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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第三章 王都動乱ー準備ー
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第41話 狂う計画

『オイ。オイオイ。なんかすっげー見られてるんだが? なんかすっげー情けない目で見られてるんだが!? 』


 と、八瀬は隣に立つ番野に目で訴えかける。どうやら番野もその意図に気付いたらしく、同じくアイコンタクトで返す。


『大丈夫だ。バレてない』

『いやいや、バレてなくてもバラした時に変な反応されたらどうするつもりだ! 』

『その時は、その時じゃね? 』

『絞めるぞコラ! 』


 すると、番野と八瀬が器用に会話している横でそろそろ注意しようかと剣の柄を撫でていた美咲が様子の可笑しい客の対応に困っている夏目に気付いた。


(完全に変な客だと思われてるっ……! 追い出されたらダメだわ! )


「コホン」


 と、咳払いと同時に美咲は右手で八瀬の背中を叩いた。


「さあ、早く選ぶのよ。私達もそこまで暇じゃないの」

「あ、ああ。言われなくても分かってるっての」


(今の美咲、妙に様になってたが……)


 そう思いながら、八瀬はパンの並ぶ棚に目を向けた。


 そこには色々なパンが種類毎でカゴに分けられており、商品名だろうか、プレートには見慣れない文字と数字が書かれている。


(初めてこいつを見た時は全く以って訳が分からんかったが、今はもうスラスラ読める。こっちで伊達に二年間過ごしてねぇって事か)


「嬢ちゃん」


 そう、声を変えて八瀬は言った。


「なんでしょうか? 」

「ここに並んでるパンは、誰が作ってるんだ? 見たところこの店には嬢ちゃんしかいないみたいだけど」

「いえ、もう一人奥に店主さんがいます。ここのパンは全て店主さんが作った物です」

「そうなんだ。嬢ちゃんは焼かないのかい? 」

「わたしはまだ修行中で……。こうして店番をしているのです」


 そうかいそうかいと、八瀬は頷きを返した。

 そして。


「ところで、店主さんは男? それとも女? 」

「変な質問をするなっ」


 グリッと番野の靴の踵が八瀬の足にめり込む。


(うぐぅっ!! こいつっ! 役割上立場が上だからっつって好き勝手やりやがってぇ!! )


 しかし、猛烈な痛みと怒りに苛まれながらも笑顔を崩さないあたりなかなかの演技派である。


「男の方ですが……? 」

「そ、そう。女だったら良かったんだけどなぁ〜。どうせなら最後は女の人の焼いたパンを食いたかったんだが……」


 すると、返事に対して妙に『女』を強調しながら夏目を見て言う八瀬に、夏目はもじもじと言いにくそうにしながらも口を開いた。


「あ、あの、よろしければわたしが……」

「ん? なんだい? 」

「よろしければ、わたしが今からお作りしますがっ」

「あ、本当? じゃあお願いしようかな」

「は、はい! 少しお待ちくださいっ」


 そうして嬉しそうに返事をして、夏目は店の奥に消えていった。


「おい八瀬」

「なんだよ? 」

「さてはお前、ただ夏目のパンが食べたかっただけだな? 」


 その言葉に八瀬は驚いたように目を開いてから、フッと笑った。


「ま、それもあるな。あいつ、俺と会う前は路地裏で子供らと一緒に生活してたんだよ。

 そのせいか、境遇の恵まれてないやつに対して何かしてやろうって熱心になる癖があるんだよ」

「へぇー。つまり、君は囚人っていう立場を利用してその恩恵を受けようとしたと」

「ん。何故か言い方にかなり棘があるが、まあそうだ。俺のままだとまた違う反応だったんだろうが、慣れた相手に接客するんじゃ意味が無い。初めに言ったろ? ちゃあんと目的があんだよ、こっちには」

「ただのロリコンじゃなかったか」

「そいつは聞かなかったことにしといてやるよ。ロリコン」


 その様子に、なんだかんだで仲が良いんだなぁと、美咲は思った。


「ところでよ」


 番野が言い出した。


「パンってどれくらいで焼けるんだっけ? 」

「全ての工程を合わせりゃ、だいたい四十分くらいじゃねぇか? 」

「なるほど」


 ○ ○ ○


 その頃。王都中心地、城門前。


 国の象徴たる王城の城門が、様々な重みを感じさせる音と共に開かれた。


 その奥ーー王城よりやって来るのは、アウセッツ王国の軍隊も兼ねる王国憲兵団の憲兵達だ。その先頭には、我が物顔で憲兵らを束ねている副団長の姿があった。


(悪く思うなネズミ共。

 少々、会議の日程を早めさせてもらったぞ。貴様等は会議当日、団長を含めた大多数の戦力が王都から消えるタイミングを見計らって反乱を計画していたらしいが、それは軒猿の報告でお見通しだ。

 俺様の出世のため、貴様等を利用させてもらう)


 補足だが、何故会議にこうして兵を連れて行くかと言うと、護衛の意味もあるのだが、大きくは現状の兵力を他国に披露するという意味も会議には込められているからだ。


 副団長は一瞬酷薄な笑みを浮かべた後、その表情をまるで魔物討伐に出立する勇者のような勇敢なものに変えると、張りのある大きな声で宣言した。


「これより! 我々はサヘラン共和国へと出立する! 」

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