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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第四章 王都動乱
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第45話 嵐の剣戟

「ーーッ!! 」


 最早、それは凡そ人の動きを逸脱していた。


 亜音速の突き。

 それを真正面からもろに剣で受けた番野は、腕の骨が軋んで悲鳴を上げているのを感じた。いや、それだけではない。防御した自分の体が、そのまま後ろに押し込まれていたのだ。


 吹き飛ばされまいと踏ん張った為に足は地面を抉って半ば地中に埋まり、体全体が衝撃に痺れている。


 だが、これがまだこの程度で済んでいるのはやはり能力の恩恵によるものだろう。


 普通の状態で受ければ間違いなく初手で死んでいた。

 番野は、超常の出来事を受けて理解の追い付いていない頭でそれだけは確信していた。


「まさか、これを受け切るとは。君は、一体どんな体の構造しているんだ? 」

「それはこっちのセリフだぜビックリ人間……! 何だそれは。体から電気なんか出しやがって……」

「これは私自身に備わっている力じゃない。言わば副産物のような物だ。だから私の体について心配は要らないぞ? 」

「どこらへんにだっ!! 」


 目一杯の力で剣を弾く。


 すると、身軽な女性の体は容易く宙を舞った。

 敵との距離が一旦離れた番野は、不測の事態に揺らいだ精神を整えようと深呼吸をする。


 そして、呼吸を整えた番野は、不敵に笑うシュヴェルトから視線を離さず美咲に言った。


「行け。お前はお前の仕事をこなせ」

「…………、ええ。分かったわ」


 そして、彼女も。


「あの少女の相手はお前達に任せる。数で勝るからといって、決して慢心はするな」

『ハッ!!』


 そのやり取りを皮切りに、両陣営は二手に分かれるように一斉に駆け出した。


 ○ ○ ○


 一方、城内。一階通路。


 そこで、八瀬は事前に城内中に仕掛けておいた罠の起動準備に取り掛かっていた。

 罠と言っても、以前のような落とし穴や槍衾のような古典的な物ではない。


「よし。一階の起動準備は完了だな」


 そして、設置場所から離れた八瀬は、周囲に気を配りながら上に続く階段を目指す。


(まあ、使わねぇのが一番なんだがな……)


 ○ ○ ○


「はあああああ!! 」

「ふっ!」


 番野の振り下ろした剣をシュヴェルトは体を捻るだけの最小限の動作で回避する。だが、これは番野も予想できていた。


今はまだ(・・・・)こいつの方が技術が俺より上だ。早く、早く感覚を思い出さないと……!)


 躱された剣を返す刀で斬り上げる。


 が、


「ーーなっ!? 」


 剣が動かない。

 何故、そう思う番野の視線はすぐに正解を捉えた。

 斬り上げようとする剣の剣先をシュヴェルトが踏みつけていたのだ。


 瞬間、隙が生じた番野の首を狙ってシュヴェルトの剣が振るわれた。


(剣を離す訳にはいかない……!!)


 番野はその攻撃を上体を後ろに反らせて紙一重で回避する。いや、正確には回避し切れていない。剣先が僅かに番野の首の皮を裂いていた。だが、そんな些細なことを考える余裕も感じる余裕も今の番野には無かった。


 剣が首を掠めた。

 血が流れている。

 痛い、怖い。

 自分はもしかすると殺されるのではないのだろうか。


だからどうした(・・・・・・・)!! そんなことに思考を割く余裕は無い!! そんな余裕があるなら全てを反応に、反射に、攻撃に回せっ!! )


 番野は剣を無理矢理引き抜き、返ってくる刃を剣の腹受けた。


「ふむ。なかなか良い動きじゃないか。……だが、そうでなくてはなぁっ!! 」


 すると、両手を使って剣を支えている為にがら空きになっている横腹に容赦の無い蹴りが入る。


「く、はっ!? 」


 息を吐き出してよろめく番野にシュヴェルトは追い討ちを掛ける。

 その剣戟の勢いたるや、正に嵐の如し。


 圧倒的な速度と技術で振るわれる剣は、一撃一撃が必殺に相当する。

 痛みや恐怖といった余計な思考を捨てた番野だったが、徐々に体のいたるところに傷が目立ち始めた。


 それは、シュヴェルトが番野の動きを見切り始めたことを意味している。動きを見切られてしまえば番野は確実に次の一手で剣の錆となることだろう。


 さらに、番野を追い込んでいる原因はこれだけではない。


 シュヴェルトの繰り出す剣戟の速度が徐々に加速していっているのだ。


 初めこそこの殺意の嵐を受け流していた番野だったが、今はもう防御が間に合わず、体に傷を作る頻度が五撃に一つ、四撃に一つ、三撃に一つと多くなっている。このままでは最早どこかで斬り伏せられるのが目に見えている。


 ジリ貧だ。


 だが、それだというのに。番野は。


(くそが……! こんな最悪の状況だって言うのに、なんだってこんなに楽しいんだ!?)


 追い詰められて、幾度も斬られ、今となっては防御すらままならないというこんな最悪と言うよりは必死と言った方が良いこの状況を、事もあろうに番野は楽しんでいた。


(笑っているのか……?)


「ふふっ」


 剣戟の隙間から垣間見えた番野の顔が密かに笑っていたのを見て、シュヴェルトも同様にそれまで隠していた喜びを表に出した。


「そうか、そうか。君も、楽しんでいるんだな? この状況を。この戦闘を。ならば、もっと楽しもうじゃないか! 私の敵よっ!! 」

「ぐ、おおおおおおおお!! 」


 時折深い傷を負いながら後退する番野は、斬り合いを楽しむ半面、内心でこうも思っていた。


 そういえば、こんなに楽しいと思ったのは何時ぶりだろうかと。


 そして。


(そうだ。俺が、こんなに楽しんでたのはーー)


 その時。シュヴェルトは己が繰り出す剣の雨中に“異物”が入り込んできたのを感じた。


 ほとんど音速に近い速度で一切の隙間無く振るわれていた剣戟の間を縫うようにして割り込んで来る物は、間違いなく番野の剣。しかし、


(見えないッ!?)


 驚愕するシュヴェルトが反射的に体を仰け反らせると、右の肩口を番野の剣が捉えた。


「ぐっ! 」


 何かが変わった。そう思ったシュヴェルトは、後ろに跳んで番野から距離を取った。


「よーしよしよし。戻ったぞー」


 そう言った番野の顔には、確かな自信が現れていた。


「……何が戻ったと? 」


 怪訝な表情で尋ねるシュヴェルトに、番野は最初の仕返しと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべて言った。


「“感覚”だよ。悪いが、ここから先は俺が貰っていく! 」

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