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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第三章 王都動乱ー準備ー
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第32話 触れられたくない事

「ーーッ!!? 」


 ギラリと鈍く光る刃物を首筋にでも突き付けられたのかと思う程の緊張が番野つがのの全身を支配した。


『なに……? 』


 そう言って細められた八瀬やぜの瞳をまるで辺り構わず傷付けるナイフのようだと番野は錯覚したのだ。余りの緊張に番野は生唾を飲む。


(人には必ず一つか二つは絶対に触れられたくない事があるって言うが、俺はそいつにちょいと触れてしまったのかもしれない。

 臆病な小動物程度なら殺せそうな程のプレッシャーだ……)


 ツーッと頬を伝う冷たい雫を感じた番野は前言を撤回しようとする。


「悪い。失言だった」

「いや、俺も悪かった。“偶然”庭に踏み入られたくらいでキレちまうなんてよ。カルシウム不足かもしれねぇな、ははは」


 そう、先程見せた威圧的な雰囲気が無かったかのように笑う八瀬だが、それが最初で最後の警告だと言う事を番野は感じ取った。


『今は笑って許してやるが、次は無い』


 八瀬の心中が番野には良くも悪くも手に取るように分かった。


(夏目にも秘密にしてるってことは、こいつにとって相当重要な事らしい。

 一時的にだが協力関係を築く以上、ある程度の情報は出して欲しいもんだが……、こんなところで仲間割れしたんじゃ協力も何もあったもんじゃない。ここは素直に引き下がるか)


 そして、番野は背もたれに体を預けて、これ以上は何も聞かないという意思を示した。


 八瀬はその様子を見て、安心したように一息つくと、コップの茶を飲み干した。

 茶は既に冷めていたが、それはそれでまた別の美味さがある、と口に残る特有の香ばしさを噛み締めると、八瀬は後ろを向いて言った。


「夏目。あとどれくらい掛かりそうだ? 」

「そうですねぇ。あと十五分もあればできると思いますが、どうしましたか? 」


 食材を切る音と共に聞こえて来た言葉に八瀬は嬉しそうな笑みをこぼした。


「ま、ちょいと“運動”でもしようかと思ってよ。出来たら報せてくれ」

「“運動”、ですか……。他人の迷惑にならない場所と程度にしてくださいね」

「よしきた。という訳だ。番野、ちょいと外で体動かそうぜ? 」

「どういう事だ? 」

「言っただろ? ちょいと外で体動かそうぜって言ってんだよ」

「…………」


 チラッと番野が夏目の方を見ると、夏目は前を向いたまま自分の頭の横で親指を立てた。


(グッドラックってか? 任しとけって)


 それに笑顔で応え、番野は八瀬を伴って外に出た。


 今が夕方と夜の境目という時間帯という事もあってか、外は緩やかに風が吹き、沈みかけている太陽の陽光が空を鮮やかなオレンジ色に染め上げている。


「綺麗だな……」

「そうだろう。それに風も丁度良い具合に吹いてる。絶好の運動環境だ」

「まあ、それもそうだが、一体どこで何をしようって言うんだ? 」

「ああそれな。

 夕飯が出来上がるまでに、憲兵団長の襲撃から生き延びたお前の戦闘能力の把握も兼ねて、お前と模擬戦をしようと思ってな。なに、死にゃしねぇよ」

「模擬戦で殺されても困るんだけどな……」


 番野が困った風に言うと、八瀬はサッと身を翻して門へと歩き始めた。


(模擬戦、か。“あいつ”がいなくなって以来、久し振りにやるから加減を忘れてないか心配だな)


 番野は何度か拳を握り込んで感触を確かめると、八瀬の後について門をくぐった。

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