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俺が《フリーター》で彼女は《勇者》で。  作者: 鷹津翔
第三章 王都動乱ー準備ー
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第31話 四方四カ国同盟

 場所は変わって、王都の片隅にひっそりと佇む番野つがのらの隠れ家。


 ここでは、これからの予定を決めようと言う八瀬やぜの提案で話し合いが行われていた。


「目的は話した通り、現王政に対するクーデター。これ自体の実行は今日から二週間後に東の大国『サヘラン』で三日間に渡って開かれる、『四方四カ国同盟』の軍事会議に憲兵団長が出席するのに乗じて決行する予定だ。

 さて、今からはそれまでの間に何をするかを話し合いたいと思っている」

「はい、その前に一つ質問」


 丁寧に挙手をして言った美咲みさきに八瀬は目線を向ける。


「なんだ? 」

「話の中に出てきた『四方四カ国同盟』について教えて欲しいわ。知っておいて損は無さそうだし」

「分かった。確かに知っておいて損は無いかもな。んじゃ夏目なつめ、任せた」

「…………」


 と、軽い調子で言う八瀬に非難の視線を向ける夏目。そして、彼女は目で訴える。頼むにしても頼み方って物がありますよね、と。


「お願いします」

「分かりました。では、簡単に説明します。この同盟には、『アウセッツ王国』を含めた計五つの国が加盟しています。

 北の新王国と呼ばれる『アウセッツ王国』、東の交易大国『サヘラン共和国』、西の商工業大国『ロッサム王国』、南の軍事国家『クラレス第一帝国』の東西南北に位置する四カ国が加盟しています。

 そして、主には各国間での関税撤廃、共通通貨の使用、技術提携、軍隊の提携などの役割を担っています」

「ふむふむ」


 夏目の説明に美咲はうんうんと頷くと、夏目に問い掛けた。


「それじゃあ質問。

 サヘラン共和国で開催されるって言う軍事会議に乗じて決行するって言ってたけど、必ずしもその日に四カ国それぞれの戦力が全てそこに集まる訳じゃないでしょ?

 て事は、クーデターを起こしても同盟国に気付かれたら王都を包囲される可能性だってあるわよね。それの対策は考えてあるの? 」


 美咲の問いを隣で聞いていた番野は内心で美咲に感心した。


(確かに。国内でクーデターが起きれば即座に伝令が早馬を飛ばして会議場なりなんなりにそれを伝えるだろう。

 サヘランまでの距離がどれくらいかは分からないが、恐らく1日もあれば到着するだろう。

 それから王都を包囲するのに何時間掛かるか……。寝起きの頭でこれに気付くとは、美咲もやればできるじゃないか)


 隣でなかなかに失礼な事を思われているとはいざ知らず、美咲は夏目からの返答を待つ。


「…………」


 しかし、夏目はそこまで把握しきれていないのか困った様子を見せる。

 すると、そんな姿を見かねた八瀬が言う。


「その質問には俺が答えよう。

 まあ単刀直入に言えば、同盟国の軍隊を直接どうこうできるような対策は考えられてない。って言うか思い付かない。

 だから、軍隊が王都を包囲するより前に事を終結させる。それを成す為に今からの期間何をすべきかをここで話し合おうとしてるってことだ」

「納得納得」

「なるほど。そういう事か」


 納得したと言う二人の反応を見て八瀬は、ようやく始められそうだと内心で思った。


「そういう事だ。俺からは、少しでも効率を上げる為にいろいろと工作する事を提案するが、他に何か意見はあるか? 」

「ある」


 その問い掛けに初めに反応したのは番野だ。


「一番の問題だった憲兵団長がここからいなくなるとは言っても、やっぱり相手は訓練されてる兵士だ。いざって時に体が動かなかったらそこで終わりだ。

 だから、体が鈍らないように模擬戦みたいなのをやれば良いんじゃないかと思う」


 番野の意見を聞いた八瀬は「良いな! 」と賛成する訳でなく「いやダメだ」と反対する訳でもなく、驚いたような表情をしていた。


 番野はそんな様子の八瀬に怪訝な調子で言う。


「俺、なんか変な事言ったか? 」

「ああいや、なんつーか、割と真面目な事を言ってきたもんだから驚いたんだよ」

「お前の中で俺はどんなキャラしてるんだよ……」

「他には何かないか? 」

「ハイハイ無視ですかそうですか」


 ムスッとした様子で言い放つ番野を尻目に次は美咲が発言していく。

 こうして、その後二十分程話し合いが続き、響いてきた夕方を報せる鐘の音を機にひとまず終結した。


 ○ ○ ○


 ぐぅぅ、と言う間抜けた音を立てたのは誰の腹の虫だろうか。


 腹の虫の宿主は背もたれを利用して伸びをすると、その態勢のまま言った。


「はーら減ったー。飯の準備しようぜー? 」

「だらしないなぁ、番野君は。とまあ、そういう私も本音を言えば今すぐにでもご飯を食べたいところだけど。八瀬君、食料はあるの? 」

「ああもちろん。主に保存のきくもんがざっと二週間分ぐらいか? 」


 すると、キチンと把握していないような言い方をする八瀬に美咲が怪訝な表情をして尋ねる。


「ねえ、なんで疑問形なのよ? 」

「あ? まあ食料の管理と家事の八割は夏目に任せてるからな。詳しくは知らん」

「はあ? 」


 と、甲高い声で言ったのは美咲だ。

 美咲はそのままの勢いでまくし立てるように言う。


「八瀬君、あなたこんな小さな子をそんなに働かせて自分はゆったりとくつろいで生きてるなんて恥ずかしくないの!? 」

「なんだか今さらっと生きてる価値を否定された気がするが、気にしないでおこう。

 だが勘違いするなよ?

 これは夏目が自主的にやっている事であって、俺は何も強制はしていない。俺はただそれに甘えてるだけだ」

「はい。師匠は基本何もしていません」

「言い方に難があるな……」


 横から投げられた言葉の槍に胸を突かれた八瀬は一瞬苦い顔をする。


「それが問題だって言ってるんだけど……。でも本人が自分からやってる分には私からは何も言えないわねぇ」

「飯ー飯ー」

「はいはい分かった分かった。そういう事で夏目ちゃん。隣がうるさいから早く作っちゃいましょ」

「そうですねっ」


 夏目は弾むような声で言うと、音を立てないように丁寧にイスから立ち上がった。美咲もそれに続いて立つと、楽しげに二人でキッチンへと入って行った。


「…………」

「…………」


 男二人だけになったリビングは先程までの雰囲気が一切消え去り、静かになっていた。


 八瀬は顔の前で手を組んでどこか虚空を見つめ、番野は背もたれにもたれ掛かってぐったりと脱力した態勢のままだ。


 果たしてこんな状態が女子二人の料理が終わるまで続くのかと思われたその時。ふと、番野がそのままの態勢ではあるものの、ゆっくりと口を動かして言った。


「八瀬よ」

「あん? 」

「お前、もしかして夏目にすら言ってないような秘密があるんじゃないのか?」

「なに……?」

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