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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第四章 王都動乱
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第47話 多対一

 一方、美咲は。


(あーもう、キリがない!! 数が多過ぎる!!)


 周囲を兵士に囲まれ、半ば混戦状態となっている戦場を駆け回っていた。


 一瞬たりとも動きを止めれば周囲の兵士に瞬く間に取り押さえられてしまうからだ。いくら《勇者》としての力を持っていても、訓練を施された何十人もの屈強な兵士に組みつかれては為す術が無い。


 それに、美咲が相手取っている兵士らは皆が剣や斧、槍といった近接装備という訳ではない。一部とは言え、一国の軍事を担っているのだ。彼らの持つ武器の中には勿論ーー。


(やっぱり、弓矢もあるのよねっ!!)


 視線を飛ばした先に、自分を狙う射手の狙い澄ました鋭い眼光があった。


 次の瞬間、射手が矢を放った。


(まずっ……)


 矢は、高速で動き回る美咲の挙動の先を潰すように飛来する。高速で動いている為、いくら《勇者》としての力を持っているとしても咄嗟に動きを修正する事は困難だ。


(だから、こうするわ!)


 一瞬たりとも動きを止めず、高速に流れる景色の中でただ一点の矢尻を見ながら、自分の剣を投擲した。

 投擲された剣は鉄で出来た矢尻を紙のように裂き、そのまま真っ直ぐ飛んで行く。

 一時的に武器を手放す事になるが、何も何処までも飛んではいかない。いずれは“何処か”に当たって止まる。例えばーー


「うぐ、がああああ!! 」


 矢を射った兵士とかだ。


(ちょっとエグイ事しちゃったわね……)


 何はともあれ、剣が動きを止めたのだ。後は早急に剣を回収する他ない。


 美咲は申し訳ない気持ちをその場に捨て置き、最高速に達したまま前方の大柄の兵士に向けて跳躍するとーー


「よっと」

「がはぁッ!? 」


 その体を蹴って空中で無理矢理方向転換した。

 ひらりと宙を舞う様はまさに一輪の花のように美しい。が、この花がもたらすのは艶やかな満開の様などでなく、ただの破壊。


「もらったあ!! 」


 ほとんどの兵士がその見事なまでの宙返りに見惚れている中、一人の兵士が剣を空中で背を向けている美咲に突き出す。


 良い判断ねと、美咲は背中に感じる殺気を評価した。


 武器を持たず、敵集団のど真ん中で宙返りを行っている人間などただの動く的に過ぎない。それも、動いて行く先は右でも左でもなく重力に引かれて下に行くだけ。どんなに身動みじろぎしようとただ落ちて行くだけなのだ。


 それを狙って突くなり斬るなりするのは至極簡単なこと。


 だが、だからこそ、そんな常套手段は気配を感じることに長けている美咲にはお見通しだった。


「ほっ」


 だから、美咲は体幹に力を入れて一気に脚を振り上げ、体をさらに半回転させたのだ。


 先程まで自分の体があった空間を剣が貫くのを見ながら、その兵士の真後ろに鮮やかに着地し、自分の剣の下へ駆け出した。


 距離にして凡そ二五メートル。そう長くはない距離だが、障害があれば話は別。


「そうは」

「させるかよ! 」


 美咲の目の前に二人の兵士が立ちはだかり、同じタイミングで剣を横に薙ぐ。


(避ける、のはちょっとしんどいかな……)


 走りながらふと横を見る。すると、手に持つ武器の他に腰に小型のナイフを提げている兵士を見つける。


「ちょっと借りるわね! 」

「あっ」


 そして、掠め取ったそれを正面に突き出し、二振りの剣の交差点に刃を当てて攻撃を止めた。


「なっ」

「にぃ!? 」

「下、失礼するわ! 」


 美咲は、ナイフで止めた剣と剣との下に滑り込み壁を突破すると、残りの数メートルを一気に駆け抜けた。


「はいっ、取った」


 そう、剣を取り満足気な表情で言った。


(やっぱりさっきみたいなナイフより、これくらいの剣が一番馴染むわね)


 そして、いつものようにそれを中段に構えて言った。


「そろそろ後半戦ね。攻勢に出るわ! 」


 ○ ○ ○


「引きさがれん理由、か。差し詰め、王都のスラムで行われている事に関係しているのだろう? 」

「何? 」


 何食わぬ顔で言ったシュヴェルトに、番野は若干の苛立ちを込めて問い返した。


「アンタ、どうやって知った? 」

「ふん。君のようなまだ王都に来て日の浅い人間がこんな計画に加担する理由は、まあそれぐらいのものだからな。だが、ふむ。君がどうやって知ったかが気になるな。誰かに手引きでもされたのかな? 」

「いいや。たまたまだ。たまたま迷い込んで、アンタんとこの副団長ともう一人が殺してるのを見た。加えて言えば、初めてアンタに会ったのはその後だ」

「ほう、たまたまか。それは来て早々運が悪かったな。で? それを見て君は何を思った? 」


 そう言って、シュヴェルトは試すような視線を番野に送る。


(なんだ、こいつ? 意図が掴めない。どういうつもりだ?)


 内心で疑念を抱きながらも番野はシュヴェルトの問いに答える。


「最初見た時は、はっきり言って言葉も出なかった。なにせ人が殺されるのを見たのはあれが初めてだったからな。だがそれから、本当なら国民を守る筈の憲兵が、いや、国自体があんな事をやっていると分かって俺はこの国は間違っていると思った。だから、なんとかして変えるべきだと思った」

「そう、か」


 ふふ、とシュヴェルトは小さく笑い、もう一度番野を見据えて言った。


「奇遇だな。私も同意見だよ」

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