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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第三章 王都動乱ー準備ー
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第39話 夏目の職場襲撃隊ー結成ー

 美咲は、地面に寝転んだ状態のまま番野に言った。


「番野君ってさ、この世界に来る前は何をしてたの? 」


 突然の問い掛けに番野は驚いた様子で答える。


「何? 何って、普通に学校生活を送っていたが」

「ま、まあそれはそうだけどっ。私が聞いてるのはそうじゃなくて、君に武道の経験があるかどうか聞いてるの」

「ああ、なるほど」


 番野は得心したと手を打った。


「俺の実家が道場でな。まあほとんど嫌々だったが、武道はあらかた経験済みだ」

「へぇ〜。家が道場だったんだ。流派は? 」

「流派、ねぇ。あまり有名じゃないから知ってるかどうか分からないが、一応『武修創己流ぶしゅうそうきりゅう』って流派なんだが」

「…………」


 流派の名前を聞いて、何か引っかかる物はないかと懸命に記憶の海を漁る美咲だったが、知らない物は知らないので引っかけようにも引っかからない。


「…………」


 だが、自分の属する流派の名前を「知らない」「聞いたことがない」などと言われて少しも傷付かない武道家はいないだろうと思った美咲は、何とかして答えを捻り出そうとする。


 番野は、そのこちらを傷付けまいと奮闘する美咲の様子に心なしか胸を痛めた。


(ごめん。めちゃくちゃマイナーだもんな、俺の家の流派)


「ごめん番野君。聞いたこと無いその流派」

「いや、大丈夫だ。あまり有名じゃないっていうのは、分かってたからな。それより、美咲も剣道とかやってたんじゃないか? 何だかすごく動きが滑らかというか洗練されてたから」


 すると、それまで普通のテンションだった美咲が目を輝かせて言った。


「よく聞いてくれたわねっ! 剣道三段、インターハイ二位! それが私の自慢なのよ!! 」

「い、インターハイ二位!? 俺、そんなやつと剣を合わせてたのかよ……。じゃあ、あそこで体術に切り替えたのは正解だったって訳だ」


 番野が言うと、美咲がその時の事を思い出したのか、悔しそうに言う。


「本当よ。あそこからまた番野君が剣で戦ってくれたら、見切れてたかもしれないのに……。まさか体術まで上手だったなんて思いもしなかった」

「まあ、そんな褒められるほど上手くはないがな。と、そうだ。体が冷えるとマズイから、そろそろ戻ろうぜ」

「そうね。そうしましょ」


 番野の提案に美咲が乗り、剣を収めて戻ろうとすると、ドアが開いて夏目が顔を出した。


(お? 夏目も結構朝が早いんだな)


 番野はドアから半分だけ顔を出している夏目に声をかける。


「おはよう夏目。お前も朝早いんだな」


 すると、夏目が二人に存在に気付いて挨拶を返した。


「あ、番野さんに美咲さん。おはようございます。その様子だと、お二人は朝練を終えた後のようですね。お疲れ様です」

「おう、ありがとな。それよりも、夏目こそこんな朝早くにどうしたんだ? お前も朝練か? 」

「いいえ。わたしはこれから仕事に出かけるところです」

「仕事? 」


 と、目を丸くして間抜けた声で言った番野に夏目は言う。


「はい、そうですよ。パン屋でバイトしてます」

「へぇー。そんな年で働いてるなんて、すごいのね」


 美咲に褒められて嬉しそうに少し顔をほころばせる夏目。だが、すぐにハッと何かを思い出したかのようにして言い始める。


「あ、でも来たらダメですからね!? 絶対ダメですからね!? 」


 そんな、芸人の振りのような発言に、「だったらーー」と言いかけた番野は口元で止めた。

『押すなよ!? 絶対押すなよ!? 』という振りはあまりにも有名だが、まだ小さい夏目はまだそれを知らないだろうと思ったからだ。


「ーーーー」


 そうしていると、夏目が小さく早口言葉のように何かを呟いた。


 すると、夏目の足元に小規模の魔法陣が広がった。


(空間跳躍!? おいおい、ただ仕事先特定されたくないからってその使い方は豪華過ぎないか!? )


 番野が内心でツッコんだ次の瞬間には、魔法陣の光は収束し、夏目の姿もこの場から消えていた。職場となるパン屋の近くに移動したのだろう。


「行っちゃった」

「だがなぁ、空間跳躍使ってまで見られたくないってどんだけだよ。授業参観とかどうしてたんだよあいつは」

「でも、気になるわよね。あそこまでされたら」

「ああ。すごく気になるな。絶対来るなとか言われたけど行きたくなってしまったぜ」


 番野がいやらしい笑みを浮かべると、美咲も同様にニヤリと口元を歪める。


「ふぁぁ……。あ? おいお前ら。そんなとこでニヤニヤ趣味の悪い笑顔浮かべて何やってんだよ? 」


 と、どうやら寝起きらしい八瀬が眠気まなこを擦りながら外に出てきた。顔を洗いに来たようだ。


 だが、今の番野と美咲はそれすら許さなかった。

 フラフラと出てきた八瀬の姿を見るなり彼に詰め寄り、質問をぶつけた。


「おはよう八瀬。寝起きで悪いが、夏目の働いてるパン屋って知らないか? 」

「夏目ちゃんがね、『押すなよ!? 絶対押すなよ!? 』みたいな振りをしてきたから、これは行かないといけないと思ったのよ! 」

「あ? 何だお前ら落ち着けよっ。そもそも、働いてる時間帯に行かねぇと意味無ぇだろうが」

「確かにそうだが、とりあえず今は場所さえ分かれば良いんだ。場所さえ分かってれば、的確な時間帯に行けるからな! 」

「何なんだ今日のお前らは……。何か変なモンでも食ったのか? 」


 と言いながら、八瀬は妙な物を見るような目で二人を見る。


 とは言ったものの、八瀬自身夏目の働きぶりが気になっていない訳ではなかった。


 曲がりなりにも『師匠』と呼ばれている立場(本人は何故そう呼ばれているか分かっていないが)で、二年以上の付き合いなのだ。興味以外にも、保護者の観点から純粋に不安もある。


(俺も来るなと一応釘を刺されちゃあいるが、こいつらと一緒に行けば案外済し崩し的になんとかなるかもしれねぇな)


 そこまで考えて、八瀬は番野と美咲の肩に手を置き、二人に意地の悪い笑顔を向けて言った。


「店の場所と名前は一応聞いてんだ。俺が案内してやるよ……」

「そうこなくっちゃな」

「流石ね、八瀬君」

「朝はまだ忙しい時間帯だろうからな。決行は客足が落ちるであろう昼時だ」

「「了解であります!! 」」


 ここに、夏目の保護者と愉快な仲間達による『夏目の職場襲撃隊』が結成されたのだった。

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