瀬を見て言う。


「“その体”で、出来るものならな」

「…………!! 」


 剣が引き抜かれると、八瀬はすぐさま後ろを向いて倒れ込む兵士に憤怒の視線を向ける。


「テメェ、邪魔すんじゃねえよ……!! 」

「ひっ……」

「お返しだ……、取っとけ」


 言って、八瀬はマリオネットを操作する人形師のように指を動かす。

 すると、バッサリとまるで豆腐でも切っているかのように綺麗に兵士の右肩が切り落とされた。


「あ、があああああ!! 」

「ふん」


 と、不機嫌そうに鼻を鳴らすと八瀬は王に向いて歩き出した。


(やられた……。思ったより出血が多い。とっとと終わらせねえとこっちが先に参っちまう……)


 蛇口から流れる水のような勢いで流れ出る血は八瀬が歩くにつれて豪華な絨毯に赤い道を作っていた。


 そして、両者は対峙する。


 互いに己の敵である人間を見据え、互いの武器に手をかける。


 すると、八瀬がヴァイシュに向かって言った。


「……一つ、良いか? 」

「何だ」

「スラム街での出来事。あれは、お前が主導してやってやがったのか? 」


 その質問に、ヴァイシュは僅かに口角を上げて答えた。


「無論。この世は弱肉強食故に。負けた者は人ではない」

「そうか。安心したぜ」

「ーーッ! 」


 言いながら、八瀬は腕を動かす。


 すると、その動作を見て何かを感じ取ったのか、ヴァイシュは剣を抜こうと手に力を込めるが、どうしてか剣は微動だにせずに鞘に収まったままだ。


 そこで何をされたか察したヴァイシュは恨めしい表情で八瀬を見る。


「小僧、貴様……! 」

「これで心置きなくお前を殺れる」


 直後、重力の影響を受けて、ヴァイシュの首が床に転がった。



 ーー城内、地下ーー


「八瀬巧が役割を完遂いたしましたわ。あとは貴方だけですわよ、可愛らしいお嬢さん? 」

「分かっています! でしたら、少しは姫も手伝ってくださいよ! 」

「そういう訳にもいきません。姫は助けられるまでが仕事と相場は決まっておりましてよ? そういう事なのでよろしく頼みますわ」

「いやいや、解術(ディスペル)って結構難しいんですよ? それも五十人の宮廷魔術師の転移魔術をさっきからずっと解術してるんですよ!? もう頭から煙が出そうなんですが!!? 」

「もう出てますわよ?」

「え!? 出てるんですか? 」

「冗談ですわ」

「気が散るのでやめてくださいっ!! 」


 無事城の地下牢に辿り着きプランセスを救出した夏目は、他の三人と合流するために一階の広間を目指していた。


 しかし、途中でプランセスから、会議が終了し同盟が討伐隊を組んで転移の準備をしていると聞かされて少しでも討伐隊の到着を遅らせて時間的余裕を作ろうと、夏目はプランセスの手を引きながら解術に勤しんでいた。


 解術は、魔術を行使する際に使う術式を一から解析してその式を分解するという高度な技術だ。それに、術式にも個人差があるため全ての魔術が同じパターンで解術できるとは限らない。


 それに、夏目が今相手をしているのは魔術の中でも最高クラスに困難とされる転移魔術を行使してのける、一流の魔術師達だ。

 彼らは一度解術されると次は違う方式で即座に術式を立て直すので、正確さだけでなく術式を読み取って分解するまでのスピードが要求される。


 夏目は、ただでさえ困難なそれを同時に五人分行う事により数の不利を何とかイーブンにまで持って来ている。

 そのため脳に大量の負荷が掛かっている夏目の顔は発熱で真っ赤になっていた。

 歩きながら、夏目は隣にいるプランセスに言う。


「あの、せめて術式の解析だけでも良いので手伝ってください! 」

「そうですわね〜。まあここで作戦が頓挫してしまっても困りますし、私も加わりましょう。しっかり解術してください? 」

「どうして、そんなに、偉そうなんです、かっ!? 」

「だって私、王女ですもの」


(ああ……。本当にこの人で大丈夫なのでしょうか、師匠? )

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