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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第四章 王都動乱
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第48話 思いと義務

「ぁ、…………は? 」


 シュヴェルトの口から発せられた言葉の意味が分からないと、言おうとしても言い出せない程に番野はその言葉に衝撃を受けていた。


「何を言ったか分からないといった表情だな」


 そう、心中を代弁されても尚言い返せない程。


「もう一度言おうか? 奇遇だな。私も同意見だと言ったんだ」

「あ、でも、アンタも加担してるんじゃ……」

「そんな訳ないだろう。寧ろ私こそ最初に行動を起こした人間だ」

「な……」

「そんな信じられないような顔をされてもなあ。アレを見れば真っ先になんとかしたくなるのが普通の人間の思考というものではないのかな? まあ、残念ながらウチの憲兵団や政府上層部にはその考えが出来ない者が多くいるのだが……」


 そして、シュヴェルトは苦虫を噛み潰すような表情をして言った。


「残念な事に、アレは政府上層部の一部の人間が始めた国家の絡んだ問題なんだ。それに、憲兵団の人間が同調して今に至っている。私は私を支持してくれている団員と共にこれまで幾度となく調査を行ったが、政府に上手く躱され、何れもトップの足取りを掴むには至らなかった」

「だったら」

「まあ聞け。私も一度は今の君達のような考えを思い付いた。思い付いたのだが、立場上の問題で手を出すことが出来ずにいた。

 だが、そこへ来ての君達だ。私は、今この時こそこの国を変えられるチャンスだと思っている。私は、君達に多大な期待を寄せているのだよ。王女も、と言った方が良いか」


 番野は首を傾げて問う。


「だったらますますアンタが俺の前に立っているのか分からない。そんなに思っているんなら、どうして俺らの側に付かないんだ? アンタがいれば、もっと上手くいくのに」

「そうだな。ああその通りだろうとも。今からでも私がそちらに加われば、この作戦は倍の速度で完了され、連合軍の到着までいくらか時間が稼げるだろう。だがね、それとこれとは別なんだよ」

「何がだ? 」

「つまりだね、『今すぐにでも君達の側に立って戦いたい』という私の“思い”と、『憲兵団長として国を守る』という私の“義務”とは話が別だということだ」


(思いと義務、ね……)


 目を伏せ、残念そうに話すシュヴェルトに番野は同情の念を抱いた。


 自分がどれほど「ああしたい」「こうしたい」と思っていても、立場に課される義務一つのせいで叶わない物になってしまう。例え自分のやりたい事が善行で義務での行為が悪行になってしまうとしても、悪行を為すしかなくなってしまうのだ。


 シュヴェルト自身も、今こうして番野の前に立っている事、現国王の下にある事に疑念を感じている。だが、『憲兵団長』という、国を守る組織のそのトップである人間が国に反逆すれば少なからず遺恨を残す事になる。


 そうする事でスラムの人間は良く思うかもしれないが、普通に表で暮らしている人間、特に貴族などの政府に深く関わっている者らからは批判を買うだろう。それは、最悪自分の身だけでなく、王位に就く事になるであろう王女にまで影響を及ぼしてしまう。


「なるほど。難儀な事だな……」

「ふ。そうだろう? 」


 と、シュヴェルトは自虐的な笑みを浮かべる。


「だからな、私はこの国への最後の忠誠をここで全力を以って示す。君には、それを完膚無きまでに打ち砕いて欲しい」

「おう。任しとけ。望み通りアンタの全力を完膚無きまでに全力で打ち砕いてやるよ」

「……君が、私の相手で良かった」


 互いに相手を見据え、構えを取る。

 互いに一歩踏み出すだけで必殺の間合い。


 そして、一瞬の睨み合いの後、互いの信念、覚悟、思いが交錯する。


「ーー『紫電一閃』!! 」

「ーー『壱のおう・天地両断』!! 」


 ドッ、と地面に重たい物が倒れる音と共に、その場に立つもう一人が雷雲の晴れた天に拳を突き上げた。


 ーーアウセッツ王城中庭にて。番野護つがのまもる対シュヴェルト=リッター=ブリッツ憲兵団長戦。勝者、番野護ーー

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