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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第三章 王都動乱ー準備ー
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第33話《フリーター》VS《罠師》前半戦

「あぁ、風が涼しいな」

「そうだろう。これが良いんだよ。前の世界みたいな人間の手で開発されきった死んでいる世界じゃ味わえなかった感覚だ」

「死んでいる? 」

「いや、気にするな。ただの個人の見解だ」

「そう、か……? 」


 そういう風には聞こえなかったが、という言葉を番野は喉元に留めた。それは、特に追求する必要も無いと判断したからだ。


(余計な事言って模擬戦の時に変な事されても困るしな……)


 うんうんその方が良い、と番野は一人で頷いた。


 そして、同時に番野は八瀬の後ろをついて行く中でこんな事も思っていた。


(だが、それにしても一体どこに行くつもりなんだ? もう街からは離れてるのに……)


 番野にしてみれば、隠れ家を出る際に夏目なつめが言っていた「迷惑のかからない場所」にはとうに入っていると言うのに、何故八瀬はまだ歩いているのか。どこに向かっているのかという疑問が番野の頭の中に湧いていた。


 そのすぐ後、それまで目立った音を立てていなかった八瀬の足が突然、ガサリ、という音を立てて踏み出された。


 八瀬の入っていった場所は、背の高い木々が生い茂る森だった。


(森、か。まあ、特別な力で戦うんだから人目につかない方が良いんだろうが……)


 同じく森に入っていった番野は、森という場所の条件の悪さに舌を巻いた。


 外から見てもそうであるが、中に入ってみると、一本一本の木の幹が太いせいで道が入り組み、場所によっては視界が遮られている箇所もある。

 それに加え、地面も固いアスファルトとは逆の柔らかい腐葉土が主である為か、時折足が地面に沈み込むのだ。


(自分の有利な場所に誘い込んだってとこか。こんなぬかるんだ地面じゃスタートダッシュも満足に切れない。

 だがーー)


 そうはさせるかと、番野は臨戦態勢に入る。

 すると、番野の前を歩く八瀬が立ち止まると、番野の方に向いて言った。


「ここらで良いだろう。準備は良いか? 」

「時間は残り十分ぐらいか。そっちの方こそ準備は良いのか? 」

「おう。十分過ぎる程にはな」


 そう言って八瀬は自信あり気な笑みを浮かべた。


(やっぱりな。てことは、こいつはこの特徴的な地形を余すところなく使ってくる……! )


 八瀬は、その場に落ちている手頃な石を手に取ると軽く宙に放りながら言う。


「それじゃあ、開始はこの石ころが地面に着いた時で良いな? 」

「おい、いきなり後継を出すんじゃない。まあそれで良いさ。やろうぜ」

「オーケー。そんじゃ、行くぜ」


 すると、八瀬は手に持っている石を宙に放った。


(こいつの職業ジョブは確か《罠師》だったな。だが、俺はまだこいつが戦っているところを一度も見た事が無い。だから全く能力の詳細は分からないが、そこは戦いながら探っていくしかないか)


 その時。

 ーーカンッ、と石と石とが衝突する音が静かな森に木霊した。


「『転職チェンジ』ーー!! 」


 瞬間、地面が爆発した。


「ッ!!? 」


 番野は地面を蹴った勢いで八瀬との距離約三メートルを一瞬にして縮めると、剣を抜き一閃する。


「くおッ!! 」


 八瀬はその一撃を紙一重で躱すと、距離を取るべく後ろに跳んだ。


(反応が速い。だが、体がついてこられない速度で攻撃すれば! )


 番野は体勢を立て直すと次の踏み込みを掛ける為に片足を上げる。


「一つ忠告をしとくとなあッーー」

「何? 」


 八瀬は次の一歩を踏み込もうとする番野を見ながら言った。


「俺と戦う時は、手前てめぇの周りをバッチリ警戒しておく事だ」

「ーーなっ!? 」


 八瀬が言い終わるのと番野の顔が驚愕の色に染まるのはほぼ同時であった。


 全体重を掛けて踏み出した番野の右足は、着くべき筈の地面に着かず、その下へと落ちた。


(落とし穴ッ!?)


 《勇者》の効果によって強化された脚力を十分に使った踏み込みだった為、バランスを崩された番野の体は凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。


「ぐっ……!! クソッ……」


 毒突いた番野は、一瞬前まで眼前にいた筈の八瀬がいなくなっている事に気付く。


「どこに行った……? 」


 落とし穴から抜け出した番野は立ち上がって周囲を見回す。


(俺と戦う時は、手前の周りを警戒しておく事、か。もっとも過ぎる忠告で腹が立つ。だが、一つ気になる事がある)


 番野は足元の落とし穴に視線を移す。


(この落とし穴は、もともとあいつがいた場所に掘られている。

 だが、あいつはこの森に入ってから一度も穴を掘るような素振りなんて全く見せていない。

 まさか、事前に見越して掘っていたのか? )


 どうにも分からない。番野は視線を前に戻すと、最大限に警戒しながら歩き始めた。


 足元を、目の前を、背後を、手元を、横合いを、そして己の周囲を囲む全てに注意を向ける。いつ、何が起こっても対処できるように。


 だが


「あ」


 クン、と足に何かが引っかかるような感触が走る。

 その直後、空中から先を鋭く加工された幾本もの木の棒が番野へと降り注ぐ。


「野郎、殺る気満々じゃないかっ!!? 」


 ワンテンポ遅れてそれらの接近に気付いた番野は、咄嗟とっさに前方へ転がる。


 しかし、その行動が仇となった。


 慌てて前転した番野の体に先刻と同じ感触が同時に数箇所から伝わる。


(しまったっ! )


 番野は素早く上体を起こすと、地面から顔を出した竹槍を左手で掴み、右手で持った剣で半ばから切り落とした。


 続いて、今にも番野の身を押し潰さんと両脇から迫る大きな丸太を、回避は間に合わないと判断した番野は切り落とした竹槍と剣とを左右に突き出す。


「ふんっ!! 」


 衝突の瞬間、ズン、と重い衝撃が番野の腕に走る。


(重っ……!! 普通の状態じゃ、まず受け切れないな……。だが、一瞬時間を稼げた!! )


 案の定、ミシミシと悲鳴を上げて折れ曲がる竹槍を離した番野はすかさず身を屈める。


 そのすぐ後、両方向から迫っていた丸太は互いに衝突し、大きな鈍い音を立てた。


 番野はその姿勢のまま次の罠に対して身構える。


 しかし、五秒、十秒と経っても動きが無い事でひとまず凌ぎ切ったと安堵の息を吐いた。


「クソ。こんな大仰な罠をいつの間にせっせこ作って仕掛けたのか知らないが、まるで俺の行動が読まれてるみたいに仕掛けてあるのに余計に腹が立つ」


 そう言った番野は、憂さ晴らしに手頃な高さで宙吊りになっている丸太を斬りつけた。


(これ、全部計算されて設置されてんのか?

 それに、まだ《罠師》の能力についてもさっぱりときた。

 こいつは、思ってたより強敵だぞ……)

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